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コメディ:おとぎ話シリーズ

王妃さまの魔法の鏡は白雪姫に恋をする

作者: 家紋 武範

 とても美しい王妃さまがおりました。王妃さまは魔法の鏡を持っており、それに訪ねると『世界で一番美しい人はあなたです。王妃さま』といいます。王妃さまは常にご満悦で、さらに美を磨いたのです。


 ある日、王妃さまがいつものように秘密の鏡の間に行きまして魔法の鏡に尋ねます。


「ほっほっほ。鏡よ、鏡よ、鏡さん。世界で一番美しい人は誰?」


 すると今まで王妃さまを写していた鏡の像は暗転し、別な女性を写し出します。


『それは白雪姫でございます、マダム』

「はい?」



 一時静寂。



『それは白雪姫、白雪姫でございます。白雪姫をよろしくお願いいたします。ご声援ありがとうございます。投票用紙には白雪姫とご記入ください』

「いや、それ選挙カーのウグイス嬢のやつ! なにそれ。白雪姫? なにいってんの? なんの冗談?」


『いえいえマダム。世界で一番美しいのは白雪姫となったのです。マダムは二番。三時のおやつはにゃにゃにゃにゃにゃーでございます』

「ナニそれ! にゃにゃにゃにゃにゃー? ふざけないでちょうだい!」


『ごもっともで……』

「はあ? 白雪姫? それって継子の? 陛下の前妻の娘? はー? ないない。それはない!」


『なぜでございます。信じられない、急に受け入れられないのは分かりますが、これが現実でございますよマダム』

「なーに言っちゃってんのやら? 私はこの通り、髪艶よし、顔よし、ボディよし、スタイルよし、色気ありで今まで世界一位だったのよ?」


『顔よし……、つまり顔良(がんりょう)でございますね』

「ほーらこれだ。作者の空気の読めないブッコミ! 読者置き去りの悪いパターン! 一応説明するけど、顔良は三国志の英雄。武力バカで関羽に一撃の元に葬られた武将。ゲームのイメージ画像はいかついムサい男。それを私のイメージにしないでちょうだい!」


『なるほどでございます』

「いやいや、白雪姫!? なんであんな乳臭い子供が世界一位なのよ! 証拠見せなさいよ!」


『いえ白雪姫は当年とって16歳。すでに大人の仲間入り。アラサーの王妃さまから見れば子供かも知れませんが、決して乳臭くはございません』

「やけに詳しいわね。でも私はアラサーでも26歳。アラサーといわれるにはちょっと微妙なところよ? 逆にこの大人の魅力を感じて欲しいわね」


『なるほど、逆にこの大人の魅力を感じて欲しいとおっしゃるのですね!?』

「そのまま私の言葉を復唱しただけじゃない。なんなのよ、急に白雪姫とは」


『もちろん、王妃さまの疑問はもっともでございます。私も証拠を出すこと、やぶさかではございません』

「だったらさっさと出しなさい。余計なことばっかり言わなくてもいいのよ」


 鏡の鏡像は白雪姫の笑顔と変わりました。王妃さまは鏡をじっと見つめます。


『こちらが白雪姫でございます。天真爛漫ではつらつとして、若く将来性もあります』

「うーん、なるほどね。まあかわいいし笑顔もいい。でも世界一位ということになったらどうかしらね? これは……世界一位ではないでしょー。ないない。世界一位ではない」


『続いてこちらが王妃さまでございます。おーめめがふーたつあーりましてー』

「なにそれ、なにそれ。私のこと、線で書こうとしてない?」


『あ、はい』

「はい、じゃないわよ。そんでなに? その絵描き歌。普通、絵描き歌は部品をそのまま言ったりしない。お山とか、お皿とか、そういうのでやって初めて成立するのよ? この下手糞マンが!」


『すいません……』

「反省してないでさっさと私の対象画像を出しなさい」


『はい。それではどーぞ!』


 鏡に新しく王妃さまの姿が写し出されました。


『こちらが王妃さまでございます。ちょうど鼻クソを掘っておりまして、顔が歪んでおります』

「ちょっと待てえーい!」


『そして王妃さまはその鼻クソを床に捨てたのであります。ゴミ箱が遠いからといって、それでいいのでしょうか? いいわけない』

「いやいや待ちなさいよ。なんでこの姿が判断基準なの? もっといい女の子の顔あるでしょう?」


『物語の途中ですが誤りがありました。“女の子”とありましたが正しくは“女性”の間違いです。訂正してお詫び申し上げます』

「なんでよ! 女の子でいいじゃないのよ! そんで誰に言ってるの?」


『しかしですね、王妃さまは鼻クソを……』

「鼻クソはどうでもいいのよ」


『まー王妃さま、鼻クソなんておっしゃって品がない。こりゃますます減点ですね。女の子のわけがない』

「女の子どうこうは、もういいのよ。それにそもそも目クソとか耳クソとか歯クソとか顔から出るクソ連合には目ヤニ、耳垢、歯垢(しこう)などのボカす言葉があるのに、鼻クソだけにはそれがないのがおかしいのよ。鼻クソの80パーセントは涙にも関わらずよ?」


