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〜転生した元勇者は世界一のVtuberを目指す〜  作者: ina
第1章 Vtuber準備編
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第10話 運動会③

『走者の紹介をします』


アナウンスが校庭に響く。


『1番走者、1年1組——みずしま りんちゃん』


「はい!」


名前を呼ばれた子が、元気よく返事をする。


『2番走者、1年1組——たかはし しんじくん』


『3番走者、1年2組——よつは かすみちゃん』


順番に名前が呼ばれ、走者たちがそれぞれ短く返事をしていく。


そして——


『4番走者、1年2組——きさらぎ あおいちゃん』


俺の名前が呼ばれた瞬間、

周囲がざわついた。


「何あの子? 芸能人?」

「顔、整いすぎでしょ」

「飛び抜けて可愛い子いない?」

「整形?」

「二次元みたい……」

「なんかやってるんじゃない?」


好奇の視線と、遠慮のない声。

様々な感情が、遠くから押し寄せてくる。


……やっぱり、目立ってるな。


そんな空気を切り裂くように——


「あおいーー!! がんばれーー!!!」


一際大きな声援が飛んだ。


声のした方向を見るまでもない。

保護者席に立っている、俺の父だった。


その横には母、そして桜の両親の姿もある。


「葵ー! がんばってー!」

「転ばないでねー!」


三人そろって、負けじと声を張り上げている。


もちろん——


「あおいちゃーん!! がんばってぇー!!」


桜の声も、はっきりと聞こえた。


……そうだったな。


俺が何もしなくても、

もう十分すぎるほど目立っている。


だったら今さら、

どう走ろうと大して変わらないか。


『位置について』


アナウンスに従い、構える。


校庭の空気が、一気に張りつめる。


『よーい』


一瞬の静寂。


『ドン!』——パンッ。


乾いた音と同時に、

俺は地面を蹴った。






————


今までの運動会の練習で、

俺が本気で走っていなかったわけじゃない。


むしろ逆だ。


露骨に手を抜けば、

「本気を出してない」とすぐにばれてしまう。


だからこそ俺は、本気で走った。

その上で——


自分自身に、身体能力を下げる魔法をかけていた。


速度も、反応も、脚力も。

周囲と違和感が出ない程度まで、丁寧に落とす。


そうすれば「普通に頑張っている子」に見える。


つまり、

“全力で走って、全力で隠していた”というわけだ。


だが今回は違う。


身体能力を下げる魔法は、かけない。


かといって、

足が速くなる魔法を使ったわけでもない。


強化もしない。

加速もしない。

補助もない。


今回は——


何もしない。


それだけだった。




————



『ドン!』——パンッ。


乾いた音と同時に、地面を蹴る。


考えるより先に、身体が前へ出た。

——いや、正確には「いつも通り」に出ただけだ。


周囲の子たちも一斉に走り出す。

最初の数歩は、横並び。


(……あ)


すぐに気づいた。


速いとか、遅いとか、そういう話じゃない。

感覚が違う。


今までの“抑えられた身体”と違って、

地面を踏む感触がやけに軽い。


一歩、一歩が自然につながる。

力を入れた覚えはないのに、前に出る。


気づけば、半歩。

次の瞬間には、一歩。


視界の端で、隣の子の距離が少しずつ開いていく。


(ああ……)


何もしていない。

本当に、何も。


それなのに——


風切り音が変わる。

観客席のざわめきが、どこか遠くなる。


「速い」


誰かの声が聞こえた気がした。


ゴールは、まだ先だ。

でも、足は止まらない。


止めようとも思わない。


ただ前を見る。

白いラインだけを。


最後の数歩で、さらに一段、身体が前に出た。


——そして。


ゴール。


ラインを踏み越えた瞬間、

遅れて、足音がいくつも響いた。


振り返ると、

他の走者たちが少し後ろにいる。


一瞬の静寂。


次の瞬間——


「……え?」


「はや……」


「今の、1年生?」


観客席が、どっと騒ぎ出す。


俺は、ただ息を整えながら、

胸の奥で小さく思った。


(まぁ、悪くない)




少しして、アナウンスが入る。


『ただいまの、1年生100メートル徒競走の結果を発表します』



『第1位――1年2組、きさらぎ あおいちゃん』


一拍遅れて、歓声が弾ける。


「わぁ……」

「やっぱり速い……」

「え、普通に走ってあれ?」


そんな声があちこちから聞こえた。


俺は小さく息を吐いた。

やっぱり、こうなるよな……。


そのとき。


「――あおいちゃん!!」


聞き慣れた声が、真っ直ぐ飛んでくる。


振り向くと、桜が満面の笑みでこちらに手を振っていた。

今にも駆け寄ってきそうな勢いだ。


「すごいよ!いちばんだよ!!」

「……うん」


近くまで来た桜は、目をきらきらさせて俺を見上げる。


「ね、ね!ほんきではしったでしょ?」


「……まあ、今回は」


「やっぱり!すっごくはやかったもん!」


自分のことのように嬉しそうに笑う桜を見て、胸の奥が少しだけ軽くなる。


「でもさ、あおいちゃん」

桜は少し首をかしげて、続けた。


「走ってるとき、なんか……楽しそうだった」


その一言に、言葉が詰まった。


楽しそう、か。


「……そう見えたなら、よかったよ」


桜はうんうんと大きく頷いて、また笑った。


「えへへ。つぎもがんばろ!」


「うん」




1年生の短距離走が終わり、

続いて2年生、3年生と競技は進んでいく。


学年が上がるにつれて走る距離も同じはずなのに、

スピードも迫力もまるで違って見えた。


「はや……」

桜が思わず声を漏らす。


そうして、

すべての学年の走りが終わり――


第1種目、100m短距離走は無事に終了した。



——


次の競技は、1年生による綱引き。

今回は1組・2組・3組の3組勝負だった。


三方向に伸びた綱の中心に印があり、

それぞれの組が自分の陣地へ引き寄せ合う形になる。


「3つもあるの?」

桜が少し驚いたように綱を見る。


「最初に一番引き寄せた組の勝ちだって」

そう説明しながら、俺も持ち場につく。


『よーい――』


『始め!』


合図と同時に、三方向から一斉に力がかかる。

綱の中心がぐらりと揺れ、どこにも動かない。


「いま、どっち!?」

「わかんない!」


周囲からも混乱した声が上がる。


桜は歯を食いしばり、

「えいっ、えいっ!」と声を出しながら必死に引いていた。


しばらく耐えるような時間が続いたあと、

中心の印が、少しずつ――こちら側へ動く。


「きてる!」

「このまま!」


『――勝負あり!』


合図と同時に力を抜き、

何人かが勢い余って尻もちをついた。


「やったー!」

桜が両手を上げて喜ぶ。


「頑張ったね」

そう言うと、桜は息を切らしながらも満足そうに笑った。


運動会は、

思っていたよりも賑やかで、

少しずつ――楽しいものになっていった。


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