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マイピースフォーユー

作者: N澤巧T郎

「はい、ピース」


私が昼食を食べていると、彼女が突然ケイタイを取り出してこちらに向けてきた。

私は言われるがまま購買で買ったホットドックを頬張りながら、左手でVサインを作った。


ぴろり~ん


「まあ、別に撮ってもいいけど、なに?なんかの記念?」


なぜ撮ったのか聞いても、彼女はさきほど撮った写真をうつろな目で見たままで、一向に反応が返ってこない。


彼女はときどき自分の世界に入ってしまうことがあるので、こちらとしては別段あわてる必要もなく、ひとまずは購買で買ったパックのカフェオレを一口飲んだ。


「ピースってさあ」


彼女がボーっとしたままそう聞いてきた。

ストローを咥えたまま「ん?」と返した。

しかし、その続きが返ってこない。

再びホットドックを一口食べた。


「平和って意味だよね」


私は行儀が悪いことを承知の上で、口にホットドックを詰めたまま答えた。


「ふぉうなんひゃはい?(そうなんじゃない?)」


彼女は彼女のリズムで1テンポの間、頭の中で考えをまとめたあと、結論を私に報告してくれた。


「じゃあさ、写真を撮るってことはさ、その人をさ、平和にするってことなのかな?」


ホットドックを飲み込んで、私のリズムで1テンポ考えた後、「ん~。そうなんじゃない?」と、てきとうに答えた。


そのあと彼女はケイタイを閉まって、何事もなかったように昼食を食べ始めた。


今テレビで芸能人が法を犯し、会見を行っている。

気分が悪くなるくらいカメラのフラッシュがテレビ画面から発射される。

こういう場面を見るたびに思い出す彼女とのやりとり。

いま四角い箱の中で涙を流している人は、絶対に幸せではないはずだ。


「そのカメラは人を幸せにするためにあるんじゃないんですか?」


そんな質問を毎回テレビ越しに記者へと投げかけ、私はテレビのチャンネルを変える。


CMや広告で、幸せそうな映像が流れると、私は決まって画面の隅へと神経を集中させる。


もしかしたら彼女の名前が書かれているかもしれないから。


しかし、彼女と別れてから、彼女の名前を見たことはない。


余談だが、写真を撮られたあの日、5時限目の授業中、彼女から写メが送られてきた。


『私も幸せです』という件名と、ピースをしながら恥ずかしそうに笑っているその画像は、今でも私のケイタイに、大切に保存してあります。



あなたも大切な人へ、自分のピース写真を送ってみませんか?


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― 新着の感想 ―
[一言] 読んでいて何かぐっと来るようなものを感じました。 日常の本当に何気ない瞬間に思い浮かぶ気持ち。それを見事に綴っていると思います。 人に訴えかけるような作品。 僕もこんな作品を書きたいな。
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