『ですが王妃さまは鼻クソを掘ってらっしゃった。指をズボッと奥まで刺し込んでグリグリと……。幻滅!』

「いやいや。白雪姫だって鼻クソくらい掘るわよ。生きてるんだから、トイレにも行くでしょ?」


『行きませんよー。白雪姫はウ◯コをしません。王妃さまのウ◯コは太くて長いですが』

「なんで私ばっかりディスるのよ! あんたどっちの味方なの?」


『私は中立です』

「そうは見えない」


『いやいや正直者だし、中立だし、審判(ジャッジ)は公平を期します』

「どうだか。おおかた白雪姫に惚れたんじゃないのお?」


『ばばばばバカなことは言わんでください。私は鏡だし、白雪姫は私のことなんてこれっぽっちも知りもしませんし、振り向いて貰おうなんておこがましい』

「まー赤くなっちゃって可愛いわねー」


『や、やめてくださいよー』

「そーか、そーか、鏡は白雪姫に惚れたか」


『いえいえ。私は王妃さまの鏡です。生物でもないし、白雪姫と結ばれることなんて……』

「あら愛にそんなの関係ないわよ」


『いや関係あるでしょう』

「あなた長年使われて魂が宿った鏡の精霊でしょ? 人の姿になれないの?」


『そりゃあ、なれますが』


 鏡はその場でドロンと男性の姿に変わりました。


「ほー、すごいわ。イケメンよ」

『しかしこの通り、少しの魔法と人の姿になれるだけで家柄もお金もありません。国王陛下の王女さまと思いを遂げるなんて無理でしょう』


「ほーっほっほ。私を誰とお思い? この国の王妃、カタリーナ・フォン・ハッツフェルトなのよ?」

『それは存じ上げておりますが……』


「ここから森を抜けた場所に人のいなくなった古城があるの。そこをあなたにあげましょう。魔法の力で改装なさい。その城の王子ということにするのよ」

『私が……王子さまですか? しかしそれだけでは……』


「私がうまい具合に白雪姫を城から追い出します。そしたらあなたが森の中で白雪姫を助けるのよ。そうすれば白雪姫のほうだって心が盛り上がってあなたに惚れるわよ」

『ほ、本当でございますか!? 王妃さま!』


「その代わり、私は世界一位よね?」

『もちろんでございます! マダムは世界一お美しい。そしてお優しい』


「あら口が上手いわね。じゃさっそく私も芝居を打つことにするわよ」

『はい! よろしくお願いいたします! ……しかしなぜ? 私と白雪姫を?』


「私だって陛下との生活を楽しみたいしね、継子がいるとそれなりに不都合があるというか……。でも継子といえども陛下の子だしね。知人のところに嫁いでくれれば安心だわ」

『ああ、マダム。ありがとうございます!』


 そんなわけで王妃さまは、上手く白雪姫を祭事へ連れていき、なるべくして起こした失敗を大事(おおごと)にして怒り狂った(てい)を装い城から追い出しました。鏡が見つけられないといけないので、その間に七人の小人を木こりに偽装させ、山小屋で護衛させ保護しておりました。


 鏡は王子の姿に変化し、魔法で古城を改装すると、みるみる美しい城へと変わります。自分に自信が湧いた鏡は約束通り森の中に白雪姫を探し、そのうちに鏡は白雪姫を見つけたのです。


『おお、なんと美しい姫だろう……』

「あ、あなたはどなた?」


『申し遅れました。私はフィリップと申し森を抜けたところにあるヘッセン城の(あるじ)です。もしよろしかったら我が城にいらっしゃい。なにも不自由はさせませんよ』

「ああ、本当ですの? 実は私はマルガレータと申します。マルガレータ・フォン・ヴァルデックでこの辺一帯の領主の娘です。ですが周りのものは私を白雪姫と──」


『それはまことに。まるで白い雪のように美しい姫ですね、マルガレータ』

「まあお上手ですわね。ですが祭事の儀式に失敗し城から追い出され、こうして森の中で難儀していたのです。フィリップさまのお申し出、まことに感謝にたえません」


『おおそうですか。それは大変でしたでしょう。お城のカタリーナ王妃さまはとてもご英邁なおかた。なにか誤解があったのかもしれません。我が城から詫び状を書いてお出しなさい。私もともに署名します。さすればきっと許してくれるはず』

「ああ、それにすがるばかりです。よろしくお願いいたします」


 こうして白雪姫は鏡のフィリップに抱きかかえられ、ヘッセン城へと迎え入れられました。

 白雪姫は、この頼り甲斐のあるフィリップにたちまち心奪われたのです。


「ねぇ、フィリップさま。お父様とお義母様に送る詫び状はこれでよいかしら?」

『どれどれ?』


 手を伸ばしたフィリップの手と白雪姫の手がふれあい、驚いた二人は恥じらって詫び状を床に落としてしまいます。さらにそれにインク壷が落ちて、詫び状は台無しになってしまいましたが、二人は見つめあった後にキスをしていたので、それに気付いたのは少し後でした。


 仕方なしに白雪姫は、もう一度詫び状を書き直します。それを見たらお城からお許しのお手紙が届くでしょう。

 そしたら結婚の許しを願うお手紙も出さねばなりませんね。


 宛名は、フィリップの言った通り『大切なお父様と、世界一美しいお義母様へ──』。

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― 新着の感想 ―
[良い点] やだ♡ こっちの方がずっと好き。 みんないい人で大団円。 日本人の好む昔話しはこちらですね。 面白かったです。
[良い点] 前半めちゃめちゃ笑いました。二人の自由すぎる掛け合いは漫才! 一転、後半は乙女チック展開でぐぐっと引き込まれてしまいました。そうか白雪姫ってそんな話だったんだ。ディズニーもすっかり騙されま…
[良い点] 本家よりこっちの白雪姫の方が良い! 王妃様も白雪姫も、そして魔法の鏡もみんな幸せになっている! 笑ったりほっこりしたりと、楽しく読ませていただきました(*´ω`*)
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