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おまえは誰の部下なんだ

「なんだと、ケビンと連絡が取れないだと」


 薄暗い場末の酒場の片隅でザルタンは言った。


「へ、へい。やつらに会いに行ってから連絡が無いんです」


 ザルタンの向かいに座った男は答えた。

 王国第二の都市ミルダーク。その下町にその酒場はあった。外が暗くなるにつれ、酒場は賑やかになっていた。あくまでも場末の酒場であり、客はならず者や浮浪者、貧乏旅人などであり、品は無かった。ある者は酔いつぶれ、またある者はテーブルの上で踊っていた。その一番奥の丸テーブルがザルタンの指定席であった。


「それで、ケビンはシレーヌのところへ何しに行ってたんだ」


 ザルタンは聞いた。


「シレーヌ様に頼まれた案件を片付けたんで、その報告と報酬をもらいに行きやした」


 男は声を震わせながら言った。すると、


 ドンッ


 ザルタンはテーブルを拳でたたいた。テーブルの上のジョッキや皿が少し跳ねた。


「シレーヌなんかに”様”を付けるんじゃねぇ。お前は誰の部下だ?このラッフィング・ピエロのボス、ザルタンの部下だろう」


 ザルタンは低い声で男を脅した。


「へ、へい。すいやせんでした、ボス。シ、シレーヌでやす」


「で、いつから連絡がねぇんだ?」


「一昨日でやす。一昨日の朝出かけて、昨日連絡があるはずやしたが、今日になっても音沙汰がございやせんで、やつのねぐらに行ってみたんでやすが、そこの連中が言うには一昨日から帰ってきてねぇそうでやす」


 ザルタンはジョッキのビールを飲み干すと言った。


「てぇえと、考えられるのは逃げたか、寝返ったか、殺されたかだな。逃げたなら地の果てまで追って殺すまでだ。寝返ったにしろ、殺されたにしろ、どちらかならシレーヌが俺らの敵になったってことだ。・・・幹部会を開く、1週間後本部へ集合するように伝えろっ」


 ザルタンは腕を組み目を閉じると考えこんだ。



   時をさかのぼること2日



「はぁ、はぁ、ここまで来れば大丈夫かな」


 ペーターはシオンを背負ったまま森の中を突き進み、やがて元来た街道へとたどり出た。あたりはすっかり暗くなっており、月の光が無ければ真っ暗であっただろう。近くにあった岩陰まで行くとシオンを地面へとおろした。


「おまえ、一体何してたんだ」


 ペーターは息を切らしながら聞いた。


「えっと、助けてくれてありがと。うんとね、ウサギさんを追いかけてたら迷っちゃって、それで声の聞こえるほうへ行ったら火の玉が飛んできて、それでね、危ないからえいやってやってたら腰が抜けちゃった。えへっ」


 シオンは森の中で起こったことを説明した。


「まったく、何言ってんだか分からないよ。まぁいいや、後付けてたら何かとんでもないことに巻き込まれていたんで、つい助けちまった。感謝しろよ」


 ペーターはシオンに向かって偉そうに言った。


「へぇ、何で後付けてきたのぉ。かわいい私のことが気になったのかな?」


 いじわるそうに言われるとペーターは顔を赤らめ、くるりとシオンに背中を向けた。


「そんなことより、もう暗いからあまり動かないほうがいいな」


 周囲を見渡しながら言った。


「それじゃ、ここで野宿しよっ」


 シオンはそう言いながら両手の指を伸ばし、体の前でそれぞれの指が接するようにした。


「なに言ってんだ、こんなところで・・・」


 ペーターが言いかけているのも聞かず、シオンは続けた。


石の(ストーン・)お家(シェルター)


 そうつぶやくと、二人の周囲の地面から岩の壁が盛り上がってきた。それは徐々に高さを増し、2メートルほどになると今度は頭上をふさぐように伸び、やがて完全にふさがった。すると当然ながら月の光は完全に遮断され、視界が完全に真っ暗になった。状況の変化に追いつけないペーターはあたふたしたが、シオンは落ち着いて「小さな光(ライト)」とつぶやき、手のひらに明かりを作り出した。


「これでお部屋の準備は終わり。次はご飯の支度をしましょう」


 シオンは手慣れた感じですすめていたが、ペーターは初めて見る本格的な魔法に度肝を抜かされた。


「お、おまえ、本当に魔法使いだったんだな・・・」


「そうだよ。そう言ったじゃない」


「いや、だって、そうじゃない、魔法ってなんかこう神経を集中して呪文を詠唱して、それで初めて使えるものじゃないのか。おまえのはなんかこう「えいっ」って感じで、ポンって使って、なんか違うんだよな」


「そう?たしかにジジやママはもうちょっとゴニョゴニョなにか言ってるかもしれないけど、わたし、難しいこと分かんない。まぁ出来上がればいいんじゃない」


 そう言うと、今度は指を天井に向け、岩の天井に換気用の穴を開けた。

 あっけにとられているペーターを横目にバッグから硬いパンの塊と干し肉、チーズを取り出すとそのままかじりつこうとした。


「ちょっと待って。そのまま食べるつもりか。貸してみろ」


 我に返ったペーターはシオンが食べようとしているのを遮った。自分のカバンからナイフを取り出すと、パンを1cmほどの厚さに切り、干し肉とチーズは薄切りにした。塩と胡椒をカバンから取り出すと干し肉にかけ、チーズとともにパンにはさんだ。


「ほれ、食べていいぞ」


 シオンは物珍しそうに干し肉チーズサンドを受け取ると、口へと運んだ。一口食べると、


「おいしいっ」


 そう言い、ペロリと一つ食べてしまった。


「まぁ、塩と胡椒だけでもそこそこうまくなるんだよ」


 ペーターは自慢げに言うと、自分の分も作って食べた。ペーターが食べ終わるころにはシオンはころりと横になり眠ってしまっていた。



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