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異世界お爺ちゃん

作者: HORA

2024年8月19日 未明の時間帯

都内を中心に日本全国で数百人の人物が失踪するという怪現象が起こる。

大半の失踪者は家族が翌朝に寝室を確認すると寝室から消えていた。


またある若者は失踪した瞬間に友人と一緒にいて撮影していたという。

街灯の下でくだらない会話をたまたま撮影していた最中の若者が消えた。

服、ネックレス、指輪、手に持っていたスマホがポトリと地面に落ちる。

それを動画投稿サイトにあげたことでその動画は大バズリした。

<いや、、マジか…>

<これスマホの撮影機能のマジック…だよね?>

<消える前からの撮影の手振れとかリアルだからマジっぽいけど>


この事件は日本中に様々な憶測やうわさを巻き起こした

【神隠しは高次元空間の生物や宇宙人に誘拐される事だ】

【失踪した人物は産まれながらにして実は霊体だったんじゃね?】

【誰か暇なヤツが仕組んだ壮大なフェイクニュースかな…?】

【俺が超能力でやったんだよ。ずっと前から預言してた通りにな】


更に不可思議な事には、戸籍を持たない、誰も知らない人物が、

こちらも都内を中心に30名程が現時点で国に保護されている。

この30名程は受け答えや証言がはっきりとしているものの

皆が口を揃えて

「いやいや、(私・俺・僕)じゃなくて、周りの人が全員あの日から記憶喪失になってる!」

と言う。


あの日以降に家族や友人、同僚に話しかけたものの、

「ん?誰ですか?」

と言われる。当初はふざけているのか?プチイジメでも始まったのかと考えていたのだが

家族にまでそのように対応され何かがおかしいと、SNSで同様の状況に置かれた人たちはいないかと集まったのだという。


この令和の神隠し+αと話題になったこの事件はおよそ一か月後に一応は解決…では無いが原因の究明に至る。


かの怪現象から3週間程経った頃、、、

泉にて全裸で体を洗っている小柄な老人がいると通報が入り、

警官が駆けつけてみると確かに魚を獲ろうとしていたのか全裸で水の中に石を投げている小柄な老人がいた。

一応女性警官を後方に下げさせ、男性警官3人で小柄な老人に話しかける。

「お爺ちゃん。お爺ちゃん。ちょっとこの泉で魚獲らないでね。あと何か服着てよ。」

その小柄な老人は割と素直に指示に従い、水から上がって来てくれた。服は泉の(かたわら)に置いてあったようで着たものの、酷く汚れている。臭いも凄い。ホームレスであるのだろうが、それにしても警官たちが見た事の無い老人。この地区を定期的にパトロールしている警官たちが初対面であるホームレスというのは結構珍しいので最近、別の地区からやって来たということだろう。会話も通じはするのだが、言い回しや方言が強く、要領を得ない部分もある。さらに所持しているお金を確認してみた所、40(もん)…。

古銭しか持っていなかった。


「あはは。お爺ちゃん。これじゃ今の時代蕎麦(そば)は食べられないね~。ちょっと色々サポートできると思うから署まで一緒に来てくれるかな?」


炊き出しのやっている地域や、しばらくは受け入れてくれる施設、老人でも働くことができる働き先などを紹介するべく、いったんパトカーに乗ってもらう。署に向かうパトカーの車内。その小柄な老人は眼を輝かせて窓の外を見ていた。


「お爺ちゃん、パトカー乗るの初めてですか?ほとんどの人達はまぁパトカーなんて乗った事無いですよね~」


警察署に到着。署内でその小柄な老人と会話する。



………しばらくしたのち、近場の大学から、そして日本の各地から、歴史文学・民俗学の教授が呼び寄せられて、その小柄な老人から発せられた証言の確認・検証がなされる。


この老人はおそらく1824年(文政7年)の8月、200年前から現代にタイムスリップしてきた人物であると分かった。

決め手は1824年6月下旬に起こった大津浜事件(イギリス人が水戸藩大津浜に上陸)から2週間程の後、7月上旬にて江戸の瓦版でその事件を知ったという証言。それを受けての翌年1825年の異国船打払い令を知らなかったことから間違いないだろうとの事だ。


