親は子供を選べるが子供は親を選べない
お馴染み“月曜真っ黒シリーズ”です。
<両親が何かの理由で離婚する事になって、「お前はどちらに付いて行きたい?」と聞かれたとすれば、その子供は幸福である>
オレはそう考える。
そしてこうも考える。
<このように言われた子供はきっと親からの愛をそれなりに受けたのだろうから、親の離婚やそれに関わる事象についても心を痛めるのだろう>と
では
「お前はどうなのか?」
と聞かれたら……
「なりゆきに任せるしかない」
と答えるだろう。
なにも達観しているわけではない。
小学5年生のオレは、それなりに経費がかかるが……それに見合う結果をもたらしてはいない。
その様な“不良品”を積極的に引き受けるのは理屈の上からも感情の上からも
有り得ない事だ。
ただ、『可能性の有無』の点から考察すると母親はオレの肉体的な部分に“慰み”を求めている事実があるから……母一人子一人となれば、今までとは比べ物にならないくらいオレを自由にできるだろう……
失礼、ちょっと吐き気をもよおした。
オレにもまだ少しは“感性”が残っているらしい。
困ったものだ。
そんな物、何の役にも立ちはしないのに……
で、話を戻そう。
例えば、男が女を囲う場合……それなりに経済的余裕が必要だろう。
さすればオレの場合は、離婚後、父親からどの程度の養育費が入るかと言う話になるが……父親の“能力”からすると心もとない。
今でさえ……オレと違って有望な一つ下の弟の大翔の……“将来合格するであろう”私立中学の学費捻出の為に、オレに掛かる学費を大幅削減意しなければならない現状なのだから。
仮に母親がパート勤務から正社員雇用にシフトされたとしても、オレ自身がバイトなりで家計に貢献できるまでには、まだ4、5年は掛かる。
その間のオレは文字通り“タダ飯食い”だ。
ただ単なる“慰み”でオレを飼うくらいならマッチングアプリなどで男を捉まえてヤる方がはるかにマシという事は、容易に想像がつく。
結局、“慰み”にオレを利用するのは今の生活があるからで……母親の慰み事にとってはオレを利用するのが最も安全と言えるわけだ。
そうだな! よほどのことが無い限り、母親から離婚の話は出ないだろう。
うん!今、書いていて気が付いた。
カノジョの身から出たこのオレをカノジョの身の中に受け入れること自体は、生物学?的にはストレスが少ないのだろう。
勿論これは、倫理的側面や懐妊の可能性を考えると飛んでもなくハイリスクな事なのだから……これらをぶっちぎってたびたびヤると言うのは最早、人でなしで、それはそっくりオレにも当てはまるわけだ。
ああ、また身の毛がよだって来た。
中途半端に感性が残っていると実に厄介で、それを打ち消すのには“欲望”はいいクスリだ。
まさにジャンキーの行動原理で……つい数か月前、陽葵のポニーテールの香りに胸がドキドキしてしまい、初めて自分でシてしまったオレなのに……今は母親とする時には陽葵の顔を思い浮かべるというクズっぷりだ!!
だから今、“吐き気をもよしている自分”を保持したくて、オレはその映像を頭に思い浮かべてみる。
まずカノジョから産まれ出た時は
きっとこんな感じなのだろう。
狭くなった部屋全体が収縮してオレを排除する様にトンネルへと押し出す。
そのトンネルとは自分の頭で押し広げ掘り進めなければ死を意味する様な過酷な物で、オレは全ての供給を断たれ、その苦しさから逃れる為に死に物狂いで本能の指し示す“出口”へとあがく。
やっとの思いでカノジョの中から這い出たオレは泣き叫び、生きるのに不可欠な空気を己の肺に取り込む。
こんな事、2度は成功しない……この事については後で述べる。
そうやってオレに命を与えたカノジョは……手懐ける為にこの“ケダモノ”に餌を与える。
しかしながらカノジョの本来の目的にはオレは不適合で……出来損ないのケダモノにピッタリな使い道として……カノジョのむき出しの本能を充足させる道具として……使い物になるくらいに成長したオレを使用する事となったわけだ。
出たところへ体の一部分を使って入り直す行為はケダモノにとっては予想以上に刺激的だったが……
ここまで書いて、ちょっと読み返してみると我ながら非常におぞましい文章の様に思える。
“おぞましいと思う”のは……“私立中学への受験勉強”という名目で読まされた様々な随筆や小説などの一節の影響による物だろう。
母親と父親はいわゆる“デキ婚”で……母親の結婚の手段としてこの世に生を受けたオレとは違う真っ当で高尚な人たちが記した言葉達が不必要にオレを揺り動かしているわけだ。
だからオレの独白をおぞましいと感じる諸兄は、ほっと一安心されるが良い。
そうではなく、この文章になにかしら共感を持たれる方がいらっしゃるのなら、これから先を読み進むのは自己責任として欲しい。
