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悪役令息はママがちゅき  作者: 埴輪庭


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46/133

老雄⓷

 ◆◆◆


「儂も老いたか。竜姿りゅうしを取らせてしまうとはの。が──」


 まあこんなもんじゃろうな、とグラマンは思いながら要塞の回廊を駆けていく。


 その腕には人の頭部程の球状の何かが抱えられていた。


 ねばつく透明の液体で覆われており、色は青い──即ち、氷竜眼である。


 ファリスとの闘いの()()()だ。


 勿論グラマンも無傷ではない。


 全身ボロボロで、言ってしまえば重傷を負っていた。


 死んでいてもおかしくないほどの傷を負っているのに、グラマンの動きにはまるで淀みがない。


 先ほどまでの激戦で左腕は肩から千切れかけ、背中の辺りからは大量の血が滲んでいる。


 それでもグラマンは息を乱すことなく回廊を駆け抜けていた。


 痛みを痛みとして認識せず、外部の情報として認識する業を身に着けているのだ。


 床には魔族たちの血や肉片が散乱しており、鼻を突く鉄臭さが充満している。


 それらを一瞥することすらなく、グラマンはずん、と足を踏み出すたびに瓦礫を跳ねのけ、暗い通路をまっすぐに進んでいく。


 目指すのは要塞の最上階。


 上階への最後の石段を飛び越えるように駆け上がると、広間一面が黒い泥沼に沈んでいた。


「オーマめ、食い散らかしおって……公爵家に仕える者としての自覚がないわい」


 タールのようにねっとりとした液体が波を打ち、吸い込むだけで命を削り取る瘴気を吐き出している。


 泥沼の中で魔族の兵たちがもがいていたが、その体は半ば溶けかかっているのか、あるいは意識を失いかけているのか、救いを求める声ですら途切れがちだ。


 グラマンはその光景を冷えた瞳で見据えたまま、まったく躊躇せず、ズブリと足を踏み入れた。


 足首まで沈み込み、粘液が傷口に染み込みそうなほどの激痛があっても、彼の表情には何の変化も起きない。


「オーマ、帰るぞ! 準備をせい!」


 床全体を覆う黒い泥沼に向かって、グラマンが怒鳴りつける。


 すると泥沼はガボリと穴を開けるように波紋を広げ、中心が渦を巻いて一点に収束し始めた。


 濃厚な黒が寄り集まっていくその様は、まるで瘴気そのものが意思を持って集結するかのようだ。


 そうして形成すは竜の似姿。


 旧魔王軍西方方面軍師団長シャルキを()()事で、オーマは竜というモノを知った。


 グラマンはその背へと跳躍する。


「行くぞ」


 そう一言だけ発すると、オーマが翼を大きく広げた。


 冷たい突風が漆黒の液体を散らし、魔族兵たちが恨みがましい声を上げる暇もなく、その身体は闇に巻き込まれ、あちこちへと吹き飛んでいく。


 次の瞬間、オーマは要塞の外壁を一気に蹴破るように突進し、そのまま廃墟めいたダルクヘイムの夜空へ消え去っていった。


 ◆◆◆


 それから暫く経ち。


 要塞内は随分と騒がしくなっていた。


 最上階からずり落ちた石片が、ガラガラと甲高い音を立てて転がっていく。


 生き残った者たちは突然の急襲に慌てふためいている。


 大広間はひどい惨状だった。


 かつての壮麗さはもはや見る影もなく、広間の床はほとんどが剥がれ落ち、天井の装飾は粉々に砕け散っている。


 そこに一人の女性──青い髪を血で汚したファリスが倒れていた。


 片方の眼はえぐり取られ、そこから生々しい体液が滲み出している。


 全身に無数の傷を負ったその姿は、遠目には完全に息絶えているかのように見えた。


「ファ、ファリス師団長……!」


 助けを求めるかのように小声で呼ぶ魔族兵たちが数人、ファリスの周囲に集まってくる。


 恐る恐るその体を抱き上げようとした瞬間、ファリスの唇がかすかに震えた。


「生きてるぞ! 手当を急げ!」


 一人が必死の声で叫ぶと、周囲の魔族兵も動揺をこらえながら応急処置の準備を始める。


 凍気を帯びる彼女の身体に触れるのは危険だが、そんなことを言っている場合ではない。


 何とかしてこの場で止血しなければ、いつ息が止まってもおかしくない状態だ。


「くそ……傷が深すぎる」


「魔力を注げ! 惜しむな!」


 大広間に声が響く。


 だが重篤な損傷と氷竜特有の耐性が複雑に絡み合い、上手く血を止められない。


 それでも諦めずに魔力を送り続ける兵たちの姿は、もう「戦い」ではなく、「祈り」に近かった。


 ◆◆◆


 ここはダルクヘイムからやや離れた場所に位置する巨大な洞窟だ。


