子猫はどこ
町のはずれの倉庫街の一角にその倉庫はあった。かつては使われていたと思われる庫内には箱や樽が雑多に置かれていた。長い事使われていなかったのであろうか空気はカビ臭かった。そんな倉庫の奥に人影が数人あった。
「お前さんたち、まだ見つけられないの」
積み上げられた木箱の上に座った、うら若い女性が言った。
「へい、ケイト様。申し訳ございません。手分けして探しておりますが、まだ見つかっておりません」
男達が跪いて答えた。
「あの猫は大事な猫なんだよ。それを逃がしてしまうなんて。ボスが幹部会から戻られる前に探し出すんだよ」
ケイトはいら立ちを抑えながら冷徹に男たちに言った。
「さんちゃん、おいで」
シオンはベッドに入る前にサラマンダーを呼び出した。
「もうそいつ呼び出さなくていいよ。俺、何もしないからさ」
布団にもぐりながらペーターは言った。
「ペーターが何かするから呼んでるんじゃないよ。ジジに寝る前には必ずだれか呼ぶように言われているからだよ」
シオンの両手の上に精霊世界から呼び出された小さなサラマンダーが現れた。サラマンダーは喜んでいるのか、シオンの腕から首に移り、顔を周りを這いずり回りながら頭の上へ上った。
「ははは、さんちゃん、くすぐったいよー」
頭の上のサラマンダーをおろすとその頭をなでながら言った。サラマンダーを胸に抱えるとベッドに横たわり布団を掛けた。するとそこへコトラが潜り込み、やがて眠りに落ちた。
「あー--っ、鍵を掛け忘れた!」
翌朝、あけ放たれた窓のを見てシオンは叫んだ。窓は大きく開かれており、カーテンがはためいていた。
「大変!コトラがどこか行っちゃった!探してくる!」
昨夜、一緒に寝ていたはずのコトラが起きたらいなかったのである。シオンは慌ててパジャマの上からローブを被ると、ドアを開けて外へと駆け出して行った。奥のベッドで寝ていたペーターは眠い目を擦りながらボケッとして見送った。
朝早く、日も登ったばかりだが王国第二の都市では仕事に行く者、商品を市場に届ける者など人影がすでにあった。まばらな人通りの中、黄緑のローブを纏ったシオンは町の中を走り回った。右や左をキョロキョロと見ながら走っているとやがて町を流れる川に架かる橋へとやってきた。橋へと近づくと、欄干の上に白い子猫が座っているのが見えた。
「あ、コトラ!」
シオンは一目散にコトラに駆け寄ろうとした。橋の近くまで来るとコトラのすぐ前に二人組の男がいるのに気付いた。男達はコトラに向かって両手を広げて、ジリジリと近づいていた。
「よーし、子猫ちゃん、こっちはおいで」
ドスの効いた猫なで声をだしていた。それを見たシオンは
「私のコトラちゃんに何してるの!」
そう叫ぶとコトラと男達の間に割って入った。
「なんだ、お前は。その子猫はおじさん達のだぞ」
男の一人はシオンを睨みつけると、両手を伸ばしつかみかかろうとした。
「やだっ!」
シオンは咄嗟に両手をその男に伸ばした。すると何か胸を強打されたかのように男は後方へと吹き飛んだ。それを見たもうひとりは腰からナイフを取り出すと、
「貴様、なにをしやがった」
そう言うとまっすぐにシオンを突いてきた。シオンもかわそうとしたが、間に合わず左肩にナイフが刺さってしまった。
「キャア」
ナイフはシオンの左肩に突き刺さった。シオンは左肩を抑えて座り込んだが、抑えた右手の下から血が流れだした。その地は左腕を伝わると地面に到達し、そこに血だまりを作った。
「へへ、おとなしく子猫を渡してれば痛い目を見ないですんだものを」
男はナイフに付いた血を薙ぎ払うと、地面にうずくまったシオンを見下ろしながらコトラに近づいて行った。シオン呻き声をあげ、左肩が痛く動くことが出来なかった。その様子を見ていた欄干の上の子猫は怯えた目をしていた。男はゆっくりと近づき、あと1メートルのところまで来ると右腕を伸ばし、子猫を捕まえようとした。
その時、男の頭上に影が出来た。正確には頭上から何かが落ちてきていた。
ズドーーン
その物体は勢いよく落ちると、男を押しつぶした。空から落ちてきたのは巨大な赤いトカゲだった。トカゲは男をつぶしたあと、しばらくすると徐々にしぼんできた。
「ありがと、さんちゃん・・」
シオンはくずれゆく意識の中でそうつぶやくと、その場に倒れ込んだ。