さて、去年のクリスマスイヴに日頃散々と“お世話”になっている陽葵にシコシコと磨いたリンゴをあげた。
さすがに素手での取り扱いは陽葵が可哀想なので……すべて手袋をはめて執り行ったが、あげたリンゴの処遇に陽葵一家は苦労した様だ。
きっとオレの事を恨めしく思っているのだろうが……それでいい。
オレの中で『恋愛ごっこ』が成就すればいい。
それを理由付けとして……自分勝手なオレは、陽葵とやり取りしているグループワークノートに遺書を書いた。
これから疏水に飛び込もうとしている人間?ケダモノ?にしては冷静に叙述したので誤字脱字は別として比較的読み易いだろうと判断し、その遺書をここに引用する。
--------------------------------------------------------------------
何から話せばいいだろう…
よくある物語みたいに
まずは書いてみる。
このノートが君の手に渡る頃には
僕はこの世には居ない。
充分時間は経っているだろうから
これを書いた後、僕が万一、ヘタを打っても
この世から去るための代案はある。
でも、このノートを投函した後で
僕が取る手段は、過去に実績があるから
容易に僕を彼方へと運んでくれるだろう。
ここまで書いたら察してくれると思う。
僕がこの世を去るのは
事故じゃなく
ワザとだ。
全くもって不名誉な死に方なんだけど
後から話す理由の為に僕はこの方法を選ぶ。
キミの事、好きだって言ったのは本当だよ。
キミは他の子とは違っていたから
僕に抱かれる価値がある。
こう書くと当然怒るよね。
でも、不遜なのは
死を選ぶ者の特権だ。
それに僕は
ちゃんと『機能』するんだ。
この『機能』の意味をキミが察したとしても
いいだろ?!
実際は
僕の汚れた手で
キミを穢さないよう
キチンと手袋をしたんだから
クリスマスイヴのあの日も……
汚れた手の話はあと、
まずは、磨いたリンゴの話
あのリンゴを見つけた時
絵に描きたいと思ったくらいだけど
僕には絵心がないから
磨くことによって
僕の最後の…最期のかな??
魂の光沢を写し込もうと思ったんだ。
キミからの写真見たよ
あのリンゴは僕の心
僕の心臓
それをあんなふうに咲かせてくれて
食べてくれてありがとう
でも、キミやキミの家族の中で
生き続ける気は毛頭ないから
そんなに気味悪がらないで
とは言っても
汚れた手の話をしたら
気味悪がられるだろうな
そう言った意味では
あのリンゴを食べさせた僕は
エデンの園の
不埒な蛇みたいだ
さて、手の話に至るには
まだ、段階がある。
クリスマスイヴのあの日
僕は摘果の話をしたよね。
果物を育てる時には
摘果の他に、摘花、さらには摘蕾というのをするそうだ。
僕はね、僕の留守中(とは言って僕は立ち聞きしたのだから実際は留守ではなかったわけだが)に僕抜きの家族会議で、この言葉を聞いたんだ。
この紙面で母の言葉を再生してあげよう。
母
「塾で、今回、はっきり言われたの。本当は摘蕾がいい。花や、ましてや果実まで成長してしまうと損失はそれだけ深刻になるって。星難中は入学時に約60万、学費他で年間100万位かかる。塾としては損失だが、勝ち目のない隆一くんはやはり摘果して、浮いた塾の費用をプールすべきって」
次は父の言葉だ。
「話がうますぎやしないか? 隆一に勝ち目が無いのは分かるが、塾なんて営利主義だろ? 二人通わせた方が塾としては収益が上がるじゃないか」
母
「有望な大翔を育て上げて星難に合格させて、塾としての実績を上げた方がメリットが大きいそうよ」
大翔
「ダメな兄ちゃんの分までがんばるから……受かったら絶対星難に行かせて!」
この内容だと、僕抜きの家族会議は前から行われていたと分かるだろ?
うん、“neglect”だ。
それならそれで仕方ない。
自分の力の無さは
否が応でもデーターで示される。
それに大翔……弟の方が地頭は上だ。
この事においては……比較対象が居ない一人っ子……キミもそうだったよね……を羨ましく思うよ。
これだけなら、僕も……今回の仕儀には至らなかっただろう。だが、以下の言葉が父の口から発せられたんだ。
父
「塾の先生の言った通りだよ。隆一は元々お前がだまし討ちして、できた子だ。やっぱり『摘蕾』すべきだった。そうすればオレの許可の上でできた優秀な大翔だけだったのに……」
母
「そんな!! あの子は……あなたの名前の『隆』を分けた大切な子よ!!」
父
「ああ、お前がオレと結婚する手段として、大切だったんだよな」
母
「ひどい!」
父
「何をいまさら! お前だってさっきはひどい言いぐさだったぞ! 逆に感謝してもらいたいよ。今まで大翔と隆一は分け隔てなく育てて来た。 しかしこれからは隆一の学資保険はやめて、月々一万円も掛けさせられている助け合い保険だけにするか……」
散々な言い合いだろ?