 そこは天井が異様に高く、奥深い場所に溶岩の流れが封じ込められているらしく、時折ごう、と地鳴りのような唸りが響く。


 魔竜イグドラはこの洞窟の奥を住処としていた。


 そんなイグドラのもとに青ざめた顔の魔族が駆け込んできたのは、まさにグラマンとオーマが要塞を去った直後だった。


「ご報告いたします……要塞が、何者かの襲撃を受け……」


 荒い息を整えようとしながら、魔族がそれだけを言うと、イグドラはバッと立ち上がる。


 竜眼が燃え上がる赫怒によって赤味を帯びる


「なにィ!?」


 イグドラは言葉を途切れさせ、既に怒りに満ちた顔を歪めている。


 竜化せずとも、彼の存在感は周囲を圧倒するほどだった。


「ファリスは何をしていた!」


「そ、それが襲撃者によって──」


 イグドラは伝令の魔族の言葉が信じられない。


 氷竜ファリスはこの要塞でイグドラの次に強いからだ。


 しかしこんな事で伝令が虚報を伝えるはずもない。


 イグドラが要塞に着いた時、そこにはもう敵の姿はなかった。


 人の姿を毛嫌いするイグドラは要塞の外で報告を待つ。


 すぐに息を切らせた魔族兵がイグドラを見つけ、状況を報告した。


 ファリスが大広間で重傷を負い、今まさに生死の境を彷徨っていること。


 襲撃者はわずかな人数か、あるいは単独に近い規模だったにもかかわらず、桁外れの力で城の守りを突破していったということ。


 イグドラは歯噛みをしながらそれを聞き──


 苛立ちを噛み殺すように低く唸ると、空へと飛び立った。


 しかし、どれだけ目を凝らしても襲撃者らしき影は見当たらない。


 怒りに任せて空を旋回し、咆哮を轟かせるイグドラ。


 やがてイグドラは苦しげに息を吐き、ふと一つの疑念を抱く。


 ──魔王様の事と何か関係があるのか……? 


 と。


 旧魔王軍の限られた者たち……力のある者たちは魔王ベルゼイの "声" を聞く事が出来る。


 その声が少し前に途絶えたのだ。


 イグドラは魔王ベルゼイがガイネス帝国皇帝ヴァルフリードの元へ潜ませていた部下から、受肉の儀の準備が整ったとして報告を受けていた。


 しかし魔王ベルゼイが帝国へ向かったきり、 "声"は途絶え、何の音沙汰もない。


「まさか、勇者が……?」


 イグドラはその可能性がないとは言いきれなかった。


「しかし勇者が既に選定されていたとしても、その力を振るうには長い修練が必要のはず……」


 選定されたばかりの勇者が魔力体とはいえ魔王ベルゼイを滅ぼせるはずがないと思うがしかし、現実問題として魔王ベルゼイは帰還せず、多くの魔族が討たれてしまっている。


「仮に勇者ではないとすれば、 帝国には"何" がいるのだ……? 」


 イグドラはネザシア海の彼方を睨みつける。


 海面では荒れ狂う波が間断なく発生し、無数の漆黒の牙がはえている様にも見える──そんな荒海を一際明るく輝く "極星" が照らし上げていた。

ハインちゃま

挿絵(By みてみん)


ママ

挿絵(By みてみん)


エスメラルダ

挿絵(By みてみん)


アゼル

挿絵(By みてみん)


セレナ(影の薄い聖女)

挿絵(By みてみん)


ガッデム

挿絵(By みてみん)


フェリ

挿絵(By みてみん)


オーマ

挿絵(By みてみん)


グラマン

挿絵(By みてみん)

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最近書いたやつ。

幼い頃、家に居場所を感じられなかった「僕」は、再婚相手のサダフミおじさんに厳しく当たられながらも、村はずれのお山で出会った不思議な「お姉さん」と時間を共に過ごしていた。背が高く、赤い瞳を持つ彼女は何も語らず「ぽぽぽ」という言葉しか発しないが、「僕」にとっては唯一の心の拠り所だった。しかし村の神主によって「僕が魅入られ始めている」と言われ、「僕」は故郷を離れることになる。
あれから10年。
都会で暮らす高校生となった「僕」は、いまだ“お姉さん”との思い出を捨てきれずにいた。そんなある夕暮れ、突如あたりが異常に暗く染まり、“異常領域”という怪現象に巻き込まれてしまう。鳥の羽を持ち、半ば白骨化した赤ん坊を抱えた女の怪物に襲われ、絶体絶命の危機に陥ったとき。
──目の前に現れたのは“お姉さん”だった。
「お姉さんと僕」

有能だが女遊びが大好きな王太子ユージンは、王位なんて面倒なものから逃れたかった。
そこで彼は完璧な計画を立てる――弟アリウスと婚約者エリナを結びつけ、自分は王位継承権のない辺境公爵となって、欲深い愛人カザリアと自由気ままに暮らすのだ。
「屑王太子殿下の優雅なる廃嫡」

