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閑話:帰ってきた男

 ◇


 陳腐な言い方だが、魔王は──ハイン・セラ・アステールの体を奪った魔王はとてつもなく強かった。


 勇者として覚醒しただけじゃ全然足りなくって、あれから何度も何度も繰り返した死闘で成長して、それでも足りなくて。


 頼れる仲間たちがいなければ、こうしてこの場にも立っていられなかったと思う。


 ただ、それだけ強い魔王をを倒すためには当然無傷だとはいかなかった。


 友人、家族、そして恋人──俺は色々大切なものを失った。


 それでも魔王を倒した時にはついにやったんだと、これで世界は平和になるんだと、そう思ってた。


 だけど現実は違ったんだ。


 人も、国も最初はみんな俺たちを讃えてくれた。


 道半ばにして死んでしまった仲間たちのことも。


 だからと言って俺の大切な恋人……セレナが死んでしまった傷が癒えるわけはないが、それでも何かしらの慰めにはなった。


 でもみんなすぐに()()()しまう。


 平和に慣れてしまう。


 何がどうなってそんなことになってしまったのか今でもよくわからないが、俺たち三人はいつからかガイネス帝国から監視されるようになった。


 魔王を倒すほどの大きな力を持つ者に危機感を抱くというのはある意味理解はできる。


 納得できるかできないかは別にして。


 不快な日々が続き、やがてその日は来る。


 最初にエミーが殺された。


 とある会食で毒を混ぜられたのだ。


 その次にガルデムだ。


 ガルデムは誰かにエミーを殺した犯人を告げられたようで、仇を討つためにとある場所へ出向き、そして罠にはめられて殺された。


 帝国からは俺たちを監視していたのは魔王軍の残党が俺たちの周辺にいたからだと説明された。


 そしてエミーを殺したのもガルデムを殺したのも、その魔王軍の残党の仕業だと。


 俺はそれを信じて、そして二人の仇を取ろうと魔王軍の残党を潰しまわって。


 それでも魔王軍の残党は巧妙に隠れたり逃げたりして、全てを潰すことはできなかった。


 そんな日々が続いて、ついには強大に思えた勇者の力にも翳りが出たところで、帝国と魔王軍の残党が和解したのだ。


 魔王を倒しても延々と続く戦いに厭戦感情が大きくなったからと言うのが理由らしい。


 和解後は魔族は亜人として扱われるらしい。


 こんなもの納得できるわけがないよな。


 だから俺は抗議して、暴れて、いつの間にか人間と亜人の敵になっていた。


 今度は魔族だけじゃなくて、人間も敵だ。


 でも弱りつつあった俺じゃあ討たれるのも時間の問題だった。


 とある小競り合いで負傷した俺は這う這うの体で森に逃げ込み、木のうろの中で少しずつ流れていく血を眺めながら考えた。


 何が悪かったんだ、誰が悪かったんだと。


 でも考えても考えても答えは出ない。


 そして俺は、()()()()()()と願いながら──死んだ。


 ◇


 人が死んだらどうなるのか。


 俺も小さい頃気にしたことはあるが、まさか自分の体で確認できると思わなかった。


 目覚めた時俺は俺のままで、しかし時間だけが巻き戻っていた。


 理由は分からない、理屈もわからない。


 しかしチャンスをもらったと嬉しかったよ。


 子供の体はどうにも慣れず、ある程度自由に動けるまでは苦痛でしかなかったが、それでも生きている両親を見た時は思わず涙がでた。


 俺の両親は魔王軍が完全復活した時の大侵攻で死んでしまったからだ。


 俺はこの機会をどう活かそうか考えた。


 色々な案を考えたが、試行錯誤して最終的に残った案はハイン・セラ・アステールを魔王の器にしないということだ。


 そして魔王が別の器を探している間に、その魂を滅ぼしてしまう事だ。


 器がない魂だけの魔王なら、俺一人でも勝てる。


 今の俺は全盛期ほどではなくとも、ある程度は勇者としての力を引き出せる。


 だからまずはハインと親しくなろうと考えた。


 ハインが魔王に体を乗っ取られたのはあいつの魂が魔に偏っていたからだ。


 魔王は邪悪な魂を持つ体にしか宿る事は出来ない──俺が、俺たちが旅の間で知った事である。


 しかしそれには大きな障害が二つあった。


 一つはハイン自身が物凄く嫌な奴だということ。


 そしてもう一つは俺がどれだけハインを嫌っているのかを俺自身が自覚していなかったという事だ。


 入学したあの日、俺はハインの顔をみた瞬間頭に血が昇るのを感じた。


 ハインがセレナを冷たくあしらうのをみて、口を出すのを止められなかった。


 おかげでハインからは多分嫌われてしまっただろう。


 ──そう思っていたのだが。


 "この世界"が俺の記憶とは色々と違うことに気づいた。


 あれだけ横暴で凶暴で悪辣だったハインが、なぜだかやけに大人しい。


 教師には敬語まで使っていた。


 まあ基本的なところで以前のハインと似た部分はあるのだが、それでも俺の知るハインとは大きく違っていた。


 だがそれでも俺のやることは変わらない。


 嫌でもハインと親しくなり、邪悪の芽を潰し、魔王が入り込む余地を無くす。


 そして魔王の存在を世界が認知する前に魔王の魂を滅ぼす。


