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最終話

…………


 これで、終わる。僕の短すぎる生涯も、人間との穏やかな日々も。


 決して人間と交わる事のない精霊として生まれながらも、受肉した事により交流が生まれて、最終的にはこの手で人間を救う事すら出来た。

 そっか。そうなんだ。僕は幸せ者だったんだ。


 でも、トコに会えないのが心残りだし、あの別れ方が最後というのは本当に悲しい。もう一度会いたい。話したい。あの温かい手で触れてほしい。


「トコ…… ごめん」



 そう思った時、どこからか「大丈夫よ」と、巫女様の声が聞こえた気がした。


……

………


ゴゴゴゴゴゴゴ!



 モンスターを森に足止めさせて、村に戻る途中のラヒム達の後ろから今まで見た事のない強烈な光と衝撃、そして激しい振動が遅いかかってきた。


「な、何だ!?」

「うわああああ!!!」

「キャアッ!」


 その衝撃に立つ事すら出来ず、地面に這いつくばる。


「い、一体…… グアッ!!」


 リーダーがその態勢のまま後ろを振り返った瞬間、今度は煙や土砂が襲いかかる。


「これが奴の爆発だってのか!」

「そ、空を見ろよ、オイ」

「あ、あれは……!」

「夜中の夜明け……?」


 夜中だというのにわずかの間、空がほのかに光っているように見えた。この異常現象による恐怖と混乱が人々を包み、モンスターも恐れをなして一目散に逃げ出していく。


「バク、お前はやってくれたんだな」


 ラヒムは想像を遥か超える爆発に驚きはしたものの、特別な恐怖は感じていない。これはバクによって起こされた事である以上、恐れる理由は一切無いのだ。


「本当にありがとう。そして……」


 ラヒムは涙を流しながら黙とうをするようにゆっくりと目を閉じた。


……


 一方、村の方にも同じく強烈な音と衝撃と振動が村を襲う。老朽化していた建物の一部が損壊して飛んできた土砂や破片で怪我する者も多く、あまりもの光景に思わず死を覚悟する者もいた。


 その後も不思議な事は続く。爆発の余波も収まってようやく状況が落ち着いた頃、今度はキラキラとした青い光の欠片が辺りに降り注いだのである。その光景を見た人々はそれぞれ別の印象を抱いた。


「今度は一体なんだ!」

「大丈夫なの!?」

「綺麗。星が降ってくるみたい……」

「……」


 度重なる謎の現象にみんなが動揺している中、トコだけはその光の正体を知っている。製造所の中に避難していたトコは、窓から見えた青い光を見た瞬間、部屋から飛び出して建物の外で立ち尽くす。


「バ、バクちゃあぁぁん!」


 空を見上げるトコの涙は止まらない。


「バクちゃぁぁあん!こんなの嫌だよ。どうしてよ。バクちゃぁぁあああん!!」


 青く美しい光が降り注ぐ幻想的な空の下、一人の少女はずっと泣き続けた。


……

………



”……大丈夫だよ。トコ”


 その時、誰かが”聞こえない声で”少女に話しかけてきた。


「へっ?」


 空から親指大の青いクリスタルが、意思を持ったかのようにトコの近くにゆっくり舞い降りてゆく。


「バクちゃん!」

“トコ!”


 爆発により魔王の呪いから解き放たれた汚れの一切無い清らかなクリスタルは、大好きな少女の手の平に包まれる。


“これからはずっと一緒だね”

「うんっ!」


 他の人には聞こえない声を聞きながら嬉しそうに少女は笑い、クリスタルは月の光を受けて優しく光る。その光はとても喜んでいるように見えた。


……………


 一方、悪夢の夜が明けて、森の様子を目のあたりにした時人々は恐怖していた。たった一体のモンスターにより森の一部が吹き飛んでいたからだ。

 従来の爆弾岩とは比較にならない圧倒的な破壊力を持つモンスターの出現により、今までの戦いが一変するという事を突き付けられている。


「さて、これからどうしようか」


「まずは城に戻って報告しないといけないな」


 リーダーとラヒムは爆発の痕を確認をしながら淡々と話しているが、それは疲れ切った身体を早く休めたいという気持ちが勝っているからだろう。

 20体以上のモンスターによる襲撃という、過去にない戦いに勝利した事はとても大きな意味を持つ。


 しかし、それはあの爆弾岩がいたからだ。もし彼がいなかったら今頃ここはモンスターにより廃墟と化していただろう。そう。バクがいなければ……


 その時。ラヒムの元にトコがやってきて、信じられない事を言いだした。


「パパ!バクちゃんが帰ってきたよ!」


「なんだって!?」


「……ほらっ!」


 トコがゆっくり両手を広げると、そこには青く輝くクリスタルがあった。


「これが、あのバクだって……?」


「うんっ!」


 トコ以外誰も声を聞く事も出来ない、この小さなクリスタルが生きているとは信じがたいが、良く見ると僅かに光り方が時々変わっているのがわかる。おそらく気分や感情でかわるのだろう。


「バクちゃんが『村を救ってくれてありがとう』 だって!」


 トコのその言葉で、バクの話は本当だと確信した。バクはそういう奴なのだと知っているからだ。


 これから世界がどうなっていくのかはまだわからない。しかし、今はただこのルマル村がモンスターの脅威を退けられた事を聖なる柱、いや、バクに感謝しよう。



ー これからもずっと、このルマルの村を見守ってくれますように ー




----- 完 ----

最後までお読みいただきありがとうございました。


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