02
この街にも少しずつ慣れてきて油断していた。
社内での新プロジェクトの決起会、いつもなら断るのに何故かその日は参加してしまった。
会場は会社の下のカフェ『檸檬』、そう毎朝私が珈琲を買うお店だ。
夜になるとお酒も出してくれるらしい。
今まで数回しかないが、弁当をサボった日にランチを食べた。
味もさることながら、見た目の美しさに感動した。
そんな『檸檬』が会場なら、もう行くしかない。
金曜ということもあり、店内は混んでいた。
大皿に盛られた料理はどれも盛り付けが美しく、食べるのが勿体無いくらいだ。
一口食べると見ためを上回る美味しさだった。
特にミートローフにモッツアレラが入っていたのは絶品で、こっそりお代わりしてしまった。
また、珍しい国産のジンやウオッカを使ったカクテルも絶品で、ついつい飲み過ぎてしまった。
自分で言うのも何だが、アルコールにはめっぽう強い。しかし混んでいる店内は別だ。
香水の匂いや化粧品の匂い、柔軟剤や整髪剤の匂い、それにアルコールと食べ物の匂い。
そうなるともうカオスだ。いつものなら平気なのに酔ってしまった。
酔いを醒まそうと、外に出た。雨の匂いが鼻を掠める、ああ降りだしたんだ。
朝のニュースで今夜は雨って言ってたな。
ふと、女性の話声
「分かってるって、早く帰るから。アマネは心配性なんだよ。はいはい、わかりました!!」
女性は携帯を乱暴にカバンにつっ込んだ。
「なに、彼氏?相変わらずの心配性?愛されてるじゃん。」
「いやいや、やり過ぎでしょ、窮屈だよ。しかもあれは愛では無い。」
そんな女性達のやり取りを聞きながらふと思った。
それは愛いではなのか?であれば独占欲なのか?
「まぁでも彼氏の心配は当たってるよね、だってこれ合コンだしね。」
「だって私を優先しないアマネが悪いし。愛しているなら私が最優先でしょ。
なのにいつも仕事仕事ってさ。付き合ったらもっと私を見てくれると思ったのに。
これじゃぁ付き合う前と変わんない、心配性の親が増えただけよ。」
「確かに、カレシって感じより、父親って感じ。」「でしょ~」
やっぱり『愛』は分からない。『最優先にしてくれない』そう思うあなたは彼を愛していますか?
「おい、おーい、伊藤、大丈夫か?」自分が呼ばれていることに気がついて、慌てて振り返る。
高橋マネージャーだ、急に振り返ったから、バランスを崩してふらついてしまった。
咄嗟にマネージャーに肩を支えられた。
私は平静を装いつつマネージャーと距離を取った、海翔と別れてから男性が少し苦手になっている。
「はい、大丈夫です、ちょうど戻るとこでした。」
「無理すんな、タクシー拾おうか?」
「いえ、自分の足で帰れます。」
「じゃぁ駅まで。」
「いえいえ、大丈夫です。皆さんマネージャーをお待ちですよ。」
マネージャーは、クスっと笑って小さな声で「相変わらずの隙無しだな。」とつぶやいた。
私は敢えて聞こえない振りをした。