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悪役令息はママがちゅき  作者: 埴輪庭


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ダルクヘイムは終了しました④

 ◆◆◆


 イグドラは現在のダルクヘイム要塞で最も恐れられている魔竜だ。


 そして魔王ベルゼイの魔力を、最も近くで浴び続けてきた竜でもある。


 だからこそ分かる、アレは同類、いやもっとおぞましい存在であると。


 ──アレはなんだ……次代の魔王か?


 イグドラは空を駆けながら低いうなりをもらした。


 あの要塞で何が起きているか正確には見ていない。


 ──次代の魔王だとしたら……いや、だが魔族を手をかける


 イグドラは混乱しつつも、今は何よりも生き残る事が優先だった。


 新たな魔王であるならば本来は人間種を憎悪し、討ち滅ぼさんとするはずだ。


 なぜなら他ならぬ魔王ベルゼイ自身が()()()()()()()()()()()と言っていたからだ。


 ところが、あの禍々しい魔力の持ち主は味方であるはずの魔族を一方的に踏みにじっていた。


 その事実がイグドラの脳裏に深い恐怖を刻み込んでやまない。


「まさか、魔王ではない?」


 そんな可能性が頭を過ぎる。


 だが、では勇者かと言われると絶対にそうではないと断言できた。


 ──あのような邪悪で、おぞましく、けがらわしい魔力の持ち主が勇者などと……


 魔王でも勇者でもない、未知の存在。


 単に強いだけという考えは、イグドラからしてみれば失笑ものだった。


 人には人の分があり、どれほど鍛錬してもその生物としての器には限界がある──そうイグドラは考えている。


 確かに竜族とすら伍する人間はいるが、それを踏まえてなお()()はないだろうという想いがあった。


 ──確かに我は竜族の勇猛な戦士だ


 イグドラは後ろを振り返りながら呟く。


 己が誇りのために一歩も退かず散っていくならば、それはそれで本望だっただろう。


 しかし別に積極的に自殺したいわけでもないのだ。


 そんな趣味はイグドラにはなかった。


 天井から巨岩が幾万と降ると分かっていて、そこに仁王立ちする馬鹿はいない。


 つまり、あれほど圧倒的な力を携えている相手にわざわざ挑むなど、ただの無謀にすぎない。


 ──逃がすつもりがないのなら、どれほど遠くまで逃げても無駄かもしれんが……


 イグドラは両の翼に魔力を通し、全力で空を駆け出す。


 一瞬でも、ほんの僅かでも、見えざる巨大な死の手から離れたかった。


 ──勝てない相手はいる。


 それを理解しないのは無謀かあるいは低能というものだ、とイグドラは考えている。


 死してなお誇りを貫くのも一つの道。


 けれど、今は命を繋ぐことを第一に選び、ひたすら空を裂きながら飛ぶ。


 それから十数時間にもわたってイグドラは無我夢中で飛び続ける。


 やがて、肺に流れ込む空気の味が変わった。


「……そろそろネザシア海を超えるな」


 ──どうやら、あれも追っては来ないようだ……逃げ切ったか


 そう実感したとき、ようやく心臓が少し落ち着きを取り戻す。


 しかし、ここから先が問題だ。


 海を越えれば、ガイネス帝国の領域。


 そこには “空喰い” オルムンドを撃ち落とした勇者がいる。


 ──あれほどの脅威ではなかろうが……念のために、な


 まるで言い訳をするようだと自嘲しながら、イグドラは航路を別に取る事を決めた。


 ──癪に障るが、 "奴" の世話になるか


 そうして暫く進んでいくと、眼下には荒野が広がりつつあった。


 干からびた大地に奇妙な草がまばらに生え、風を受けてくねくねと揺れている。


 どれもまともな植物には見えない。


 ネザシア海の瘴気が吹き荒れるせいで、あらゆる動植物が変異してしまうのだ。


 ここからさらに西へ行けばガイネス帝国の帝都ガイネスフリードがあるが、そこへは行かないほうがいいだろう。


 そう思った矢先の事だった。


 鋭い閃光がイグドラの視界の端を走り──


「──なに!?」


 と思うまもなく、衝撃が片翼を襲う。


 そして鋭い痛み。


「ぐあっ……!」


 イグドラは翼の付け根から派手に血を噴きながら、バランスを崩して地面へと墜ちていく。


 衝撃が荒野の地面を揺るがし、岩が砕けて破片が飛び散る。


 ──まさかッ!? 


 一瞬、あの底なしの闇を思い出し恐慌に陥りかける。


 しかし視界が砂と血でぼやける中、ようやく目に入ってきたのは赤い髪の青年の姿だった。


「おいおい、まさかイグドラに会えるとはな。魔力の隠蔽もしないで、何をしてるんだよ。俺も大分鈍っているけどさ、流石に気付くぜそれじゃあ」


 ◆◆◆


「人間、がァッ!!」


 空高くから叩き落とされてなおイグドラの威勢は良い。


 それは "よくもこんな真似を"という燃え滾る憤怒が痛みを忘れさせていたからというのもあるが、怒りの根源が実は別の所にあると知っているからだ。


 イグドラは安心していた。


 "こんな真似" をしたのがあの人間(ハイン)でなく、見知らぬ人間の勇士で。


 そして、そんな自分の怯懦に怒っているのだ。


 その一方で、赤い髪の青年──アゼルはしかし、口調とは裏腹にこの状況を楽観視してはいなかった。


 勇者としての力を行使してなお、魔竜イグドラが手強い相手であることを知っているからである。


 ちなみにそもそもなぜアゼルがここに居るのかと言えば、それは彼が言った通り、イグドラが魔力を隠蔽もなにもせずに帝都へ近づいてきたからだ。


 飛んで火にいる夏の虫──にしては少々大きすぎるが、勇者の感知圏内で飛び込んでしまったイグドラはこうして叩き落とされ、再び選択を強いられた。


 即ち先だってそうした様に逃げるか、或いは──


 ・

 ・

 ・


「冗談では……なァいッ!!」


 再び尻尾を巻いて逃げたとあれば、もう自身は竜などとは名乗れない。


 地上から一撃で自身の翼を切り裂いた相手など、本来は何も情報もなしに戦って良い相手ではないとイグドラも分かってはいるが、ここは退けなかった。


 イグドラの口ががぱりと開いた。


 魔力が微細なエネルギー粒子となり、口内に流れ込む空気と混ざり合う。


 その混合過程はまるで特殊な触媒反応のようで、空気中の酸素や窒素の分子が、魔力の影響を受け急速に励起状態へと移行した。


 この励起状態は通常の化学反応をはるかに超えた超高エネルギープラズマの生成を引き起こすのだ。


 その結果、口から吐き出されるブレスはハインが言う所の "劣等トカゲ" がよく使用する炎のブレスとは一線を画す。


「おいおい、いきなりそれかよ……」


 アゼルが舌打ちする。


 そう、アゼルは()()をよく知っている。


 "かつての世界" に於いて、城一つを消し飛ばした魔竜イグドラのブレス── "雷轟"を。


 ならば、とアゼルも覚悟を決めた。


 ──聖剣よ、在れ(フィアット・ルクス)


↓の作品もよろろです。GHOST FAKERはカクヨムホラー日間で1位でした。やったね~

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最近書いたやつ。

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※ カクヨム、ネオページ、ハーメルンなどにも転載
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理論と感情の狭間で、二人の天才魔術師が辿り着く「愛」の答えとは――
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「その追放、本当に正しいですか?」

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話はよく聞きましょう。
スタンダード・異世界恋愛。
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