5話:風が運んだ出会い
アランが来たのはそう遅くはなかった。後ろの木から何人かこちらの様子を覗いている。彼の友達だろうか。
「ありがとう、アリシア。助かったよ」
「風が強いんだから、気をつけなさいよ?」
そう言って私はアランにプリントを差し出した。
「……それにしても、アリシアって水曜日にいつもここで本を読んでいるよね?何読んでるの?」
「ああ、今日は友達のを借りているんだけど……これよ。恋愛ものってあまり読んだ事なかったけれど、案外面白いものなのね」
表紙のイラストを見せると、アランは少し首を傾げた。
「へえ、恋愛ものか。面白そうだね」
「読み始めてみたら、案外面白いのよ。特に……」
私は表紙の王子様に再び目をやった。その姿は赤い目、黒髪、それに少し長めの襟足。
どうしても目の前にいるアランに似ている様に見えた。
「……特に?」
「いえ、何でもないわ。ただこうやって改めて見ると、アランとこの王子様、少し似てる気がするのよね」
「えぇ〜本当に?俺、こんなにかっこいいかな」
「もう、そこまで言ってないでしょ?でも雰囲気とか話し方とか似てた気がするわ」
昨日の様に冗談めかしで言うと、アランもにこりと笑った。
「でも、なんだか嬉しいや。……そうだ、そういえばアリシアも今度の夜会行くよね?」
「ええ、行くわよ。休む理由も無いし、それに友達と約束してるからね。……それが、どうかしたの?」
「いや、なんでも無い教えてくれてありがとう。じゃあ俺、そろそろ行くわ」
「分かったわ」
忘れ物には気をつけてなさいよ?と、言いかけた瞬間、また少し強い風が吹いた。木の葉が舞い、そこら中に散らばる。
「今日は風が強いわね……アラン?」
アランは何も言わず、私の前で立ち止まる。問いかける間もなく、彼の整った顔立ちが目の前に来て、私はどぎまぎしてしまう。
「葉っぱついてるぞ。さっきの風で落ちて来たんだろうな」
そう言ってアランは私の頭から木の葉をつかみ取った。
「あ、ありがとう……」
顔が近づきすぎて思わず目を逸らしてしまった。きっと私の顔は今、茹でだこ状態だろう。
「じゃあ、今度こそ本当に行くよ。またな、アリシア」
葉っぱを風に乗せて放り投げると、アランは軽い足取りで帰って行った。振り返ることなく遠ざかる彼の背中を見つめながらそのまま呆然とその場に立ち尽くした。
次は私が1番好きな話なので、ぜひ見てみてください!