07
『檸檬』にカフェラテを買いに店に入った。
あれ?!誰もいない?「おはようございます!」
すると奥から出てきたのは、なんと海翔そっくりのあの男性だった。
「え!?」驚く私に「何になさいますか?」
私はやっとのことで「ホットラテで。」と答えた。
奥からいつもの店員が慌てて出てきた。
「すみません、オーナー変わります。
あっ、オーナー、こちらのお客様は毎朝うちでラテを買ってくださってるんですよ。」
彼は初めて私の顔を正面から捉え「ありがとうございます。どうですか?うちの豆。」と尋ねた。
「凄く美味しいです。ここ珈琲は苦みだけでなく豆の甘味や深みを感じます。
なによりスパイシーで、格別です。」
彼は照れくさそうに微かに笑って「ありがとうございます。」と言って、奥に戻っていった。
「オーナーはいつも表には出ないんですけど、今朝は僕が遅刻しちゃって。」
「食事もオーナーさんが作られているんですか?」
「そうですね、基本的には。勿論スタッフはいますが、メインシェフはオーナーです。
オーナーはこだわりが強くて、何をするにも突き詰めちゃうんですよ。
若い子達は、泣きながらついて行ってます。
納得できない物は提供しないし、一日中仕事のこと考えてるんじゃないかな。」
「だから、こんな美味しい物を提供できるんでしょうね。」
私は、彼の仕事に対する姿勢に好感を覚えてた。
すると、彼が奥から出てきて包みを渡された。
「これ試作品なんで良かったら食べてください。また感想聞かせてもらえれば。」
受け取った包みからはバターの香り、そして檸檬の爽やかな香りがした。
「ありがとうございます。」
お昼休みに包みを開けてみると檸檬バターケーキだった。
一口食べると、檸檬の爽やかな香りが鼻を駈け抜けた。
表面がシャリシャリと砂糖でコーティングしてあるが、檸檬果汁が入っているからか甘すぎない。
ケーキの生地にも檸檬の果汁と皮が入っている、フワフワで口の中で溶けていく。
「美味しい!!」思わず声に出していた。
やっぱり檸檬のオーナーは凄いな、デザートもこんなに美味しく作れるのだ。
オーナーは若そうに見えた。
なのに自分でお店を出して、これだけの美味しい物を提供してくれる。
彼の並々ならぬ努力がうかがえた。
いい年した私は、いつまでも海翔に囚われて惰性で日々を過ごしてている。
新たなことにチャレンジすることも、新な人間関係の構築もできない。
誰かを信じることが怖くて何もできない、自分の器の小ささを思い知らされた。
少しずつで良いんだ、もっと人生を丁寧に生きてみよう、そう思えた。