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〜転生した元勇者は世界一のVtuberを目指す〜  作者: ina
第1章 Vtuber準備編
16/26

第15話 修学旅行①

空港まではバスで向かうことになっている。


校庭に停まっていた大型バスは、いつもより少し特別に見えた。


フロントガラスに貼られた「修学旅行」の紙が貼られている。


出発式と朝の会が終わると、先生の指示により順番に乗り込んでいく。


「葵ちゃん!隣いい?」


「もう座る気でしょ」


「うん」


桜は当然のように葵の隣に腰を下ろした。


バスがゆっくりと動き出す。


窓の外で、先生たちや保護者の姿が小さくなっていく。


その中に、父と母の姿も見えた。


父がやたら大きく手を振っている。


……目立つ。


「手振らなくていいの?」


桜が肘でつつく。


「もう振った」


そう言いながらも、ほんの少しだけ窓に手を上げた。


バスが角を曲がると、家族の姿は見えなくなった。


胸の奥が、少しだけ静かになる。


背もたれに身体を任せると車内はすでににぎやかだった。


桜も同様。


「葵ちゃん!」

「お菓子持ってきたから一緒に食べよ!」


「まだバス乗ったばっかだよ?」

「はやくない?」


「いーの!いーの!」

「ね?食べよ!」


桜の勢いに負け、俺も周りの熱に浮かされる。


「まぁ、いいか」


小袋を開ける音が重なる。


甘い匂いが広がる。


窓の外の景色はどんどん流れていくのに、車内だけは時間が早送りみたいに騒がしい。


笑い声、写真を撮るシャッター音、誰かの「まだ着かないのー?」という声。


その全部が、今日が特別な日だと教えていた。


やがてバスは減速し、大きな建物の前で止まった。


胸が、ひとつ強く鳴る。






—————




——空港


「葵ちゃん!空港見えたよ!」


桜が窓に張りつく。


「……うん」


自分でも分かるくらい、声が低い。


「……? どうしたの?」


「いや……」


視線の先。


ガラス越しに見える白い機体。


大きい。


想像以上に。


「……もしかして飛行機怖い?」


図星だった。


「鉄の塊が空を飛ぶとか……」


無意識に理屈が口をつく。


「それに身を任せる神経が分からない」


桜がじっと見ている。


「私だったら桜も安全に連れてけるのに……」


ぽろっと本音が漏れる。


自分で飛べるのに。


自分なら守れるのに。


なのに今は、ただ乗るしかない。


「ちょっと!葵ちゃん!」


桜が両手で俺の頬を挟む。


「目にハイライトないよ!」


「っあ、あぁ、ごめん」


現実に引き戻される。


桜はふっと笑った。


「大丈夫だよ!」


力強い声。


「飛行機乗る時、手繋いであげる!」


子どもみたいな宣言。


だけど、その言葉が思った以上に救いだった。


バスのドアが開く。


先生の声が響く。


「忘れ物ないかー? 順番に降りろー!」


立ち上がると、足が少しだけ重い。


それでも。


桜が先に降り、振り返る。


「ほら、行こ」


手を差し出してくる。


一瞬迷って、そして——


そっと、その手を取った。


空港の自動ドアが開く。


冷たい空気と、独特の匂い。


高い天井。


行き交う人。


そして、ガラス越しに見える巨大な飛行機。


心臓が、また大きく鳴る。


それでも。


隣のぬくもりは、ちゃんとある。


「……離陸のときだけだからね」


小さく呟くと、


桜はにやっと笑った。


「うん。怖くなったら、ずっと繋いでてあげる」


その笑顔を見て、


ほんの少しだけ、恐怖の輪郭がぼやけた。



先生の指示に従い、列になって空港の中へ入る。


床はつやつやしていて、足音がやけに響く。


周囲には旅行客らしい人たちが行き交い、キャリーケースの車輪の音が絶えず聞こえていた。


「うわぁ……広……」


桜がきょろきょろと見回す。


その横で、葵はガラス越しの滑走路から目を離せなかった。


ゆっくりと移動する飛行機。


あの巨体が、空へ上がる。


胸がざわつく。


「葵ちゃん?」


「……見てるだけで心臓に悪い」


「まだ乗ってもないのに?」


「だから怖いんだよ」


桜がくすっと笑う。


チェックインを済ませ、手荷物検査へ進む。


