14話:学園祭4 そんな思い
準備が一段落ついた所で、みんなは解散した。セレーナは少し遅くなるみたいだし、エレナも時間が合わなくて先に私は帰ろうと校門を出た。
「アリシアっ!」
「きゃっ!?び、びっくりした……」
「えへへ。ごめんね今日、一緒に帰らない?最近話せてなかったし」
急に後ろから抱きついてきたのはリリアだった。1つ年下の彼女とは、中々話す機会がないから、こうして誘ってくれるのは嬉しい。
「いいわよ。一緒に帰りましょう」
私が頷くと、リリアはぱあっと目を輝かせる。私の腕に自分の腕を絡めて歩きはじめた。こういう距離感の近さは昔から変わらない。
「アリシアと話すの、久しぶりだなぁ」
「そうね。最近は特に学園祭のことで忙しかったし、大変だったもの」
「うん。準備とかも色々あったし……そうだ、アリシアには伝えないといけないことがあるの!」
リリアは立ち止まって私を見上げる。
「あのねっ、私……イーリスの、婚約者になったの!」
「……!そうなのね。よかったじゃない」
「うん。もう親ともあいさつをすませたの。アリシアがすっごく手伝ってくれたから!全部、アリシアのおかげだよ。ありがとう」
そうやって満面の笑みでリリアは話す。
でも、なぜだか私はこの前よりも嫌な気持ちにならなかった。『嫌』、『悲しい』。そんな気持ちよりも、純粋に彼女の幸せを応援する気持ちが勝っている。
……なんだかんだ、私ももう吹っ切れてるのかもしれない。
「リリアが幸せそうで、私も嬉しいわ」
「本当にアリシアってばお人よしだよね。次は私がアリシアを助ける番だから!……好きな人が出来たら言ってね?」
「す、好きなひとっ!?」
「うん!アリシアに好きな人が出来たら、私手伝うから!……その反応、もしかしているの!?」
「い……いないわよ!」
私は少し早口で、立ち止まっているリリアを置いて早足で帰路へとついた。
「あっ!アリシア、待ってよ〜!」
◇
朝の澄んだ空気が教室を満たしていた。窓から差し込む柔らかな陽光が私を照らす。
「セレーナ、遅いわね……」
セレーナは昨日、脚本決めの日だった。遅くまで残っていたらしく帰りは会えなかったから、結果が気になる。
だから私はいつもより少し早めに来て、セレーナを待っていた。
「おはよう!アリシア」
元気な声と共に現れたのは、私が待っていた相手。セレーナだ。私は立ち上がって、セレーナの方へ向き直る。
「おはようセレーナ。昨日の脚本決め……どうだった?」
「ふふっ……無事に決まったわ!」
セレーナは誇らしげに胸を張った。
「えっ!すごいじゃない!おめでとう」
「ありがとう。それとね、今日役決めを私と実行委員の人たちでやるらしいの」
「そうなの?頑張ってね、セレーナ。クラスの方は私がなんとか頑張るから」
「ありがとうアリシア。素敵なカフェと劇にするため頑張るわ!」
セレーナの笑顔を見て、私も自然と微笑んだ。彼女の努力が実ったことが、本当に嬉しい。
劇もカフェも、楽しみだな。
◇
放課後。いつものようにみんなと準備をして、私がまとめていた。そこにセレーナが息を切らせながら入ってきた。
「おかえりなさい。どうしたの?セレーナ」
「あ、アリシア!ちょっと来て!」
「え?……いいけど」
私はクラスメイトに伝えて、セレーナに手を引かれながら空き教室へと向かった。
「いらっしゃい、アリシアさん」
迎えてくれたのは緑色のリボンをしている女生徒。
この学園の制服はリボン、ネクタイの色で学年が分けられており、緑色は今の3年生の色だ。
その人の他には、青色のリボン。1年生の子が1人と、赤色のリボン。私と同い年の2年生の子が1人いた。
「は、はぁ……こんにちは」
「……エヴァレットさん。もしかして、何も伝えていないのかしら?」
「あぁっ!急いでいて、忘れてました……」
その言葉に大きなため息をついた先輩は、何も分かっていない私の方を見て話し始めた。
「急にごめんなさい。私は学園祭実行委員のリーダーをしている──アイリス・グレイシアよ」
言い切るとグレイシア先輩は綺麗なお辞儀をして、再度話し出す。
「この子たちは1年生のカイル・フェルナンド。2年生のエマ・ルシアン。2人とも、実行委員のメンバーよ」
紹介されたフェルナンドさんとルシアンさんは少し緊張した様子でぺこりと頭をさげた。
「それで、私がここに呼ばれた理由は……?」
「……単刀直入に言うわ。あなたには、──今年の劇の主役をお願いしたいの!」
「えっ!?」
思いもよらない言葉に、私は間抜けな声が出てしまった。
「主役……?ああっ!そうだ」
この前セレーナが言っていたことを思い出して、私は彼女の方を見つめた。
『アリシアがヒロインになるのを想定して書いているんだから!』そうやって無邪気に言う声が頭の中で再生される。
「ごめんねアリシア。まあ、そういうことだから!」
「はぁ……それで、なんで私が主役に選ばれたんですか?」
私はグレイシア先輩の方は向き直って聞く。
「それはね……もちろん話の内容もなんだけど、毎年2年生が主役を演じているじゃない?私たち実行委員は毎年公式プログラムを作っていて、毎回劇を目玉として広報しているのそれで──」
先輩はにこりと微笑んで続ける。
「主役を演じる人は、学園祭の顔にもなる。だから、できるだけ相応しい人を選びたいのよ。そうでしょ?『佳絶の令嬢』さん?」
「……あまりその名で呼ぶのはよしてください。なんだか恥ずかしくて……」
『佳絶の令嬢』。そう呼ばれるのは、今回で2人目だ。
先輩は少し笑い、手を合わせて私に謝った。
「ごめんなさい、ちょっと呼んでみたくって。それで、どうかしら?受けるか受けないかは自由だけど……
もちろん、私たちはあなた以上の適任はいないと思うわ!
エヴァレットさんも強く推薦していたしね」
グレイシア先輩は淡々と話を進める。
「……分かりました。受けてみようと思います」
そうやって私は先輩達の誘いを受けた。
もちろんセレーナや先輩たちの期待を裏切りたくない、という気持ちもあったが、どこか少しだけ──挑戦したい。そんな思いもあったからだ。




