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第三話

 日も暮れてくる中、段々ルマルの村に近づいてきた。当然ここに来るのは初めてだけど、森から見るのと近くで見るのでは随分違うんだなと感じていた。


 特に村の中央にある巨大な建物 「薬品製造所」は圧巻だ。


 ここ、ルマルの村は城から遠く離れた村であり、弱いモンスターが少ししかいない僻地だ。

 しかし、この村は定期的に城から偉い人が視察に来るくらい、国にとって重要な村となっている。


 その理由はここにしかない貴重なモノが沢山あるからだ。


 遠い昔、この辺は冷たい火を吐く火山だったとも言われており、その影響からかここでしか生えない薬草が大量にあり、その草を使って様々な薬を作っている。

 ここで作る薬は効能も効果も他とは段違いで、まさに国の生命線だとも言えた。


 更に、ここには珍しい鉱石も多く存在していて、商人や武器職人も頻繁にやってくる。

 僕が”聖なる柱”として年に一度人が集まり、収穫祭が行われるのもこの土地ならではだろう。


 そのルマルの村なら間違いなくトコを元気にする事が出来るし、また遊ぶ事も出来る。そう信じて僕はここまでやってきたんだ。

 揺らさないよう気をつけながら動かしにくい身体を引きずって歩く。そして入り口がハッキリ見えた時、そこにいた門番が大きな声を出した。



「モンスターだ! モンスターが来たぞ!!」



 その声に反応したかのように村中に鐘が鳴り響き、武器を持った人達が門に集まってくる。


「チ。チガウ。チガウンダ……」


 予想された展開だったとはいえ、実際に目のあたりにしたらとても悲しい。とても辛い。とても…… とても……


 身体の中からバキバキと音を立てて、何かが”造られる”ような、とても不快な感情が芽生えていく。

 その時、トコが村の人達に向かって、どこにこんな力があるんだと思うくらい大きな声をだして訴えた。


「違うもん! バクちゃんはモンスターじゃないもん!」


 その声を聞いて一番強そうな人が反応した。


「トコ!」


「パパ!」


 パパ? この人がトコのお父さんなんだ。そっか。良かった。家族が来ているなら

もう心配しなくて良い。僕の役割はもう終わったんだ。


「トコ。モウダイジョウブダネ」


 僕はトコに降りるように優しく促した。


「バクちゃん……」


「ハヤクゲンキニナッテネ」


 僕はトコから離れて、森へ帰ろうと後ろを向いた時、トコが泣きながら言った。


「バクちゃん、ありがとう! また遊ぼうね。きっとだよ!」


 僕はトコの言葉を聞いてこれからも遊びたいと強く思った。しかし、同時にその願いは叶うのか?とも感じていた。

 この一件で家族や村の皆に止められて、トコはもう森に来る事は無いかもしれない。そもそも僕がこのまま森にいる事すら出来るかどうかさえ怪しい。


 いずれにせよ、村人にこの姿を晒してしまった事で今までの穏やかな日々は終わってしまうだろう。

 だから、僕はトコに何を言う事も出来ず、そのままゆっくりと森へ向かって歩いた。


……

………


あれから数日。


 この前のドタバタが嘘のように、いつもの場所でのどかな日常を過ごしていた。

 村へ延々と続く地面を引きずった一本の線が、あの出来事は夢ではないという事を伝えている。


 いつもならそろそろトコが来る時間だな。と思った時、遠くから人の気配を感じた。

 一瞬、トコ!? と期待したけど、すぐにそれは違う事を悟ってしまう。それは大人の集団だったからだ。


「ほ、本当に聖なる柱だったのか……!」


 毎年、収穫祭に来てくれる村長さんが現実を嘆くように呟き、周りにいる人が先頭を歩いていた村長さんを後ろに下げた。

 代わりに先頭に立ったのは見た事のない人達。おそらく調査の為に国から派遣された専属パーティーなのだろう。

 見るからに立派な剣や鎧を装備している時点で、楽観できる状況でない事は明らかだ。


 そして、村長さんの横には同じく武器を装備している、トコのお父さんも同伴していた。


「ト、トコハ……」


 一番気になっていたトコの様子を知りたくて、僕はお父さんに話かけた。


「トコは大丈夫だ。当分は安静が必要だが、あと数日もすれば元気になるだろう」


その言葉を聞いて心底ホッとした。


「ヨカッタ……」


「私はトコの父親でラヒムという。もし君が娘を運んでくれなかったら深刻な状態になっていたかもしれない」


「ウン」


「だからお礼を言わさせてくれ。娘を助けてくれて本当にありがとう」


「ラヒム……」


 少しだけ場の雰囲気が穏やかになった気がした。しかし、気を抜く事は一切出来ない。目の前にいる専属パーティーの存在がそれを許さない。

 身体の痛みが強くなってる事、そして体内からのバキバキという音が、それをハッキリ伝えている。


「な、何よこの底知れない魔力は…‥ こいつただの爆弾岩じゃないわ!」


 僕の変化を感じ取ったのだろうか。僧侶だと思われる女性は怯えた表情を見せながら後ずさり、その言葉を聞いたパーティーは、更に僕への敵意を露わにして遂に剣を抜いてしまった。


 それにより緊迫度が一気に跳ね上がり、同時に僕の痛みも増大していく。


「ボ、ボクニテキイヲムケルノハ、ヤメテクレ」


 ボムロックになってわかった事は、物理的な衝撃だけが爆発の条件ではなく、敵意や憎悪、殺意が一定量を超えた時も条件の一つだという事だ。

 バキバキといいう音が更に大きくなり、周りにも聞こえてしまうと思った時、村長さんが間に入ってきた。


「ちょっと待ってください!」


「村長! 危険です!」


「あなた方は知らないでしょうが、元の”聖なる柱”は遠い昔、大飢饉や病から私達を救ってくれた伝説もあるんです!」


「し、しかし!」


「実際に彼は村の子供を救ってくれた。あなた方もトコの話を聞いたでしょう!?

彼はただのモンスターではありません!」


 村長の説得を聞いて、渋々剣を収めるパーティー。


「バクと言ったな 今までの事を全て教えてくれ」


 今まで村長の傍で傍観していたラヒムが訪ねてきた。


「ウン」


 僕を爆弾岩ではなくバクと呼んでくれた事を嬉しく感じながら、たどたどしくも一生懸命に今までの事を話した。


……

………


「そんな事があったとは」


「酷い。酷すぎる……!」


 共感してくれた村長さんとラヒム。


「……」


 一方、パーティーは僕の事を強力なモンスターと断定して、鋭い視線を変える事は無かった。


「お前の言う事が全て本当であったとしても、我々の、そして国の脅威である事には変わらない。お前は排除しなければいけない存在だ」


「待ってください!」


「しかし、村側の意思を尊重する必要もある」


「……」


「従って今は処分しない。しないが、お前の状態に異変が発生した場合、そして今度お前が村に来た時は、我々は容赦なく全力でお前を排除する」


 異議は認めないという強い口調でリーダーは告げた。僕は元から何を言う事も出来ないが、これが良い落とし所、むしろ寛大な処置だとも感じていた。


「無論、少女とも会う事は許さない」


「!?」


「これからもここでひっそりと見守るがいい」



 専属パーティー、そして村のみんなは振り返り、今来た道を戻っていく。僕は突き付けられたこの現実を、ただ受け止めるしかなかった。

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