カゴに荷物を入れ、ベルトコンベアへ。


金属探知機のゲートをくぐる瞬間、なぜか変に緊張する。


——ピッ


鳴らない。


「セーフ」


「何と戦ってるの?」


「自分」


桜は楽しそうだ。


搭乗口前の椅子に座る。


大きな窓の向こうに、これから乗る機体が止まっている。


近くで見ると、本当に大きい。


「……あれが飛ぶの?」


「飛ぶよ」


「本当に?」


「うん」


即答だった。


桜は立ち上がると、窓際まで歩いていく。


「ほら見て、翼。あれで浮くんだよ」


「理屈は分かる」


「じゃあ大丈夫」


「理屈と感情は別」


桜は少しだけ真面目な顔になった。


そして、葵の隣に戻ってくる。


「怖くなったらさ」


「うん」


「目、閉じてていいよ」


「それはそれで怖い」


「じゃあ、わたし見てな」


一瞬、意味が分からず桜を見る。


「わたし見てたら怖くないでしょ?」


自信満々に言う。


思わず小さく笑ってしまう。


「……そうかも」


搭乗アナウンスが流れる。


「〇〇便、ご搭乗を開始いたします——」


その声だけで、心臓が跳ねた。


「来たね」


桜が立ち上がる。


列がゆっくり進む。


ボーディングブリッジへ足を踏み入れた瞬間、外の機体がすぐ横に見えた。


近い。


白い胴体が視界いっぱいに広がる。


「でか……」


思わず呟く。


「でしょー?」


桜は楽しそうだ。


機内の入口。


客室乗務員の穏やかな声。


「いってらっしゃいませ」


一歩、中へ入る。


独特の匂い。


少しひんやりした空気。


細い通路を進み、自分たちの座席を探す。


「ここだ」


桜が窓側を指す。


「え、わたし?」


「初飛行でしょ?」


「だからって」


「景色見た方が楽しいよ」


半ば押される形で窓側に座る。


シートに身体を沈める。


シートベルトを引き寄せ、カチリと音が鳴る。


その音がやけに重く感じた。


隣に桜が座る。


「手」


差し出される。


少しだけ迷ってから、そっと握る。


温かい。


エンジン音が低く響き始める。


機体がゆっくり動き出す。


胸の奥が強く鳴る。


「葵ちゃん」


「……なに」


「大丈夫だよ」


その一言が、静かに心へ落ちた。


滑走路へ向かって進む機体。


窓の外の景色が、ゆっくりと流れていく。


葵は、桜の手を少しだけ強く握り返した。


いよいよ——離陸だ。





機体はゆっくりと滑走路へ向かう。


窓の外を、空港の建物が静かに後ろへ流れていく。


「もうすぐだね」


桜が小さく言う。


「……うん」


短い返事。


手は、まだ繋いだまま。


滑走路で一度止まる。


低く、重いエンジン音が機体の奥から響いてくる。


胸の鼓動と、音が重なる。


次の瞬間——


ぐっと身体がシートに押しつけられた。


「っ……!」


加速。


景色が一気に流れ出す。


建物が、地面が、線みたいに後ろへ消えていく。


速い。


思ったより、ずっと。


桜の手を強く握る。


「大丈夫、大丈夫」


隣から声がする。


そして——


ふわり。


一瞬、身体が軽くなる。


振動が変わる。


地面の感触が、消えた。


「……え」


思わず窓を見る。


滑走路が、遠ざかっている。


建物が小さくなる。


道路が、ミニチュアみたいに見える。


飛んでる。


本当に。


鉄の塊が、空を。


「……飛んだ」


呆然と呟く。


胸の奥にあった重たい塊が、少しずつ溶けていく。


怖いよりも先に、


「……すご」


その言葉が出た。


桜が嬉しそうに笑う。


「でしょ?」


雲が近づいてくる。


太陽の光が翼に反射して、きらりと光る。


葵は、まだ繋いだままの手に気づいて、


少しだけ力を緩めた。


「……思ってたより、大丈夫かも」


そう言うと、


桜は誇らしげに胸を張った。


「だから言ったでしょ?」


機体はさらに高度を上げ、


街はもう、小さな模様になっていた。


葵は窓の外を見つめたまま、


静かに息を吐く。


未知は、まだ少し怖い。


でも今は——


それ以上に、きれいだった。

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