 これらをなるべく静かにやり遂げる。


 そうすれば勇者という強大すぎる存在が世界から認識されず、ゆえにセレナもエミーもガルデムも死ぬことはない。


 仮に()が人間だったとしても、勇者パーティそのものを認識できないのだから危険視されることもないだろう。


 魔族だったとしても同様だ。


 魔王はいつのまにか滅びているのだから恨まれる恐れもない。


 これは本当に良い案に思えたが、俺はすぐに思った以上に難しいことに気づく。


 ハインと全く仲良くなれる気がしないのだ。


 今朝もそうだ……。


「よう!!! おはよう、ハイン!!!! 今日もいい天気だな!」


 嫌悪感に気付かれないように大声で誤魔化し、爽やかに挨拶をしてみせたのに──


「……」


 ハインはちらりと俺を石ころを見るような目で見て、無視をした。


 以前の様に目が合うだけで悪態をつかれるということはないが、根本的な所では同じらしい! 


 ハインはやっぱり嫌なやつだった!!

色んなジャンルを書いてるので他もよろしくお願いします。


最近は祠壊しブームにのっかって


「そんなクソ祠、早速明日にでもぶっ壊しにいきましょ!」 (短編)


を書きました。暇ならこっちも見てください

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最近書いたやつ。

幼い頃、家に居場所を感じられなかった「僕」は、再婚相手のサダフミおじさんに厳しく当たられながらも、村はずれのお山で出会った不思議な「お姉さん」と時間を共に過ごしていた。背が高く、赤い瞳を持つ彼女は何も語らず「ぽぽぽ」という言葉しか発しないが、「僕」にとっては唯一の心の拠り所だった。しかし村の神主によって「僕が魅入られ始めている」と言われ、「僕」は故郷を離れることになる。
あれから10年。
都会で暮らす高校生となった「僕」は、いまだ“お姉さん”との思い出を捨てきれずにいた。そんなある夕暮れ、突如あたりが異常に暗く染まり、“異常領域”という怪現象に巻き込まれてしまう。鳥の羽を持ち、半ば白骨化した赤ん坊を抱えた女の怪物に襲われ、絶体絶命の危機に陥ったとき。
──目の前に現れたのは“お姉さん”だった。
「お姉さんと僕」

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そこで彼は完璧な計画を立てる――弟アリウスと婚約者エリナを結びつけ、自分は王位継承権のない辺境公爵となって、欲深い愛人カザリアと自由気ままに暮らすのだ。
「屑王太子殿下の優雅なる廃嫡」

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※ カクヨム、ネオページ、ハーメルンなどにも転載
「徒花、手折られ」

秩序と聞いて何を連想するか──それは整然とした行列である。
あらゆる列は乱される事なく整然としていなければならない。
秩序の国、日本では列を乱すもの、横入りするものは速やかに殺される運命にある。
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「秩序ある世界」

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愛しているはずなのに。
不倫を告白した妻に対し、怒りも悲しみも湧かない「僕」。
しかし妻への愛は本物で、その矛盾が妻を苦しめる。
僕は妻のために「普通の愛」を持とうと、自分の心に嫉妬や怒りが生まれるのを待ちながら観察を続ける。
「愛の存在証明」

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そんなある日、親が死んだ。
「ともしび」

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「愛・剣・死」

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孤独な和夫にとって、ユノだけが理解者だった。
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しかし二人は「愛を科学的に証明する」という前代未聞の実験を開始する。
手を繋ぐ時間を測定し、心拍数の上昇をデータ化し、親密度を数値で管理する奇妙なカップル。
一方、彼らの周囲では「愛される祝福」を持つ令嬢アンナが巻き起こす恋愛騒動が王都を揺るがしていた。
理論と感情の狭間で、二人の天才魔術師が辿り着く「愛」の答えとは――
「愛の実証的研究 ~侯爵令息と伯爵令嬢の非科学的な結論~」

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果たしてエリーナは悩める冒険者たちにどんな道を示すのか?
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「その追放、本当に正しいですか?」

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話はよく聞きましょう。
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