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婚約者を妹に奪われた次は、男色公爵と偽装結婚ですか!? ~隠れた溺愛は重すぎるようです~  作者: てんつぶ


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21 ぜーんぶ、私が貰ってあげてたでしょ?

 小走りに廊下を駆け抜けるルネの頭上で、授業開始の鐘の音が響き渡る。

 自分の教室はもう目も前となったが、後ろからグイと腕を引っ張られた。


「……シトリー」

「お久しぶり、お姉様。随分楽しそうね?」


 小首を傾げ、笑顔を振りまくシトリーがそこにいた。

 学年の違うシトリーがルネの教室の前で待ち構えていたのだ。

 その目的がどこにあるのか分かって、ルネは内心大きくため息を吐いた。




 一時間目の授業を見送り、ルネはシトリーに校舎裏に連れてこられた。

 中庭と違い裏林に接する人気のないこの場所は、どちらかというと人目がなく密談向きだ。授業中という時間も相まってルネは「どうせなら婚約破棄を申し出るときもこれくらい気を使ってほしかったわ」と思う。

 連れて来たものの、ずっとルネに背を向けたままのシトリーの目的は分かっている。

 今朝の騒動が不満なのだろう。

 シトリーは可愛らしい見た目のせいで、昔からなにかと周囲に持ち上げられて育った。ルネと同じ下級伯爵家でありながら、その愛くるしい見た目と、無邪気で自信たっぷりな言動は男性を中心に人気がある。

 学園の生徒で誰が人気かと言われれば、女生徒の上位三名にはシトリーが入るだろう。

 これは姉の贔屓目ではなく、ただの事実だ。

 つい先日行われた社交界へのデビュー――デビュタントの際には、パーティーで多くの男性がダンスを申し込んだと聞いている。

 お披露目が済んでからというもの暫くは、今まで全く交流のなかったあらゆる方面からシトリーへのプレゼントが届くほどだった。

 ルネもお礼状の作成に駆り出され、大変だったことを思い出す。

 そんな華やかな存在であるシトリーにとって、姉であるルネは地味で面白みのない人間だろう。

 それなのに今朝はジュールと共に登校し、学園中の話題をかっさらったのだ。

 長年のつきあいのせいで、妹の不満が手に取るように理解できてしまう。


「ねえ、シトリー。話があるんでしょう? 黙ったままじゃ分からないわ」


 このままでは一時間目すら終わってしまう。

 ルネがしびれを切らして話しかけると、シトリーはゆっくりと振り向いた。

 顔には微笑みを張り付けたままだ。


「ねえお姉様。私、反省したの。ラヴィオのこと」


 ラヴィオとはルネの元婚約者だ。

 別れ際の暴言は、いまだ鮮明に思い出される。


「私、気付いたの。ラヴィオなんか好きじゃなかったわ。お姉様にお返しするわ」

「え?」


 シトリーの言葉が理解できず、ルネの口からは呆けたような声が出た。


「返す……?」

「ええ。だってラヴィオ、つまらないでしょう? お姉様の婚約者だったときはあんなに素敵に見えたのに、全然私に相応しくないわ」


 風に流されてきた落ち葉が、呆然とするルネの足元を擦っていく。


「だからね、お姉様。ラヴィオを返すから、ジュール様を私にちょうだい?」


 シトリーは「いい案でしょ」とコロコロと笑う。

 固まるルネは置き去りだ。

 楽しそうにクルリと回り、制服のスカートがシトリーの動きに合わせて規則的に広がる。


「ラヴィオは元通り、お姉様と結婚できる。ジュール様は、お姉様より可愛い私と結婚できる。ほら、みんな幸せになれるでしょ?」


 唇に人差し指を添え、シトリーは「ね? そうでしょ」と笑顔を向けてくる。

 自分の意見が間違っていない、誰よりも正しいものだという自信に溢れた表情だった。

「お姉様はいつも文句を言いながら、なんでも私にくれるじゃない。リボンも、ネックレスも。そうだわ、あの菫色のドレスもそう、あれはお父様からの誕生日プレゼントよね?」

「ドレスは……私には小さくなっていたからよ」


 もらったものを大事にしないと思われるのは心外だった。

 確かにシトリーが言うように、欲しがるものの殆どはあげていたかもしれない。

 だがそれは不要だったからではなく、シトリーが可愛かったからだ。

 大切な妹として、可愛がっていたからだ。


 ――ねえルネ、お願いよ。シトリーは可哀想な子供なの。姉として可愛がって。


 亡くなった母の言葉が、ルネの頭に浮かぶ。

 ルネは良い姉でいようと母の言葉をずっと守り、シトリーを大切にしてきたつもりだった。 


「そうね。だから私が貰ってあげたの」


 今まで姉として妹を大切に想っていた気持ちは、もしかしたらシトリーには何一つ届いていなかったのかもしれない。

 ルネは疑念と不安、それからえも言えぬ焦りを抱いた。

 なにが面白いのか、シトリーはルネを見ながらクスクスと含み笑いが止まらない様子だ。


「ラヴィオからもらったヘアピンもそう。お姉様に全然似合わなかったもの! あれはしょうがないけどね! あの頃のラヴィオはもう、私のことばっかりだったし」


 シトリーは両手を口元に当て、コロコロと笑う。

 それからゆっくりと笑みを深め、こう言った。


「お姉様に似合わないものはぜーんぶ、私が貰ってあげてたでしょ?」


 葉擦れの音が大きくなった。

 木々の間をすり抜けて、突風が二人の間を通る。

 ルネはようやく気がついた。シトリーにとってルネの立ち位置を。

 愚鈍な姉の持ち物すら、シトリーが管理して「あげている」と思っているのだ。


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