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婚約者を妹に奪われた次は、男色公爵と偽装結婚ですか!? ~隠れた溺愛は重すぎるようです~  作者: てんつぶ


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27 私がやると決めたら頷く、ほしいと言ったら差し出す

「シトリー、離れなさい」


 自分で考えていたよりも冷たい声がルネから飛び出た。

 ただ注意をしようとしただけなのに、なんだか突き放したような言葉になってしまった。

 案の定、シトリーは眉根を寄せて唇を結ぶ。

 だがそれも一瞬だ。シトリーは花もほころぶ笑顔を見せる。


「そうよね、ごめんなさいお姉様」


 聞き分けよくスッと立ち上がったシトリーに、ルネは胸を撫でおろす。

 扉へ向かいかけたシトリーだったが、すぐに振り返り「そうだわお姉様、ちょっといいかしら」とルネを呼ぶ。

 ジュールと父に目配せをすると、二人とも行ってこいと視線で答えてくれた。

 なにかあったのだろうかと、呼び出されるがままに一緒に廊下へ出た。

 扉が閉まった途端、シトリーの表情からスッと笑顔が抜け落ちた。


「ねえお姉様。私、言ったわよね? ジュール様をちょうだいって。なに結婚の挨拶に来てるの? そこは私を紹介して、代わりに妹と結婚してくださいって頭を下げるべきじゃない。気がきかないわね」

 シトリーは腕を組み、顎を上げて聞き分けのない子供のようにルネを見た。

 見たことのない妹の態度に、ルネは驚いてすぐに反応できなかった。


「はあ。いい? 今日のところは私とジュール様の出会いってことで許してあげる。今からジュール様と庭園で愛を育むから、お姉様は部屋に残ってて」

「そんなこと……できるわけないわ」

「できるとかできないとか。そういうのお姉様には聞いてないの。私がやると決めたら頷く、ほしいと言ったら差し出すのがお姉様がするべきことなのよ? 忘れたの?」


 明け透けな本音をぶつけてくる妹に、ルネは怒りよりも先に悲しくなった。

 今までずっとルネなりにシトリーを妹として可愛がってきたつもりだった。

 母が亡くなってからは一層、シトリーを大切にしてきたというのに、彼女にとってルネはただ都合のいい存在でしかない。


 可愛かったシトリーは、ルネの幻想だったのだ。


 いや、シトリーが幻想をみせてくれていたのかもしれない。ただ母の希望通りに可愛がってきただけの、ルネの思惑を見抜いていたのかもしれない。

 思い出と共に姉妹としての愛情がガラガラと崩れ落ちていくようだ。そもそもそんなもの、シトリーには元々なかったのかもしれないが。


「お姉様は黙って部屋に残ってるだけでいいわ。私がニッコリ笑って落ちない男はいないもの」

「……できないわ。大人しく部屋に残るのはシトリー、あなたよ」


 震える声で、ルネは精一杯の勇気を振り絞り、シトリーの命令に抵抗した。

 思えばこんな風にシトリーに対抗するのは初めてのことだ。

 いつだってなんだかんだと、結局最後にはルネが折れて、なんでも譲っていた。

 しかしシトリーにしてみれば、これもルネが折れる手前の悪あがきに感じているのだろう。シトリーはフンと笑い、顎を上げる。


「あら、いいのかしら。お姉様は大事な妹を嫉妬で追い出す女だって、ジュール様に幻滅されちゃうわよ?」

「嫉妬じゃないわ。それにジュール様はそんな方じゃない」

「私が訴えれば、なんでも事実になるわ。知ってるでしょ?」


 この脅しにはルネも黙るしかなかった。

 今まで何度、シトリーの言い分が通ってきたか痛いほど知っているのだ。

 父親であるベルトラン伯爵も、ルネよりもシトリーを優先することが多い。それは容姿の差などではなく、純粋に父の引け目のようなものもあるだろう。それに母の遺言も影響している可能性もある。

 どちらにせよこの家では、シトリーの希望が通りやすい事実があった。


 一歩家の外に出ればそれはより顕著なものだった。精霊か花の化身か、そう噂されるほどシトリーは可愛らしい。特に男性の保護欲を刺激するタイプだった。

 そんなシトリーが庭を案内するというのだ。

 もしかするとジュールも嬉しいかもしれない。


(でも……嫌だわ)


 シトリーがジュールに相応しくない理由は、いくらだって羅列できる。

 だが今ルネの胸の中に渦巻くのは、単純にルネが「嫌だ」と感じる気持ちだ。シトリーをジュールに近づけたくない。

 返事をよこさないルネを、シトリーはジロリと冷たい視線を送る。


「公爵様に選ばれて、偉くなったつもり?」

「そんなつもりじゃ」

「ラヴィオなんかより、いい相手を捕まえたって思ってるんでしょ?」

「思ってないわ。どうしてそんなことを言うの?」

「どうせ今だけなのにね。ジュール様もお姉様なんかで妥協するんだからお可哀想」


 なにを言い返しても暖簾に腕押しで、シトリーはルネの話を全く聞いていない。

 一向に話が通じないのだ。

 彼女の頭の中ではいったい、どんな筋書ができているのかと思うとそら恐ろしかった。


「その真珠も、お姉様には分不相応よ。ぜーんぜん、似合ってない」

「あ……」


 シトリーは腰に手を当てて笑う。人を見下した、嫌な顔だ。

 思わずルネは自分の髪の毛を押さえた。手のひらの中に真珠の感触がある。

 その行動はシトリーにとって面白くなかったようだ。眉を顰め、口元を曲げる。


「なに、お高い髪飾りを私が取るとでも思ったの? ひどーいお姉様。可愛い妹をなんだと思ってるのかしら」

「そんなつもりじゃ……」


 ない。そう言い切れなかった。だって本当に取られると思ったからだ。


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