表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/19

3話:舞い降りたプリント

 今日は水曜日。毎週水曜日は昼休みに2人の友人と中庭の木陰で本を読むのが最近の習慣。

 私も2人も本が好きで、だからこそ社交界などを通して仲良くなった。リリアとはまた別に、気軽に話ができる私の大切な友人。


「今日は先週の続き読もうかな〜」

「私は最近はまってる小説があるのよね。アリシアは今日は何を読むの?」


 そこで私は今朝、持ってこようとした読みかけの本を家に忘れていた事を思い出した。


「ああっ!家に忘れてきちゃった!」

「あちゃー。珍しいね、本が好きなアリシアが忘れるなんて」


 そうやって気にかけてくれたのはエレナ・クラウディス。茶髪、綺麗にまとめられたポニーテイルが特徴。運動、特に剣術なんかが得意で3人の中では明るいムードメーカー。


「そうだ!私、ちょうど何冊か持ってるのよね。アリシアに貸すわ」


 そう言ってくれたのはセレーナ・エヴァレット。綺麗な金髪ロングヘアでおしとやか。女子力が高い女の子の中の女の子って感じの子。


「本当!ありがとうセレーナ。」


 私がお礼を言うとセレーナは鞄の中から一冊の小説を取り出す。


「はいこれ。私が1番おすすめする恋愛小説よ。

 ヒロインがツンデレでとってもかわいいの!

 お話に出てくる王子様がストレートに『結婚してくれ』って告白して、すごくドキドキしたわ!

 実際にこんな人がいたら絶対惚れちゃう……」


「ふふっ、また始まったよセレーナの恋愛小説話。」


 セレーナは言い切ると頬に手を当ててうっとりとした。セレーナは大の恋愛小説ファン、いや、恋愛小説オタクだ。


 ◇


 中庭は暖かい日差しに包まれており、いつも私たちが本を読んでいる場所は木漏れ日に照らされている。


「今日は天気がいいわね」

「ええ、いい読書日和だわ」

「お腹空いてきちゃったから早く食べよ!」


 エレナの言葉に頷き、私たちはいつものように木にもたれかかりながらお弁当を開く。


「セレーナ今日はサンドイッチなのね。とってもおいしそう」

「でしょ?私の侍女たちがいつも作ってくれるの」


 そう言ってにこにこしながらセレーナはサンドイッチを手に取る。エレナもすでに食べ始めており、口元にはパンにのっていたケチャップが付いていた。


「エレナ、口にケチャップがついてるわよ」

「えっ!どこどこ?」

「うふふ、あわてんぼうなんだから」

「だってお腹空いてたんだもん」


『ここよ』と言ってセレーナがケチャップを拭う。

 そんな日常が愛おしく、私は微笑んだ


 ◇


 お弁当を食べ終わり、それぞれが本を読む。

 セレーナから借りた本は見た目も可愛らしい。彼女が大切にしている証拠だろう。


 冒頭はヒロインのツンデレ、でも優しい性格が炸裂し、王子がどんどん惚れていく。そんなヒロインの性格になぜか私は親近感を抱いた。


「この小説のヒロイン、かわいいわね。ちょっとツンデレすぎるけど……」

「そう!そこがいいのよ!いつもはこんなにツンツンしているのに、優しくっていざとなったら甘えてくるなんて最高でしょ?」


 私が感想を口にするとセレーナは目を輝かせて言った。エレナはと言うと、本の世界に没頭しており、私たちの言葉は聞こえていないようだ。


 しばらく小説を読み進めていると王子がヒロインに真剣な眼差しで告白するシーンに差し掛かった。月明かりが2人を包み込む。


『……結婚してくれ』


 王子の真っ直ぐな告白に私もきゅんとした。


「……セレーナがこの本を好きな理由、少し分かったかも」


 そうつぶやくとセレーナは満足そうに微笑んだ。エレナは本を読み終わったようで、私たちの様子を見てからかうように言った。


「アリシアも恋愛小説にはまる日が来たかもね?」

「ふふ、どうかしら?でも、こんなふうに誰かに想われるのは悪くないかもね」


 そうやって笑い合っていると、顔に当たっていた木漏れ日が何かによって遮られる。


「わっ……!何かしら、プリント……?」


 頭上から落ちてきたのは一枚のプリントだった。私がプリントを裏返すと、そこには名前が記されていた。


『アラン・レオリス』


 中庭の隣にある校舎を見上げると、開いた窓から何人かの影が見えた。


「アランの……?」

「えっ!アリシア、あの才子様と知り合いなの?」

「うん……一応」


 セレーナが私のつぶやきに返すように話しかけた。


「才子様……あっ!聞いた事ある」

「本当?やっぱり有名なのね」


 どうやらエレナも知っているらしい。私はプリントを持ち、上を見上げた。


「あそこの教室私たちの隣のクラスだから、きっと窓開けた拍子に落っことしちゃったのね」


 私たちが話していると上から声が聞こえた。


「ごめん、アリシアー!今取りに行くからそこで待ってて!」


 昨日聞いたばかりの声。そう、アラン本人の声だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