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紡ぐ日々  作者: PandaDePon
2/25

01

 結婚を2か月後に控えて残された私を皆、腫物のように扱った。

まぁ当然と言えば当然のこと、結婚式前に婚約者に逃げられた女の扱いなんてそんなもんだ。

 

 初めて恋した人、初めて愛した人、信じて疑わなかった人に裏切られると、人は全てを疑う。

友情、両親からの愛、人の親切心、全て偽りに思えた。

だから、流す涙も、溢れる怒りも、愛する心も全てを心の奥へしまい込んだ。

そうでないと記憶に囚われて、動くことすらできなかったから。


 あれから何年経っただろうか?

 最初は優しかった母も、数年前から見合いを急かしてきた。

そんな母に疲れて、私は転勤希望を出し家を出た。

最初は寂しがっていた両親も気が付けば、二人で仲良く暮らしている。

最近も二人で旅先から写メを送ってきた、何のかんの幸せそうで安堵する。


 そして、私も初めて住むこの街に少しずつ慣れてきた。

大丈夫、私を知らない、そして私が知らないこの街であればきっと上手くやれる。


 土日には買い物や洗濯などの家事をこなした。

平日の朝は弁当箱に夕飯の残りと冷凍食品を詰め、決まった時刻の地下鉄で出勤する。

そして、会社の1階のカフェでラテをTakeOutして出勤する。

ここのラテは酸味が抑えられ、スパイシー感があって大好きなのだ。

毎日お弁当を作るのもここの珈琲を飲むためだ。

これが私のルーティーンだ、このルーティーンが今日の私を紡ぐ。


 社内のエレベーターで上司に会った「おはようございます。」

「おっ伊藤!おはよう。今日もいつも通りだな。」

「そうですね、いつも電車に乗れば、普通いつもの時間に着きますから。」

「いつも判を押したように決まってるな、飽きないか?

お前のことだから、土日も平日と同じ時間に起きてそうだな。」

「ご想像にお任せしますが、生活リズムは大事ですよ。」


 高橋マネージャーはいつも私を気遣ってくれる。

「お前は表情に出ない分、無理するからな。」

多少異性としても意識されているのかもしれない。因みにこの上司はバツイチだ。

一年くらい前だったか、皆に「今夜、俺を慰めてくれ離婚成立記念日だ。俺の奢りだ飲みに行くぞ!!」と言っていた。


 昔の私だったら、そんな上司にドキドキしたりしたのかもしれない。

でも今の私は、心に波風を立てられたく無かった。凪ぎの海のような心で過ごしたいのだ。

日々同じでいい、同じ毎日を紡ぎたい。

 だから上司とは一定の距離を保ちながら、仕事をこなしている。

上司だけではないな、他者に対して一定の距離を取っている。

否、一定の距離を取ることしかできないのかも。誰かを信じること、期待することが怖い。


 幸い、仕事は楽しかった。お蔭で仕事をしている間は全てのことから解放される。

きっとそうやって日々を紡いでいけば、いつか私の心は解放されるのかもしれない。

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