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03話

2022年11月11日、一部文章を修正しました。

2023年4月21日、タイトル修正

 僕らが卒業した学院の話をするなら、カルグストゥス帝国と学制令について触れておこう。


 近隣五つの国をまとめ上げたギュース・ド・カルグストゥス(以下・始祖様)が建国したのが二八三年前。

 始祖様は没落貴族から戦乱期を経て成り上がった経緯があるため、幼少期にまともな教育を受けてこなかったのだ。

 優秀な部下のおかげでなんとかなったものの、教育の重要さを痛感してたため帝位を戴いてすぐぐらいに学制令を出す。


 希望すれば誰でも無償で初等公教育を受けられ、優秀と認められれば中等教育も無償だ。

 そして国家に奉仕してくれる官僚を育てるべく出来たのが高等教育である帝都にある帝立学院だ。

 帝立学院自体は帝国内に五校あるので『五帝大』なんて呼ばれている。

 帝都の学院を含めると()()なのだが。

 まるで五つ六つしかない学院の七不思議みたいなもんだろうか。

 なお帝立学院は全寮制でありながら学費も食費も無料だ。

 これには理由があるが割愛する。


 ただし身分によって入学枠があったりすると学校ごと卒業年ごとによって人材のムラが出てしまう。

 それを恐れた始祖様は帝立学院では縁故枠を一切設けてはならないと学制令に明記した。

 その為どれだけ高貴なる御大尽様だろうがレベルが足りなければ入学は出来ないし、平民階級でも合格すれば入学出来る。

 僕は貴族階級(パトリキ)ではなかったが郷紳階級(ジェントリ)のため両親は教育にそれなりお金をかけてくれた。

 そのおかげか学院に入れたのだと思う。

 なお同期は貴族階級が多くを占めてたが、僕のように郷紳階級や地主階級(ヨーマン)、大店商家の子息もいた。

 だがまったくの平民(プレブス)というのはさすがに居なかったが。


 そんな中、始祖様から数えて十四代目となるリーフェス四世の三女・リーナが僕らの同期だ。

 王族からは時々入学してくるらしいが、王家の、しかも現王の娘が入学してくるのは前代未聞。

 なにせわざわざ帝立学院に入学しなくても立場や役割は保証されるだろうし、むしろ『婚姻の道具』としての立場であるのなら修身学院というのも存在するからだ。

 縁故枠がないからきっと必死に学問に打ち込んできたのだろう、リーナは入学時も在学時も物理系学問を除いて成績は非常に良かった。

 が、生活態度は良かったなんてとても言えるもんじゃなかったが。



==☆==



「おう、ジン! 飲みに行くぞ!」


 リーナはジンを後ろから羽交い絞めにし叫んだ。


「お姫様よぉ…、なんつー色気のない誘い方してんだよ」

「うっさいわねぇジンのくせに! ねぇみんな! 明日、安息日なんだし今から飲みにいかない?」


 今週の授業がすべて終わって解放された気分なのは分かるが、リーナは自分の立場なんかお構いなしに大声をあげる。

 ほかのみんなも一緒に行くつもりだろうか、リーナの周りに自然と集まる。


「アンジェリカ、お前も行くぞ!」


 リーナは僕まで羽交い絞めにすると皆を引き連れて教室を出ていく。


「リーナ様、あの、僕、今週金欠でして……」

「あぁ? 金は天下の周りものっていうだろ? 無ぇなら出世払いで貸してやるぞ! アンジェリカなら貸し倒れる心配はなさそうだし利息は安くできそうだな! キシシ」


 リーナはいつも王族とは思えないような笑い方をする。

 きっと王城では品行方正を求められているのだろう、学院では素の少女であった。

 口調や行動は砕けすぎて下品だが。


「アンジェはいつも何に金を使ってるんだ? 飲みいかねぇ、博打もやらねぇ、女も買わんのに」


 リーナを挟んで左側にいるジンは僕に言う。


「ジンよぉ、察してやれ。アンジェリカは真面目が服を着た奴だぜ?」


 リーナはため息をつきながらもやれやれと首をすくめながら役者めいて言う。


「あ、ジンに貸すなら、年利五十%以上は取らんとな」

「リーナひでぇなぁおい。俺にもアンジェと同じぐらいにしてくれよ!」

「そんなことしてみろよ、あたしのお小遣いのために国債発行しなきゃいけんなるわ!」


 そしていつも五番街にある金のアヒル亭に行く。


「いらっしゃー……、あ! リーナ様ぁ! ようこそお越しでぇ!」

「よぉミルス! おっぱいでかくなったか?」


 リーナはにやにやしながら自分の胸あたりを両手でさする。


「もうバッチバチですぅ!」


 ミルスは色っぽい仕草をして応える。とはいえ、当時のミルスは十歳にも満たないが。


「今日は……全員で何人だ? おいジン、数えろ」

「リーナぁ、いつも通り十八人ですよ」

「そーだそーだ、空いてるか?」

「はーい大丈夫ですよ。十八人様ご来店ですぅー!」



「で、だ! 人の話を聞いてるのか? アンジェリカー!」

「リーナ様、何度も申し上げますが僕はアンジェですってば……」


 リーナは僕の肩を乱暴に掴み体を振り回す。


「うっさい! 飲め! おーいミルスぅ! こいつに牛乳ぅ!」

「はいはーい! アンジェ様、牛乳ですー。リーナ様、和らぎ水ですぅ」

 ミルスは水と牛乳を持ってくる。


「ミルス、俺にワイン持ってきてくれ」

「うっさい! ジンはそこの水でも飲んでろ!」

「なんでだよー! てかなんでミルス、お前がワイン飲んでるんだよ」

「いいじゃん飲み屋なんだし! これノンアルワインだよ!」

といつもミルスもこの飲み会に混じってくるのだ。

 なお、ミルスの飲み代はきっちりと会計に含まれていた。

 いつも商売上手だなここの女将はと思ってる。


「みんな飲んでるかー! 誰かあたしと飲み比べすっぞー!」

「リーナやめろ、お前、まじ飲みすぎだぞ」

「リーナ様、これ以上はまずいですって!」


 そう言いワインをラッパ飲みし始めたリーナだったが、突然ワインを吹き、ふらつく。

 そしてせっかく今まで飲んでたものが床に撒き散らされるのだ。


「……遅かったか」

「あぁ……、おーいミルス、悪いがバケツとモップ借りるぞ」



 酔いつぶれたリーナをベンチソファに横たわらせ、床掃除を始める。

 これが飲み会の終了合図だった。



==☆==



「リーナ様って今では『氷結の薔薇』だなんて言われてるのよ、街の娘たちの憧れだし」

「といっても、俺らからしたら『嵐の王女様』だよ、もしくは……」

「ジン、それ以上言うな」


 僕は青い顔をして言葉を遮る。

 口直しにモックテール(ノンアル)を注いだ。


「とりあえず……、着任予定が開花神の月(Aprilis)だから、壮行会は二週間後でいいんじゃね?」


 ジンは羊皮紙を見てミルスにそう言った。


「わかったわ、じゃあママに伝えとくね」



 なんか、僕の意思そっちのけで決まったようだ、壮行会。

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