4話:揺れる金髪
今日は水曜日、俺はいつものように教室の窓際の席に座って何人かの友達と雑談をする。
「あー!今日もいる、やっぱり全員かわいいよな!」
友達のうちの1人が言ったのは教室の下、
中庭の木にもたれかかって本を読んでいるアリシア、セレーナさん、エレナさんの3人の事だ。
「やっぱり俺はセレーナさんが1番だな。授業でわからない所とか、めっちゃ丁寧に教えてくれるし」
「いや、エレナさんも、この前の体育の授業の日なんか俺が転んだら『大丈夫?』って心配して保健室に連れてっ行ってくれたんだぞ!……あの時の天女のような微笑み、一生忘れないね」
そうやってわいわい話していると、1人がつぶやく。
「……でもやっぱり、アリシアさんは別格だよなー!」
「気品があるっていうか、少し近づきがたいんだよな。でも、笑うとすっごくかわいいし」
「なんか手の届かないお姫様って感じだよなでも、話してみたらめっちゃ優しいし」
俺は窓の外をちらっとみて3人の姿を確認した。
艶やかで、金色の長い髪が風に揺れ、木漏れ日を浴びてキラキラと輝いている。まるで絵画みたいだな、なんて思ってしまう自分がいる。
「本当に別格かもな……」
俺もつい、口を滑らせてしまった。するとみんなの視線が一斉にこちらへ向く。
「アランが女子に興味を向けるなんて……!珍しい!」
「お前もアリシアさん派なんだな!」
「……お前、まさかアリシアさん狙ってるとか?」
俺はもう一度窓の方へ目をやる。アリシアは本を読んでいて、ときどき小さく微笑んだり、顔を赤くしたり。その表情はあまりにもかわいい。
「……どうだろうな?」
「おい!お前が女子に本気になったら、俺たちに勝ち目なんてないだろ!?」
「アラン、本気なのか?」
「……秘密っ!」
冗談っぽく答えて、俺はまた窓の外を見た。
そうしてみんなで雑談をしていると、1人の女子が近づいて来た。
「あの……アラン様、この前の授業のプリント先生から返しておいてって言われて……これ、どうぞ」
その子は顔を真っ赤にして、手を震わせながら俺に渡す。
「……ありがとう」
「っ、はい!」
プリントを受け取ると友達はにやにやしながら話しかけてくる。
「前から思ってたけど、あの子絶対お前の事好きだよな?」
「それだけじゃないだろ。隣のクラスの子とか、先輩とかまで、アランに気がある人は多いぜ?」
「……へぇーそうなんだー」
俺が心底どうでもよさそうに返すと、友達たちは笑う。
「お前興味なさすぎだろ?さては好きな人がいるとか?」
「あっ、もしかしてアリシアさんのこと本当に好きなのか!?」
そう聞かれて、俺は少し顔を赤くした。それは友人達も気づいたらしい。
「あれ?お前、顔赤いぞ?」
「っ、そんなことないだろ!」
「へぇ〜?」
「もう!なんか熱くなってきたみたいだから、窓開けるね?」
俺は恥ずかしさを紛らわすために席を立ち、窓を開けた。
「うわっ風つよっ!」
窓を開けると同時に教室に強い風が舞い込んだ。先ほどもらったプリントが舞い上がり、中庭の方へふわりと落ちていった。
「うわぁ〜最悪……誰か拾ってくれないかな」
「いやいや、お前が取りに行けよ!」
友達に肩を叩かれて、仕方なく席から立つ。窓から見下ろすと、アリシアがプリントを手に持っているのが見えた。
「お、拾ってくれたっぽいな!」
「アリシアさんじゃないか!話しかけるチャンスだぞ!」
「もう、うるさいなぁ」
俺は窓から少し体を乗り出すと、中庭に向けて声を張った。
「ごめん、アリシアー!今取りに行くからそこで待ってて!」
アリシアにそう言って中庭へ向かおうとする。
「俺、プリントとりに行ってくるから」
教室を出ようとしたら、友達が俺を引き止めた。
「……ちょっとまてよ、アラン!」
「ん?なに?」
「お前……アリシアさんと知り合いなのか!?」
その言葉が引き金となり、他の友達も一斉に質問をかけてくる。
「そうだぞ!それに『アリシア』って、なんで呼び捨てで呼んでるんだよ!?」
「アリシアさんと仲良いのか?」
「俺、アリシアさんのこと密かに狙ってたのに……もうダメだ……」
「もう、お前らうるさいっ!」
そう言い残して俺は中庭へと走った。