01話
2022年11月11日、一部文章を修正しました。
2023年4月21日、タイトル変更
「えっ、それってクビってことですか?」
という僕の問いかけに教授のファルスはふぅと一息付いて話を続けた。
「いやいや違うよ、こういう仕事が来たんだよ。最近ずっと根詰めてるからどうかなと思って。リフレッシュの提案だよ」
ファルスは羊皮紙にまとめられた束を机にそっと置き、コーヒーを飲む。
僕はそれを手に取ってぼんやりと眺める。
「定期的に出してる論文も、申し訳ないが体裁がとれていないこと、君自身が気づいてるんじゃないかい?」
慎重に言葉を選んでいるんだろう、言い淀みながらも続けた。
そしてファルスは渋そうな顔をして老眼鏡を外し、
「君、神経が衰弱してる、と思うんだよ僕は」
と言うと再びコーヒーを啜る。
卒業後の同期らは官僚や軍属になったり起業したりと学院を散っていった。
だが僕だけは真理を探究するためにこの学院に残ったのだ。
いまさらになってそれが良かったかどうかわからない。
三年五年と時が経つにつれて同期の中には出世をし、研究ばかりの僕の耳にもその活躍の話が入ってくる。
そんな中、僕はずっと研究室で足踏みを続けているのだ。
真理の探究だなんて格好のいいことを言っていたのが恥ずかしい。
「どうだろうか、アンジェ君、すこし考えてくれたまえ」
ファルスは胸元からパイプを出すと着火魔法で煙を燻らせた。
「はい、すこし時間を頂いても良いですか?」
「あぁ。君はストリバ語もわかるわけだし、魔法力学を専攻してきたわけだから担当教科の問題ないだろう。それに、剣闘術も指導できるんだっけ?」
「剣闘術なんて選択課外でやった程度ですよ、まぁ教士級数は持ってますが」
「ならこの条件に適うのは君しかいないじゃないか」
「教授、やはり僕ってクビですよね」
「だから違うってば。アンジェ君、今日はもう帰りなさい」
ファルスは笑いながら胸元から革袋を取り出し机に置いた。
「本当は一緒に飲みに行きたいとこだが、学会の打ち合わせがあってね。よかったらこれで飲みにいきなさい」
「教授、僕、飲めませんよ」
「あ、そうだっけ? あはは、まぁ三番街にでも繰り出せば良いもの食えて楽しめるぞ」
紳士然としたファルスが下卑た笑みを浮かべる。
余計なお世話ですよ教授、心の中で愚痴て革袋をファルスに押し返す。
「では一晩考えてみます」
「そか、色よい返事を待ってるよ」
僕はソファから立ち上がり、一礼して研究室を後にした。
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