1話:リリアと買い物
「今日はたくさん歩くから、靴は楽なのにしておきなさいよ」
アリシアはリリアを見ながらそう告げた。
リリアがイーリスを誘うために夜会で着るドレスを選びに、二人は街へ出かけることになった。アストリア王国の首都の街並みは賑やかで、通りには華やかな飾り付けと香ばしいパンの匂いが漂っている。
「アリシア、本当に付き合ってくれるなんてありがとう。自分だけじゃ絶対決められないと思ってたから」
リリアが感謝の言葉を伝えると、アリシアは肩をすくめながら軽く笑った。
「私がするからにはリリアには完璧な状態になってもらうからね」
リリアが微笑むと、アリシアは彼女の肩を軽く叩きながら先を歩く。
◇
二人が向かったのは、アリシアが常連として利用している高級仕立て屋「エグランティーヌ」
店内には豪華なドレスが並び、柔らかい布地がカーテンのように垂れ下がっている。
「いらっしゃいませ、アリシア様。今日はどのようなご用件で?」
店員が頭を下げると、アリシアはリリアの方を示しながら言った。
「彼女に夜会用のドレスを見繕ってほしいの。なるべく華やかで、それでいて派手すぎないものを」
「かしこまりました。お似合いのものをすぐにご用意いたします」
リリアは緊張した面持ちで周囲のドレスを眺めていたが、アリシアはさっと手を伸ばして一着の淡いラベンダー色のドレスを取り出した。
「これなんかどうかしら?控えめだけど、胸元の刺繍が華やかで素敵でしょ」
「うん、すごく綺麗……でも似合うかな」
「似合うかどうかは、着てみればわかるわ」
アリシアはリリアの背中を押し、更衣室へと促した。
リリアが試着を終えて姿を見せた。
ドレスの優美なラインがリリアの柔らかな雰囲気を引き立て、彼女自身も自然と微笑みを浮かべていた。
「リリア、すごく素敵よ」
アリシアは心から褒め言葉を口にした。
「本当に……こんな自分、初めて見たかも」
リリアは鏡の前でくるりと回り、その姿に見惚れているようだった。
しかし、その光景を見つめるアリシアの胸には、言葉にできない感情が渦巻いていた。
(リリアが幸せそうで嬉しいはずなのに、どうしてこんなに苦しいのかしら……)
そんな葛藤を振り払うように、アリシアは再び声をかけた。
「じゃあ次は髪飾りを選びましょうか。ドレスに合うものを探しましょう」
◇
屋敷に帰るころには、すっかり日が傾いていた。リリアは満足げに荷物を抱えながら、アリシアに感謝の言葉を繰り返した。
「ありがとう、アリシア。本当に心強いよ」
「気にしないで。これも親友としての務めよ。あとはメイクの仕方を教えてあげる!」
アリシアは笑顔でそう答えたが、その笑顔の裏に隠された感情をリリアが知ることはなかった。
「明日のために頑張りましょう」
「うん!アリシア、ありがとう!」
イーリスを想う気持ちを胸に秘めたまま、アリシアは親友の背中を押し続ける。だが、その心には少しずつ痛みが広がっていくのだった。