触診
◆
──少し働かせすぎたかな
ハインは唐突に衣服を脱ぎ捨てたフェリを見てそう判断した。
主の眼前で全裸になるなど、尋常な精神状態ではあり得ない。
疲労が溜まり、思考が混乱しているのだろう。
だが、ハインはそれを責める気にはならなかった。
むしろ主として、忠実に尽くしてくれる臣下には報いる必要があると考える。
それが貴族たる者の度量というものだ。
ハイン・セラ・アステールという男は冷酷に見えても、一度身内と認めた者に対してはそれなりの責任感を持っている。
「お前はどうされたいのだ?」
ハインの声は常と変わらず平坦だった。
彼にとってフェリの裸体など何の感情も呼び起こさない。
彼女はハインの所有物であり、忠実な従者だ。
ペットが生まれたままの姿でいることに劣情を抱く飼い主はいないだろう。
──要するにフェリは、俺に体を見て欲しいというのだな
ハインは一つの解釈に辿り着く。
己の肉体がどれほど仕上がっているか、それを主に示したいのだろう。
従者としては悪くない心掛けだ。
そう思ったハインだが──
──いや、待てよ
ハインは先日の出来事──劣等雌、カレルの治療を思い出した。
そして、一つの可能性に気付く。
──そうか、フェリもまたあの劣等雌の様に魔力の流れが不全だという事か
それならば納得がいく。
自分の不調を素直に口に出せず、このような形で示してきたのだろう。
そう考えたハインは内心で舌打ちした。
──それならそうと早く言えばよいものを。この女はどうにも肝心なところで遠慮がちになる
ハインは内心で溜息をつき、ゆっくりと立ち上がった。
そしてフェリの前に立つ。
フェリは身じろぎもせず、ただ静かにハインを見上げていた。
その瞳には、主への絶対的な信頼と、そして僅かな熱が宿っているように見える。
ハインはその熱を、体調不良によるものだと判断した。
「ふむ」
ハインは医者が患者を診るように、淡々とフェリの全身を観察し始めた。
まずは視診。
褐色の肌、しなやかな筋肉、そして豊かな胸の膨らみ。
視線は冷静に、その肉体の隅々までを検分していく。
──見たところ、特に異常は見当たらないが
魔力の流れはスムーズで、滞っている様子はない。
だが本人が不調を訴えている以上、何か見落としがあるのかもしれない。
ハインは完璧主義者だ。
僅かなノイズも許さない。
目でだめなら、次は触診だと考えた。
「動くな」
ハインはフェリの肩に手を置いた。
その手から伝わる温度は、フェリの体を微かに震わせる。
「う……」
小さな吐息が漏れた。
ハインはそれを意に介さず、指先に魔力を集中させる。
皮膚を通して体内の魔力の流れに直接干渉し、その状態を探る。
指が、鎖骨の窪みをゆっくりと辿る。
首筋を這い上がり、そして再び下方へと降りていく。
その動きは正確無比で、一切の無駄がない。
だがその無機質な指の動きが、フェリにとっては奇妙な感覚を呼び起こしていた。
「ぁ……はぁ……」
フェリの呼吸が少し荒くなる。
ハインの指が豊満な乳房の付け根に到達した。
彼はその柔らかな肉を無造作に掴み、持ち上げる。
そして、魔力の滞留がないか確かめるように、指を沈めた。
「んんッ……!」
フェリが思わず声を上げる。
乳房全体に、甘い痺れのような感覚が広がっていく。
ハインはそんなフェリの反応を、魔力が正常化する過程での一時的なものだと判断していた。
彼は淡々と診断を続ける。
片方の乳房を念入りに調べ終えると、もう片方にも同じことを繰り返す。
指はフェリの柔らかな肉の感触を確かめながら、魔力の流れを精密に読み取っていく。
その度にフェリの口からは微かな声が漏れた。
「ふむ、やはり胸部に魔力が集中しているな。だが、許容範囲内か」
ハインは独り言ちる。
彼の指はさらに下へと移動し、引き締まったくびれをなぞる。
そして、脇腹から背中へと回り込んだ。
滑らかな背筋を辿り、肩甲骨のあたりを入念に調べる。
フェリはもはや、自分の体が自分のものでないような感覚に陥っていた。
全身が熱く、思考が定まらない。
そしてハインの手がフェリの臀部に到達した。
鍛え上げられた、しかし女性らしい丸みを帯びたその肉を、ハインは両手でしっかりと掴む。
そしてその弾力を確かめるように、強く押した。
「あっ……!?」
フェリが声を上げる。
腰が砕けそうになるのを、必死に堪える。
ハインはそんな彼女の様子に眉を顰めた。
「どうした。立てないのか?」
「も、申し訳……ありま、せん……」
フェリは震える声で謝罪する。
だが、ハインはそれを不調の表れだと解釈した。
やはり、どこかに異常があるのだ。
そして、その原因は恐らく──
ハインはフェリの正面に回り込み、その下腹部に手をかざした。
女性の体の中心であり、魔力が最も集まりやすい場所。
「悪いがここも調べるぞ」
ハインは淡々と告げた。
「なに、魔力の流れに触れて直接診断するだけだ」
そう言って、ハインは迷いなくフェリの体の深部へと魔力を送り込んだ。
直接指で触れる事はしなかった。
まあより完璧を目指すならば、フェリの秘部に指を突っ込んでかき回すほうが確実ではある。
──だがまあそれはさすがにな
ノンデリの権化であるハインにも、その程度の情けはあった。
だがしかし。
ハインの魔力がフェリの下腹部をぐるぐるとかき回していくと、フェリの思考が真っ白になった。
「んんんんんッッ!!」
声にならない叫びが、喉の奥で詰まる。
ハインの魔力が体内を駆け巡る。
それはまるで熱い奔流のようだった。
体の内側から直接弄ばれているような感覚。
「ふーむ?」
ハインは首を傾げた。
──魔力の流れはやはり正常だ。むしろ活発すぎると言ってもいいくらいだ。勘違いか?だが、念のためにもう少し詳しく調べる必要がある
ハインは送り込む魔力の質を変化させ始めた。
時には優しく包み込むように、時には鋭く突き刺すように。
その変化が、フェリにとっては耐え難い刺激となっていた。
「あッ……! だ、め……若様……!」
フェリの体が弓なりに反る。
快感の波が次々と押し寄せ、彼女の理性を奪っていく。
ハインの魔力が、ある一点に集中した瞬間。
「ああっ!!」
フェリの体が大きく跳ねた。
そして全身の力が抜け、その場に崩れ落ちる。
強い刺激の余韻に浸り、ぴくぴくと痙攣するフェリ。
ハインは倒れ込んだフェリの体を咄嗟に抱きとめた。
「やれやれ、大袈裟な奴だ」
ハインは溜息を吐きながら、ぐったりとしたフェリを見下ろす。
そして、診断の結果を告げた。
「しかし喜べ。お前の体に異常はない。魔力は全身を正しく流れている」
彼はフェリをベッドに横たえ、乱れた髪を整えてやる。
「お前の気のせいだ。少し休め」
そう言ってハインは再び読書に耽った。