対ドラゴン戦です
「おまえの相手はこっちだよ」
マリアはそう叫ぶと、腰のバッグからスクロールを取り出した。
スクロールには呪文がすでに刻まれており、他のマジックアイテムと違い一切の詠唱無しに、起動の魔力を注ぎ込むだけで発動する。
そのスクロールを両手で前に掲げると、グルニバラに向かって開いた。
グルニバラの周囲の空気が振動したかと思ったら、次の瞬間、グルニバラの体に上から押さえつける強力な力が加わった。
マリアが使ったのは重力魔法のスクロール、それも最上級のものであった。
「シオン、何やってるのっ!」
振動するスクロールを必死に抑え掲げながら叫んだ。スクロールは魔力を追加で注ぐとその分だけ強力になるため、マリアは全魔力を注入していた。
グルニバラはのしかかる重力にあらがうように体を持ち上げていたが、その足元は地面にめり込んでいた。
シオンは、身をひそめながら宝の山に近づいていたが、マリアに背中から叫ばれると「ひへっ」、と驚き、飛び上がった。
「小娘、いつの間にそこへっ」
グルニバラは足元を這いつくばって進むシオンに視線を落とし、シオンを見つけると、重力に逆らいながらもファイアーボールを投げかけた。
マリアの呼びかけに後ろを振り向いたシオンは、頭上から迫りくるファイアーボールを見ると、
「きゃぁ、危ないっ!」
と言い、自分の半身を覆う石の壁を出現させた。
ファイアーボールは石の壁にぶつかると弾け飛び、石の壁も消失した。
「ほぅ、おもしろいな」
シオンの反応に興味を示したグルニバラは続けざまにファイアーボールを何発も放った。
「いやっ!」
「熱いっ!」
「どっか行って!」
そう言うたびに、ファイアーボールは防がれたり、弾かれたりした。
「ならば、これならどうだ」
そう言うと、グルニバラはその両手の間に巨大な炎の塊を練り上げた。一定の大きさになるとそれを濃縮し、炎の密度を上げた。紅蓮の炎はより濃くなり、その温度はますます上昇し、炎でありながら粘度もあり、さながらマグマの様であった。
それをシオンに向かって投げつけた。
「もう、やめてって言ってるでしょ!」
シオンの周囲にまばゆい光の壁が現れた。その厚さは50センチはあり、普通のマジック・バリアが5ミリほどなのを考えると非常に厚かった。
グルニバラのマグマの塊がシオンのバリアにぶつかった。
周囲に激しい爆音と熱風とが響き渡った。
あたり一面は煙に覆われ、空気も高温になり呼吸をするのが苦しくなった。
しばらくすると一帯の空気が入れ替わり、煙は引き温度も低下していった。
グルニバラは黒焦げになったシオンを確認すべく、足元を見下ろした。
しかし、そこには元気なシオンの姿があった。
「この攻撃が効かぬだとっ、人間風情が生意気に」
余裕を持っていたグルニバラもさすがに驚きを隠すことができなかった。
「シオン、攻撃をおしっ」
マリアが後方から声を掛ける。
「え、なんで。このドラゴンのおじさんは悪いドラゴンさんじゃないでしょ。攻撃なんてできないよ」
「はっはっはっ、面白い奴だな。我が悪いドラゴンではないと。我は今までたくさんの人間を殺してきた。そして、いまも貴様らを殺そうとしているではないか」
「違うもん。ドラゴンさんはわざとペーターに当てなかったんでしょ。それに今のも本気じゃないでしょ」
「ははは、あっぱれじゃ。この小娘には敵わんのぅ。ここで本気をだしたら洞窟ごと消し飛んでしまうから加減はしたが、あれを防がれたのは人間では初めてじゃ。今までの奴らは皆お宝目当てで、それを守る我にいきなり攻撃をしてきおった。それを悪いドラゴンじゃないから攻撃できないとは、一本取られたわ。どうやらお前たちは本当に宝目当てではないのかもしれないな」
身をかがめ、首を曲げると攻撃の体制を解いた。
「やれやれ、どうやら誤解はとけたようじゃな」
「しかし、そちらのばあさんは我に本気の一撃をくらわしたがな」
「仕方ないじゃないか。ドラゴンに攻撃されたら普通の人間はああ反応するさ」
「それもそうじゃな。ははは」
そう言うと、シオン達四人とグルニバラは洞穴の中央に輪を描いて座りなおした。




