帝女隊物語~その5~
結局パパからこれ以上手が荒れるような事をするなら美容会も辞めてもらうからなと警告を受けましたわ。
「てか何故理髪師が賤業だかルーナに教えてやってくれ、トール」
「はっ!」
宰相トールが説明するには、この世に賤業と呼ばれる仕事は色々あるらしいのですがその中でこの国には『手が汚れる・荒れる仕事』があるそうです。例えば手が荒れ易い塗装業や洗濯業は人から下に見られる傾向にあり、その理由は『そこまでして銭を掻き集めないと生きてけないから』らしいです。
「とはいえルーナ殿下、理髪師ギルドでも『賤業からの脱却』を目指しております。しかし貴人たる殿下が手が荒れていれば人から軽んじられます」
「市中の民らが必死に生きようと頑張ってるのに、私たちはお手々ツヤツヤで無ければ軽んじられるって、この世界の貴人って呼ばれる人たちはどれだけ脳みそお花畑なんですか?」
「えぇお花畑です、なにせ自分たちの世界でどれだけ幸せイニシアティブを掴むかしか考えてません。本当に腐ってます。しかしあなたは貴人として生まれた義務もあるんです」
「誰も産んでくれなんて頼んでません!」
なんですの、その謎理論。私は思わずこう言い返しましたが、言った瞬間にはっとしました。言い過ぎました、そして謁見の間の空気が一瞬で空気が凍りつきました。そしてパパが玉笏を砕けるかと言うほど握りしめ血相がみるみる変わっていくのが見えたので、私は先ず謝ろうと跪こうとしたらママが泣きながら部屋を出ていかれたのです。
「ルーナ出ていけ――今すぐ出て行けぇ!」
パパはそう言うと玉座から立ち上がると玉笏を地面に叩きつけると大声で怒鳴り散らしながら謁見の間を出ていきました。
「誰ぞ、誰ぞいる! ルーナを王宮から摘み出せ!」
トールはしばし唖然としつつも正気に戻ったのか慌てて玉笏を拾い上げると私に一礼して出ていきました。突然出て行けと言われた私はどうすればいいのかと立ちすくんでいると若い侍女のラティオが小走りでやってきました。
「ルーナ様、城下外れの離宮へ」
「ど、どど、どうしよう、パパもママも怒らせてしまった」
「取り敢えず落ち着きましょう、――私も一緒に参ります」
そう言って私の目をしかりと見たラティオの言葉に頷くしか出来ませんでした。
「あ、リーナ殿下とステヴィア様も参りますから、ルーナ様の必要なものは別の侍女が後でお持ちしますのでアスパルテム様と共に馬車に」
「え、何でリーナも?」
「えぇ……、ルーナ殿下の前にリーナ殿下も陛下と皇后から折檻を頂きまして。―――またお茶会で貴人子女を殴ったのです」
「はぁ、今年で何度目だっけ、三度目だよね」
私の可愛い妹リーナはお転婆で癇癪持ちの性格でした。少しでも嫌なことや不愉快な事があれば年上だろうが殴り掛かるような性格です。しかし何もなければそんな事はしませんからきっと何らかの理由があるのですが、むしろこのような行動をとる事自体が問題なので、彼女の教育係は何度も変わりました。
離宮に移った私達は両親の怒りが解けるまでここで生活することとなりました。と言っても目の前にはラティオしか居ません、ってかいつもの口うるさい侍女も居ません。
「殿下、学校はこちらから通います。――しかしこれ以上手荒れが酷くなれば私の首が物理的に飛びかねません。ですから洗髪や染髪などの手がかぶれる真似事を続けるようでしたら通学も諦めて下さい」
「はぁ? 行くのは私の義務よ!」
「じゃあ、もし私が断頭台の露に消えても平気でいられるならどうぞ!」
「――なによ、なによなによ! ラティオまで私がやりたい事を邪魔して! ……ほんと嫌!」
「じゃあ、この離宮も出ていきます?」
「寝るわ! 朝ごはん要らない! もう放っておいて!」
私は不貞寝することにしました。何でもかんでも生まれがどうとか言うのは腹立たしいのです。全てをこの一言で片付られる『皇族の呪い』に、悲しいのです。
★ ☆ ★
リーナは一週間ほどで赦され、侍女のラティオと共に王宮に帰りました。
皇族相手にでも忖度せずズケズケ言う若いラティオですが、何故かリーナやステヴィアにも懐かれました。きっと他の侍女と違って真摯に話を聞いた挙げ句にズケズケ言うから気に入られたのだと思います、そして彼女はリーナ付け侍女となりました。
そして入れ替わりに来た侍女長のアリシアが私付けの侍女になりました……降格左遷です。どういう理由でかは判りませんが本人は清々したと言ってました、何があったのと訊くとニヤリと笑うだけでした、怖ッ!