現代の話に戻し、では日本中を騒がせた大勢の行方不明事件や出自不明の怪事件とは何だったのか。推測の域を出る事は無いが1824年からこの小柄の老人が消えた由に生きていた動植物が死に、また死んでいた動植物が生き、200年後の今を変えてしまったのだろう。

若者ではなく、すでに70歳は越えているであろう老人のタイムスリップである事から影響は少ないのであろうが、それにしても都である江戸に居住していたということでまずまずの改変が現代に起きてしまっていた。


さて。この小柄な老人であるが既に2024年内において世界中のアイドル(?)となっている。その一挙手一投足が注目され、陽気で明るく話す様子はメディアの話題を独占した。

身長134cm 体重26kgの宇宙人のような小柄な老人。この地球上の人種において圧倒的に産まれが早く大大大先輩。しかしこの小柄な老人にとっては産まれながら鎖国していたはずの国が、わずか数代とも言える200年が経つと平均170cmを超える巨人だらけ。距離を越えて映像や通話のやり取りが出来、眼も止まらぬ速さで鉄の塊がわんさか走っている。現代人やそのテクノロジーこそが異世界であるように感じているようだ。


その小柄な老人は、TVや携帯電話の仕組みこそは理解したようであったが、画面越しでの会話や携帯電話での通話を信じていなかった。やり取りそのものは真摯(しんし)に受け答えをするのだが、TVや携帯電話での会話そのものに価値も意味も無いのだという。研究者の一人が何故価値が無いのかと尋ねたところ、実際に顔を合わせてやり取りをしないと言霊(ことだま)が届かないばかりか、間に別の霊が侵入して別の徒言(あだごと)(無意味な言葉)に書き変わってしまうのだという。そうした発言や価値観はネットニュースになり、多くの現代人は一笑に付した。

「江戸の頃の宗教ってどんなだっけ?そういう信仰があったのかな?」

「まぁ俺らも宇宙人に連れ去られたら混乱してしまいそうだし」

言霊(ことだま)って今でも信じてる人いるからいいんじゃね?」


世にあふれている様々なものの正しい仕組みや構造を現代人は知らないにも関わらず、さも知っているかのように小柄な老人に教える。大大大先輩への敬意などはもう無くなってしまったかのように「いやいや、違うってお爺ちゃん…」「そうじゃなくってね…」愛の見えない訂正ばかりを行なう。


小柄な老人が雑誌のインタビューに語った記事。その内容がまた一大センセーショナルを引き起こす。

以下一部を現代語に訳して抜粋


【こちらの世界に来て初めの3週間程は懸命に九泉のあちこちを歩き回った。そして見回りの人達に保護されてからは様々な体験をさせてもらえて、余生を割と楽しむことができている。しかし今、この世界に暮らす人々とは何なのだろう?この200年の間に何が起こったのだろう。


この世界の人達は私がこちらにタイムスリップしてきたのだと言うが、それはあり得ない。私は江戸の大火に捲かれ死んだはず。九泉の底にいるこの人達は何か勘違いをしているのだろう。】


九泉とはあの世のこと。私達現代人が私達の論理で小柄な老人の出生を推測していたのだが見当外れであったのかもしれない。科学的に再現できない事故とも言えるタイムスリップに関連する行方不明事件と誰も知らない人々が生まれた事は今後、どのように世界に影響していくのか。再度起こり続けるのか…。それとももう全てが終わってしまっているのか…。


小柄な老人の言う事は真実の事なのか、誤りなのか…、、

小柄な老人は嘘を吐いているのか、いないのか…、、


誰も知らない、分からない以上

あなたの判断に(ゆだ)ねるしかない

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