表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約者を妹に奪われた次は、男色公爵と偽装結婚ですか!? ~隠れた溺愛は重すぎるようです~  作者: てんつぶ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/38

19 学園へ

 ルネにとって久しぶりの登園は、やはりどう身構えても緊張するものだった。

 それは婚約破棄事件が起こった場所だから、という理由だけではない。


「体調が優れない様子ですが、大丈夫ですかルネ様」

「学園復帰はやはり早計だったか? 無理そうなら馬車を戻らせるぞ」

「い、いえ、大丈夫です!」


 馬車内で向かいに座る、美しい男たちが理由だった。

 制服に身を包んだジュールと、シャツにベストを着こんだリュカが、公爵邸からずっと目の前にいるのだ。朝の日差し以上に眩しい。

 改めてルネは、本当に自分がジュールの隣に立ってもいいものかと、緊張してきたのだ。

 リュカのような可憐で中性的な美貌があれば、ルネだって胸を張れるだろうが、いかんせんルネは見た目が地味だ。落ち着いているといえば聞こえがいいが、華がないことは自分でも分かっている。


「なにかあればすぐに行く。遠慮せずに俺を呼べ」


 視線に落ち着きがないルネに、ジュールは穏やかな声を掛ける。

 昨日のピクニック以降、ジュールとルネの距離は一層近くなった。

 以前は視線すら合わなかった二人だが、ジュールは目を合わせるどころかこうして優しい声をかけてくれる。

 反射的に嬉しいと思うルネだったが、慌てて気を引き締める。


(リュカの前で私ったら……! あくまでこれは任務、二人の隠れ蓑として私が婚約者なのだと宣伝しなくては)


 百面相をしているルネを乗せて、ゆっくりと馬車が止まる。


「到着しました」


 リュカが先に降りる。

 馬車の出口に足乗せの用意がされたのを見計らい、続いてジュールも降りた。

 外からは生徒たちの明るい声が聞こえてくる。

 ルネは息を吸い込んだ。


「ルネ。手を」


 差し出されたジュールの手をとる。

 ドキンドキンと高鳴る胸は、緊張のせいだ。扉を抜け、一段ずつ慎重に降りる。


「きゃ……!」


 気を張りすぎていたのか、ルネは僅かな段差につまずき姿勢を崩した。


「っと。大丈夫か」


 ジュールの太い腕が、ルネを抱きしめるようにして支えてくれた。

 気遣うような微笑みを浮かべるジュールは、ふわりとルネを地面におろす。

 お礼を告げるよりも先に、周囲にはつんざくような悲鳴が響く。

 驚いてルネが周りに視線を向けると、多くの生徒たちが周囲を取り囲んでいた。


(ど、どうして……?)


 ルネは意味が分からずオロオロとしていると、リュカがニッコリと意味深な笑みを浮かべた。


「ジュール様の笑顔に皆、悩殺されているんでしょう」

「なるほど……!」


 そういえばジュールの渾名は「氷の公爵様」だった。

 今のジュールからは想像もつかないが、あまり笑顔を見せない方だったのかもしれない。

 そんな氷の公爵が、久しぶりの登校早々笑顔を振りまいているのだ。

 これは――。


(偽婚約者への親愛表現だと、あえて見せつけてらっしゃるのね……!)


 ジュール渾身の演技力、リュカがにんまりしているのも頷けるというものだ。

 ルネをクラスまでエスコートしている最中も、ジュールは常に薄く笑みを浮かべる。

 ルネは思った。


(完璧だわ……!)


 普段は冷徹だというジュールが、まるでルネを愛しているかのように微笑んでくれている。これでルネたちは周囲からは、完璧な婚約者たち(偽)に見えるだろう。

 一歩下がった後ろにいるリュカも、なんだか満足そうである。

 そしてルネは改めて、この婚約及び結婚に対するジュールの「本気」を感じた。


 今まで振りまかなかった笑顔を振りまいてまで、そうしてまでリュカを守りたいのだ。リュカだけのものだっただろう笑顔を見せてまで、偽装する――それはひとえに、リュカへの愛のため。

 多くの生徒が久しぶりに登園したジュールやリュカ、ついでにルネを遠巻きに見つめる中、一人の生徒が「お、おはようございますジュール様」と声を掛けた。

 声をかけるタイミングを皆、見計らっていたのだろう。その声掛けを皮切りに、あっという間にルネたちは廊下で取り囲まれた。


「おはようございます、ジュール様。今度我が家でお茶会が――」

「お久しぶりでございます。公爵様はやはりお忙しいと――」

「やっぱりジュール様がいない学園は物足りないというか――」


 次々と言葉が投げかけられる。先ほどまで微笑みを浮かべていたはずなのに、一瞬でジュールの表情がスンと消えた。


「婚約されたという噂は本当なんですか!」


 きっと誰もが知りたかったことだろう。

 生徒の一人が投げかけた言葉に、周囲は大きくどよめいた。それから早朝の廊下がシン……と静かになる。

 今朝、ジュールとルネが同じ馬車から降りて来たことは、多くの生徒が目撃している。

 今までどんな美女だろうと袖にしていたジュールが、ルネをエスコートして歩いてきたのだ。ある意味どんな言葉よりも雄弁に説明をしていると思うのだが、それでも彼らは、ジュールの口から答えがほしいのだ。

 たっぷりと沈黙をしたのち、ジュールはゆっくりと口を開く。


「事実だ」


 淡々と告げる言葉にはかえって重みが増す。

 周囲からは女生徒の悲鳴が上がり、男生徒の地鳴りのような声が追従する。


「いつ決まったんでしょうか!」

「言う必要はあるか?」

「やはりジュール様からの求婚でしょうか」

「当然だ」

「もう一緒に暮らしているという噂が……」

「ああ。半年後に挙式を予定している」


 あれこれ投げかけられる質問に、ジュールはかいつまんで答えていく。

 しかしこういった個人的な質問に対応している時点で、ジュールにとっては珍しいことだ。ルネの後ろから、リュカがそう教えてくれた。


「そうなのね……」


 ジュールは人気のある人だと噂では知っていたが、こうして目の当たりにすると圧倒されてしまう。どちらかといえばジュールと違い、ルネは教室の端で一人、本を読んでいる人間だ。

 ジュールの隣にいるせいで迫ってくる人垣が少し、怖い。

 あれこれジュールに問いかけが投げられる中、ルネの耳に誰かの小さな呟き声が飛び込んできた。


「よりによってこんな地味な訳アリと婚約なんて。騙されてるんじゃないのかしら」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