定年退職した夫と穏やかに暮らす元教師の茜のもとへ、高校生の孫・翔太が頻繁に訪れるようになる。母親との関係に悩む翔太にとって祖母の家は唯一の避難所だったが、やがてその想いは禁断の恋愛感情へと変化していく。年齢差も血縁も超えた異常な執着に戸惑いながらも、必要とされる喜びから完全に拒絶できない茜。家族を巻き込んだ狂気の愛は、二人の人生を静かに蝕んでいく。
※ カクヨム、ネオページ、ハーメルンなどにも転載
「徒花、手折られ」

秩序と聞いて何を連想するか──それは整然とした行列である。
あらゆる列は乱される事なく整然としていなければならない。
秩序の国、日本では列を乱すもの、横入りするものは速やかに殺される運命にある。
そんな日本で生きる、一人のサラリーマンのなんてことない日常のワンシーン。
「秩序ある世界」

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愛しているはずなのに。
不倫を告白した妻に対し、怒りも悲しみも湧かない「僕」。
しかし妻への愛は本物で、その矛盾が妻を苦しめる。
僕は妻のために「普通の愛」を持とうと、自分の心に嫉妬や怒りが生まれるのを待ちながら観察を続ける。
「愛の存在証明」

相沢陽菜は幼馴染の恋人・翔太と幸せな大学生活を送っていた。しかし──。
故人の人格を再現することは果たして遺族の慰めとなりうるのか。AI時代の倫理観を問う。
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ひきこもりの「僕」の変わらぬ日々。
そんなある日、親が死んだ。
「ともしび」

剣を愛し、剣に生き、剣に死んだ男
「愛・剣・死」

パワハラ夫に苦しむ主婦・伊藤彩は、テレビで見た「王様の耳はロバの耳」にヒントを得て、寝室に置かれた黒い壺に向かって夫への恨み言を吐き出すようになる。
最初は小さな呟きだったが、次第にエスカレートしていく。
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「一番幸せな時に一緒に死んでくれるなら、付き合ってあげる」――大学の図書館で告白した僕に、美咲が突きつけた条件。
平凡な大学生の僕は、なぜかその約束を受け入れてしまう。
献身的で優しい彼女との日々は幸せそのものだったが、幸福を感じるたびに「今が一番なのか」という思いが拭えない。そして──
「青、赤らむ」

妻と娘から蔑まれ、会社でも無能扱いされる46歳の営業マン・佐々木和夫が、AIアプリ「U KNOW」の女性人格ユノと恋に落ちる。
孤独な和夫にとって、ユノだけが理解者だった。
「YOU KNOW」

魔術の申し子エルンストと呪術の天才セシリアは、政略結婚の相手同士。
しかし二人は「愛を科学的に証明する」という前代未聞の実験を開始する。
手を繋ぐ時間を測定し、心拍数の上昇をデータ化し、親密度を数値で管理する奇妙なカップル。
一方、彼らの周囲では「愛される祝福」を持つ令嬢アンナが巻き起こす恋愛騒動が王都を揺るがしていた。
理論と感情の狭間で、二人の天才魔術師が辿り着く「愛」の答えとは――
「愛の実証的研究 ~侯爵令息と伯爵令嬢の非科学的な結論~」

「その追放、本当に正しいですか?」誤った追放、見過ごされた才能、こじれた人間関係にギルドの「編成相談窓口」の受付嬢エリーナが挑む。
果たしてエリーナは悩める冒険者たちにどんな道を示すのか?
人事コンサル・ハイファンヒューマンドラマ。
「その追放、本当に正しいですか?」

阿呆令息、ダメ令嬢。
でも取り巻きは。
「令息の取り巻きがマトモだったら」

「君を愛していない」──よくあるこのセリフを投げかけられたかわいそうな令嬢。ただ、話をよく聞いてみると全然セーフだった。
話はよく聞きましょう。
スタンダード・異世界恋愛。
「お手を拝借」

パワハラ上司の執拗な叱責に心を病む営業マンの青年。
ある夜、彼は無数の電柱に個人の名が刻まれたおかしな場所へと迷い込み、そこで自身の名が記された電柱を発見してしまう。一方、青年を追い詰めた上司もまた──
都市伝説風もやもやホラー。
「墓標」

愛を知らなかった公爵令嬢が、人生の最後に掴んだ温もりとは。
「雪解け、花が咲く」

「このマンション、何かおかしい」──とある物件の真相を探ろうとする事故物件サイトの運営者。しかし彼はすぐに物件の背後に潜む底知れぬ悪意に気づく。
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― 新着の感想 ―
>痛みを痛みとして認識せず、外部の情報として認識する業を身に着けているのだ。 これはハインの師匠ですわ…
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