でも僕が一番ムカついたのは、この言い合いの最中、大翔が鼻でフン!って笑った事だったよ。
こんな言い合いを聞かされちゃ『生きる』って気が削がれるよ。
それでも僕自身の手が汚れたわけでは無かった。
僕自身の手が汚れたのは…この『家族会議』からしばらくたってからだ。
その日、僕は やっぱり勉強していたんだ。 悪あがきじゃない! いや、
とは言えないか
やっぱ言われっぱなしは悔しいからね。
努力したよ。
でも成績は伸びなかった。そんなに短期間に伸びるわけはない。
また大翔に鼻で笑われるかと思うと断腸の思いで、僕は歯嚙みしながら机に向かってた。
ふっと気配がして、次に淡いお酒のにおいがした。
水曜日だったので大翔は塾で僕は休みだった。
父親は……多分遅い。
そんな状況だから母は酒を飲み始めたものと思われる。
近づいてきた母はうっとおしくも僕の頭をくしゃくしゃとなでた。
もみあげとかがはねるとイヤなのでその手から逃げたら
今度は胸に後頭部を抱きしめられて、その弾力に正直あせった。
母はなぜかクスクス笑いで
「昔はあんなに好きだったのに」
と白いニットをずり上げた。
母に触られた。
「愛おしい。本当に愛おしい 誰が何と言おうとあなたは私から生を受けたの。だから私はあなたを受け入れるの」
僕のスウェットの上に下に手を挿し入れた母の言いぐさだった。
そして、今度は母を
触らされて
僕の手は汚れた。
だけど僕は
ちゃんと
『機能』した。
それから僕と母の関係は始まった。
日ごとにエスカレートして
どうかすると母は
僕の腕の中で
少女の様に感じることがあった
だから僕は腕の中の人を
僕の見知った子にしばしば置き換えた。
独りじゃないよ。
とっかえひっかえだ。
背徳って
すごく甘いけど
僕の持つ知識でも
その内、ヤバい事になるのは分かっていた。
どうして母は、何の措置もしないのか
理解できないけど
僕には僕の最期が見えて来た。
産まれる前から死ぬまで
この人に利用されるんだと。
そして、これから起こるであろう事象を考えるとウザいので
もう幕を引くんだ。
『損失』と言われるのもまっぴらだ。
父の言っていた助け合い保険は、僕の場合、死亡時の給付金は1000万なんだ。
のしは付けられないけど、これを損失補てんとして叩き返したく思う。
そのためには
事故死である事が必須なんだ。
だ・か・ら
このノートの内容は、僕の周りの人や、保険会社や警察の耳には入れないで欲しい。
そんなに言うなら……
初めから黙って消えればいいのだけど
あのカムパネルラにだってジョバンニがいたんだ。
僕がキミに
切符を渡すのも
ありだろ?
キミに告白できて
僕は、幸せだったよ。
何かしようとしたって
無駄な事だ。
何もするな!!!
いいあんばいで大雨になってくれた。
疏水では水が
触れると切れそうなぐらいの冷たさでゴウゴウと流れているはず。
雪も積もってくれているし
後はシュミレーション通りに
旅立つだけだ。
僕の銀河鉄道は真っ暗で
まさしく
僕にふさわしい。
じゃあね!
--------------------------------------------------------------------
どうだろう?
『お涙ちょうだい』までは行かなくとも、なかなかにあざとく仕上がったと自分では思っている。
こうやって書き綴れるのは、あなたがた(二人以上居ればの話だが)にとってオレが見ず知らずの他人だからだ。
もしオレの死に様が新聞やテレビで報道され、それを見てしまったら不愉快に思われるかもしれないが、死人に怒っても仕方ないだろう?
悪いがオレにとっては知った事じゃない。
産道をくぐった時は生きる為にあがいたけど……これから疏水に行って飛び込む時には……死ぬ為にあがくんだ。
だから“損失補填”と言う足枷を重しにしてオレは飛び込む。
醜いオレだからこそ死に際くらい潔くありたい!!
“美学”にすらならないくだらない意地だがね。
親は子供を選べるが子供は親を選べない
だから死を選ぶだけ
窓の外の大雨はいつしか吹雪に変わっている。
人知れず事を運ぶには持ってこいだ。
ではこの身を、疏水へと運ぶとするか
このお話は黒楓の代表作『不都合な子供たち』
https://ncode.syosetu.com/n7911hr/
由来のものです。
昨年の6月から7月にかけて書いた物ですが、当時、相当落ち込んで……以来なかなか連載小説が書けなくなってしまいました(^^;)
今日も主人公の“隆一くん”を頭の中に取り込んだら激しく消耗しました(-_-;)
文章はいびつですが、おそらくカレならこう書いたと思います。
ご感想、レビュー、ブクマ、ご評価、いいね 切に切にお待ちしています!!






