山登りです
巨大カエルとの死闘ののち、回復まで二日を要した。
シオンが回復し、魔法を使えるようになると、早速ゴーレムを召喚し、ドワーフのいる山脈を目指して進み始めた。
先の戦いのカエルについては、マリアの予想では元々いた巨大カエルが魔脈の乱れで魔力を身に着けたため、粘液が鎧のように変化し、魔法や矢が効かなかったのではないかを考えられた。
湿原は足元は悪いが、平坦で見通しもよいので森林よりも早く進むことが出来た。
三日もすると湿原は平原へと変化し、山脈の麓に到達した。
「ねぇ、ママ、この山を登るの~」
目の前には山がそびえたっていた。地表は岩肌が目立ち、所々草木が生い茂っているのが見えた。
「そうだよ。この山脈の奥にドワーフの国があるんじゃ。いくつか山を越えていくと洞窟があってな、そこを入っていくと行けるんじゃ」
「ちょ、ちょっと、いくつかって、この山じゃないの」
山頂を見ながらペーターが言った。
「この山なんて私は一言も言ってないよ。この山脈って言っていたはずだよ」
マリアにそういわれ、ペーターは額に手を当ててよろめいた。
「まあ、私もこんな山登りは御免だよ。そこでシオン、お前さん何か山に強い生き物を召喚できないかね」
「えー、私、そんなの知らないよー。私、サンちゃんとフウちゃんとノムさんとゴーレムさんとあとちょっとしか呼べないから~」
「あとちょってって何が呼べるんだい?」
「えーー、オオカミさんでしょ、ヘビさんでしょ、あと何だったかな、あ、シカさんも呼べるよ」
「それだよ、シカなら山を登るのが得意なはずだよ。そのシカさんを呼んでみてくれないかい?」
シオンは、ちょっと待ってて、と言うと皆から離れた。両手を前に出すと、なにか考え事をしながらぶつぶつとつぶやいた。召喚術は精霊界にいる生き物を呼び寄せるので、精霊界のエネルギーや物質を呼びだす一般的な魔法よりも難易度が高い。さらに呼び出そうとしている生き物とつながりが薄いと精霊界で探し出すのに手間がかかってしまう。
「んー、なかなか見つからないな~。こっちかな~」
そう言いながら手を左右に動かした。五分ほど時間が経過したとき、
「あ、いたいた。シカさん、おいで!」
シオンがそう言うと、両掌が光り、その先に大きな物体が出現した。
現れたのは全身がまばゆく輝く巨大なオオツノシカであった。
「この子とあまり遊ばないから、時間かかっちゃった」
シオンの呼び出したシカは、全高5メートルくらいあり、その頭部からは左右にこれも5メートルくらいある角が伸びていた。
「おや、まあ、すごくおおきなシカだねぇ」
「この子、おとなしくていい子なんだけど、すごく大きいから村のそばじゃ呼ぶこと出来なくて、たまにジジがいないときに森の奥に行って遊んでたの。ジジは私が一人で森の奥に行こうとするとすごく怒るんだもん」
現れたオオツノシカはシオンに向かって頭を下げ、その頭をシオンが撫でてやった。
シオンはオオツノシカに話しかけ、皆を載せて山を登ってほしいと頼んだ。
オオツノシカはそれを理解したのか、足を折り曲げ全身を低くすると角で背中を指し、乗るように促した。
「シ、シオンちゃん、大丈夫なの・・」
チッタが不安そうに言った。
「大丈夫だよ。私も乗せてもらっているけど、全然怖くないよ」
そう言うとシオンは一番最初にシカによじ登り、一番前に座った。その後ろにチッタ、ペーター、マリアの順に座るとオオツノシカは立ち上がった。
「それじゃぁ、シカさん、レッツゴー!」
オオツノシカは山に向かって歩き始めた。
シカに乗った山登りは思ったより軽快であった。
歩くときはほとんど揺れず、所々ある段差はジャンプして飛び越えるが、着地の時のショックを上手く和らげてくれるので、落下する恐れはなかった。
標高が上がるにつれ気温が下がった。肌寒くなったが、エルフの里を離れるときにシュレッドから送られた防寒着を着ることにした。
数日が経過しいくつかの山を越えると、とある山に着いた。
「この山の中腹に洞窟があるはずじゃ」
マリアは目の前の山を指さし言った。
「ねぇ、ママ、なんでこの山って分かるの?どれも同じ見たいじゃない」
「私はね先の大戦でもドワーフの国に来ているんだよ。その時にこのあたりを案内されてね。ほらシオン、見てごらん、あの山の山頂が大きくえぐられているだろ。あれは魔王と戦った時にジャックの魔法で出来たものなんじゃ。あれが目印ってわけさ」
山頂をみるとたしかに一部が欠けていた。
山腹には左右にクネクネと登り路があった。途中まではオオツノシカも登れたが途中からは崖を切り開いて作られており、そこからは徒歩で登っていった。
半分ほど登ったところで道は途切れていた。
マリアはその場所を調べると、確信したように、
「うん、ここじゃ。シオン、このあたりを吹き飛ばしておくれ」
そう言うと崖の一部を指さした。
「岩よ、吹き飛べ!」
岩壁は小さく爆発し、土ぼこりが収まるとそこには洞窟の入り口が姿を現した。