で、私は赦されませんでした。ですが、気にしてません。ここに入っていれば舞踏会だ夜会だ食事会だと呼ばれることがありません。ですから『お姫様停止中』を楽しんでいたのです。
そして離宮生活がついに二年以上が過ぎました。
「殿下、随分と上手になりましたね」
「えぇ、メィの指導の賜ですわ」
私はブロッキングしてヘアクリップまみれのアスパルテムの髪を切り払ってました。練習相手として月に二度アスパルテムの、二月に一度はラティオの散髪をしておりました。他にも厨房長や他の使用人たちも散髪するので『髪切り殿下』と陰口叩かれてることも知ってます。
最初はちょっと毛先を落とすだけでも数刻もかけてましたが今では数十分もあれば出来るようになりました。よくやってるつもりでいますが、やはりメィのような手際は有りません。
「ところで殿下」
「ん? ラティオも切る?」
「いえ……、王宮から書状が届いてます」
「―――なんて?」
「期日までに必ず出頭されたし、とだけ」
「ふん」
中等学校三年目。
美容会も随分と大きくなっていきました。様々な会派、理髪部やメイク部、ネイル部にと分化していきましたし会員も随分と増えましたし、指導してくれる方も増えました。最初はメイクして楽しむ会だったが随分と大きくなったと思いますわ。
ですがこのタイミングでどうして私は王宮に呼ばれなきゃ行けないのでしょうか。これを無視すればきっと武装女官達に拉致されるのでラティオに馬車を用意するようお願いしたのです。
「頭は冷えたか、ルーナ!」
謁見の間で散々待たされた挙げ句、ドスドスと派手に足音を立てて両親は玉座に座りました。しかし私は何も応えずに跪いたままです。
「ふん、お前の様子は草共が逐一報告してくれたわ。――余程美容会がお気に入りと見る。随分と会を大きくなったそうだな」
私はそれでも応えませんでした。パパは何が言いたいのか、それを言葉の節々から探すようにしてたのです。パパは応える気の無い私を見て鼻を鳴らすと、
「理髪師はもういいだろう。髪切り殿下なんて離宮で言われてるようだがバカにされてるのも気付いてるのだろ?」
というのです。やはり理髪師は認める気が無いそうです。そんなに私の手がつやつやピカピカなのが良いのでしょうか。そんなに私に貴人としての価値を求めるのでしょうか。
「――ちっ」
自然と舌打ちしてました。そして私はパパをぐっと睨み、言いました。
「そんなに手が綺麗なのが良いんですか? そんなに私が理髪師になるのが反対なんですか? わかりました!」
「そうか、やはりルーナ――」
「帝女隊に入りますわ! そこなら手は綺麗ですわ、全身汗まみれでしょうけどね! 皇族だろうが遠慮はないと聞いたことがありますから、それなら結構ですよね!」
「――出てけぇー!」
勘当されました。
離宮に住むことは赦され、私はその後普通に学校へ行き修了試験を終えました。そして帝軍地方連絡部の出頭期日まで過ごし、そこから私の軍属生活が始まったのです。勘当された身ですからもう皇族ではありません。ですから私はただのルーナとして生きていくつもりです。中等学校では友達は多かったですが、新たな生活でも友達ができればいいなと思います。
あ、私の与力・アスパルテムも帝女隊に入る事となりました、彼女に打ち合わせなんかせずこうなったため巻き添え感しかありません。なお彼女には入隊の可否について未だ怖くて聞いておりませんが。
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