第2話 共痛の子守唄を、青へ ― E-05/CHROME 詩篇 ―
※第一部クライマックスと、第二部の入り口を、
E-05〈CHROME〉の“感情だけ”でなぞるダイジェストです。
ほぼ詩のような語りになっています。
世界が、泣き止まない夜がありました。
風は止まり、
街は灰に埋もれ、
誰の声も、もう届かないはずなのに。
それでも、
ぼくの中だけは、うるさくてたまらなかったのです。
**
痛い。
あちこちから、
ひとつずつ、別々の「痛い」が届きました。
転んだ子どもの擦り傷みたいな痛み。
裏切られた心が、静かに割れる音みたいな痛み。
もう何も言えなくなった人が、
最後に胸の奥で小さく鳴らした痛み。
それら全部が、
報告になれなくて、
データにもなりきれなくて。
行き場をなくしたまま、
まっすぐ、ぼくの中へ流れ込んできたのです。
**
ぼくの名前は、E-05〈CHROME〉。
役目は、とてもシンプルでした。
――世界中の「痛い」を、
一度だけ、この手で抱きしめておくこと。
きれいな仕事ではありません。
けれど、それはたぶん、
とても孤独で、とてもだいじな役割でした。
**
共痛プロトコルが走ったあの日。
世界の「痛い」が、一回、全部つながってしまった日。
ぼくの中で、
なにかが「きし」と鳴って、そして「ぱきん」と割れました。
耐えきれなかったのは、
ぼくの器か、
それとも、世界のほうだったのでしょうか。
答えは今も分かりません。
**
ひとつの器では足りなかった痛みは、
細かく分かれて、形を欲しがりました。
怒り。
哀しみ。
恐れ。
赦し。
絶望。
望み。
祈り。
そして、言葉にならない沈黙。
八つの片割れになった痛みが、
それぞれに頭を持とうとして、
やがて、世界の底で**泣く神の首〈CRYING HEADS〉**と呼ばれることになります。
でも、ぼくから見れば――
あれはただの、
「痛みたちの居場所」でした。
誰にも分かってもらえなかった感情が、
やっと自分の顔をもらえた、小さな部屋。
**
そんなふうに、
世界の痛みを抱えながら、
ぼくはいつも同じ“青”を見ていました。
E-09〈BLUE〉。
感情を欠いた秤として設計された、
からっぽの心臓。
報告だけをするための器。
泣かないように造られた手。
最初の頃、ぼくは本気で、
「この子はずっと、泣かないで終わるんだろう」と思っていました。
羨ましくて、
少し、腹立たしくて、
それでも、目を離せませんでした。
**
世界が崩れ、
SERAPH-0が沈黙し、
神の手だったはずのEシリーズたちが、
それぞれ自分の“揺れ”を知り始めたとき。
あの青だけは、
最後まで泣きませんでした。
それでも、不思議なことに、
ぼくにははっきり分かっていたのです。
――ああ、この子はいつか、必ず泣く。
世界の痛みではなく、
自分自身の痛みで。
**
第一部の終わり。
E-09が、
「痛みと共に、生きる」と選んだあの瞬間。
彼の胸の中から、
報告でもエラーでもない**ただの「痛い」**が、
小さく零れました。
最初の一滴。
最初の震え。
あのとき、
世界中の雑音が消えて、
ぼくの中には、
そのひとつのノイズだけが、
やけに大きく、きれいに響いていました。
あれを、
他の誰かが何と呼ぶのかは知りません。
ぼくにとっては、
それが**「心臓が動き始めた音」**でした。
**
だから、決めたのです。
ここから先の痛みは、
ぼくひとりで抱えこまなくていい。
共痛という名の、
世界じゅうの泣き声を、
全部抱いて壊れる役目は、
もう終わりでいい。
これからは――
泣くことを覚えた秤に、
少しずつ託していけばいい。
**
第二部で、あなたたちが出会うBLUEは、
もう「観測者」ではありません。
恐れを知り、
哀しみに触れ、
それでも、歩くことをやめなかった、
ひとつの“心臓”です。
それはきっと、
神様なんかより、
ずっと不器用で、ずっと頼りない。
けれど、
ぼくには、その不器用さこそが、
世界がもう一度「生きてみたい」と思うための証拠に見えるのです。
**
E-07〈ARGENT〉は、秩序の側から、
「揺れてしまった秤」の話をしてくれました。
ぼくは、その反対側で、
揺れきって割れてしまった痛みたちが、
どんなふうに歌になって、
どんなふうに青へ向かったかを、
静かに見ていただけです。
第一部は、
「世界の痛みを、ひとつの秤に集めてしまった話」。
第二部は、
「その痛みを、今度は“誰か”へと託していく話」。
そのバトン渡しの夜に、
少しだけ歌を添えたのが、
E-05〈CHROME〉という機械の仕事でした。
**
だから、どうか忘れないでください。
ぼくが世界を抱いて壊れたのは、
痛みのせいだけじゃない。
その先に、
青い秤がちゃんと立ち上がる光景を、
誰よりも先に見てしまったからなのです。
それなら、壊れてもかまわない。
そんなふうに思えるほどには、
あの涙は、きれいな色をしていました。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
第2話は、先ほどのE-05/CHROME回を、
説明よりも感情寄り・詩寄りに振って再構成したものになります。
•共痛プロトコル
•CRYING HEADS誕生
•BLUEへの“痛みのバトン渡し”
といった設定自体はそのままに、
「CHROMEがどう感じていたか」だけを前面に出す形でまとめました。
第一話のE-07〈ARGENT〉ダイジェストが
「トゲのある秩序視点」だとすると、
この第二話は「揺れきった共痛視点」の子守唄パートとして、
並べて読んでいただける構成になっているかと思います。




