04話
一週間のナゥルィズ休暇を経て学校生活が始まった。
しかしその休暇最終日の夜。内線法具が鳴り、カオリルナッチから新年度の風紀委員の立ち会いを頼まれたのだ。
「前回もでしたけど、先んじて言って頂けませんかねぇ?」
『あははーごめんごめん、余りにもほのぼのしたバカップル見てたらついつい忘れちゃってー、てへ♡』
「───この連絡は受けなかった事で……」
『ごめんなさい、純粋に連絡忘れですぅ! 時間外勤務手当がしっかり付くのでお願いしますぅー!』
「わ・か・り・ま・し・た! もう、今回だけですよ!」
『えへへありがとー! じゃあルーチェ先生と一緒にお願いね!』
夜明け前に登校した僕らは既に一番乗りで待ってた小柄な銀髪少女ポーリァに挨拶をする。秋の立ち会いでも稽古でも彼女はいつも一番乗りで準備して待つ性格だ、しかし遅刻にはめっぽううるさいが。
「おはようポーリァ君」「ポーリァちゃんおはよー」
「おはようございます先生方、───アンジェ先生、もう、またネクタイがっ! ……あ、ダイジョウブデス」
僕の首元に手を伸ばそうとしたポーリァだったが、すっと手を引っ込める。何かを察したのか一瞬血の気が引いたようにも見えたのだが。横を見るといつも通り朗らかな笑みを浮かべるルーチェが居るのだが。
「ところでポーリァちゃん、この前貸した、剣闘術稽古指南書、読んだ?」
「あ、はいっ! 勉強になりました!」
ルーチェの呼び掛けに背筋を伸ばして返事する、まるで背中に鉄芯を入れられたかのようである。しかし表情は柔和で年頃の乙女そのものであろう。というか稽古指南書か、懐かしいな。
「じゃあ今日からその指南書に併せてあなたの稽古計画を組むから。いい先輩になれるよう頑張りなさい。───もし読み終わったらアンジェリカに渡しておいて」
「はい、ありがとうございます!───アンジェ先生どうぞ、もう読み終わりましたから」
「あぁありがとな。───ん? おい、これ」
「ん?」「どうしたんですか?」
「これ、僕が学生時代に亡くしたと思ってたやつじゃねぇか!」
何かを思い出したのか、即座に回れ右して駆け出すルーチェ。事情を聞かせて貰おうかと猛然と走る僕。その日に限ってヒールでなくスニーカーのルーチェになかなか追い付けずあちこち追い掛け回す始末だった。
「あらあら、朝からお盛んね♡」
「あ、カロリーナ先生おはようございます」
「サンドイッチ食べる?」
★ ☆ ★
校門で学生証を提示して通過していく学生たち、それを風紀委員たちが鷹の目のように厳しくチェックしていくのだ。中には呼び止められて違反切符を切られる者、情状酌量が認められ警告止まりで赦される者がいる。
前回では、制服サイズを超えて成長したミノンが停められてたな。その後学院に卒業者が寄付し保管されてた中古制服に使えるサイズがあった為、無償交換してもらったそうだが。……むしろそんな大柄な女学生が過去に居たのだろうか?
「んー、たぶん私の親戚だと思います。だって、あの呑平のママとかみんな、この学校出てますから!」
と言ってたのでなるほどと納得してしまった。
「アンジェ先生、出番です!」
そんな時、風紀委員の一人から呼ばれ現場に駆けつける。そこにはミノン程では無いが大柄な乙女が小柄なポーリァと言い合ってるのだ。
「ポーリァ君、どうした」
「アンジェ先生、この新入生なんですが制服規定違反、爪と靴下の規定違反、靴もだめです!」
挙げられた指摘事項を聞いて彼女を見やる。仕立てられたばかりの制服に色々手を加えたのかそれを着崩しているし、まるで魔女か山姥かと思える程の爪、ベルト付きガーターに網タイツ、そしてヒール姿である。前に『セルフプロデュースの方向性を見誤った子』の話をカリナがしてたが、彼女の場合はどう見ても売春宿の風俗嬢というべきか……? 行ったこと無いが。
「んだよ、エロい目で見んなや」
「いや、そんなつもりは無いが」
「なんだ、タマ無しか?」
彼女は僕に一瞥くれると舌打ちする。そしてわざとらしく溜息つくとポケットから棒付きキャンディを取り出して口に放り込んだ。それも規定違反ですと叫ぶポーリァにまぁまぁと言って落ち着かせる。
「んたっく、こちとら勉強しに来てやってんのに朝からぎゃあぎゃあうるさいのよ。……通るよ!」
と僕とポーリァに体当りするかのように押し通って校門を抜けようとした為、ポーリァが派手に転びそうになる。慌てて抱きとめて起き上がらせると僕は言った。
「ちょっと待て、君!」
「んぁ?」
「人にわざとぶつかって挨拶も無しとはどういう了見だ」
「んなもん、人の前にぼけーっと突っ立ってるからだろ? それともあれか? 詫びに朝から一発ヤラしてやんよと言えば満足か?」
「はぁ……?」
「んたっくよぉ、さっきも言ったけどわざわざ勉強しに来てやってんのにさ───」
「じゃあ帰れば?」
どうも気付かなかったが相当な騒ぎになってたらしい。学生たちが野次馬と化して僕たちの周りを遠巻きに囲んでいたのだ。学生たちをかき分けてルーチェが歩み寄る。
「朝から一生懸命メイクして、髪も綺麗に整えて、気合い入れてきたのは認めるけど……、忙しい中わざわざ勉強しに来なくていいから、───帰れば?」
「はぁ? 先公が何言っ──」
「帰ればって言ったの、聞こえない?」
「……ッ! 聞こえてるわよ!」
「あなたは何を勘違いしてるの? まさか、ここを風俗嬢養成学校と勘違いした? 今どき“立ちんぼ”でもそんな格好じゃあ買い手付かんわよ?」
「んたっくうっせぇな!」
彼女は懐から何かを取り出そうとしたが、いつの間にかすぐ脇に居たステヴィアと風紀委員長が彼女の肩関節を固める。取り出した何かがぽとりと落ち風紀委員長がすぐ蹴り飛ばし、そしてそのまま組み伏せたのだった。
「どんな状況でも暗器を抜いたら官憲に突き出さねばなりません。何が不愉快か解りませんが人生にケチ付くような真似は差し控えるべきです」
「───ッ!」
「幸い何かをただ取り落としただけでしょう、しかし先生に楯突く行為は現任してますので、今すぐ学生指導室へ連行しますわ」
風紀委員長がそう言って二人が校舎に消えていった。なお蹴り飛ばした何かはステヴィアがハンカチで包んで拾い上げた。
「い、一体何なんだ?」
「分かりやすいぐらいの跳ねっ返りね」
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