おやすみです
群衆の拍手喝采、質問攻めを終わらせたシオンは疲れ果てて宿屋に戻った。
「お帰り、お嬢さん。話は聞いたよ。あんたすごい芸をしたんだってね。町中その話で持ち切りだよ。疲れただろう、食事用意してあるから食べておくれ。これは私からのサービスだよ」
おかみさんはシオンのテーブルにお子様ランチとクリームソーダを置いた。
「ありがとうございます。私、クリームソーダ大好きなんです」
シオンは満面の笑みで答え、夕食を食べた。食べ終わると食器を戻し、自分の部屋へと戻った。
「今日は疲れちゃったから、もう寝よっと。お風呂は面倒くさいから、ちょっとズルをして」
そう言うと指先で頭の上に円を描いた。
「体を清めたまえ」
シオンの体が白い光に包まれた。
「クンクン、これで汗の臭いも大丈夫。戸締りをしなくちゃ」
今度はドアのところに行き、ノブに手をかけると、
「誰も入らないでね」
ノブが黄色くひかり、鍵がかかった。その後、窓のところへ行き、窓にもパーフェクト・ロックを掛けた。
「そうそう、寝るときにはお友達を呼ぶようお師匠さんに言われてたっけ。今日は誰にしようかなぁ」
シオンは考えを巡らせて、
「今日はサンちゃんにしよっ」
両手を前に出し、眼を閉じると
「サンちゃん、おいで」
そう唱えると、両手の前に体長50cmほどのずんぐりむっくりした赤いトカゲが出現した。
「サンちゃん、こんばんわ。今日は一緒に寝てね」
シオンはサラマンダーのサンちゃんを抱えると布団に入った。
日も完全に暮れ、夜の帳がおち、周囲は暗闇に覆われてきた。民家から漏れる明かりも時間とともに少なくなり、路地裏は完全に闇に覆われた。
「あの小娘め、王国一のアサシンギルド『笑うピエロ』の俺様の顔に泥を塗りやがって、ただじゃ置かない」
暗がりに一人の男がいた。先ほどシオンにコケにされた大道芸人だった。大道芸を行っていた時の派手な服装ではなく、全身黒装束となり、手には先ほどの演目で使っていた短剣が握られていた。懐から小瓶を取り出し、中の液体を短剣に塗った。
「へへっ、切り刻んでもいいが、像でも30秒で殺せるこの毒で、苦しみながら死んでいくがいい」
男は暗闇を伝って、シオンの泊まる宿屋の裏まで来た。
時刻は深夜0時を回っていた。周囲は真っ暗で、宿屋の宿泊客、スタッフも寝静まっていた。シオンもベッドの中でスヤスヤと眠っていた。男は勝手口のカギを難無く開錠すると宿屋に入り、シオンの部屋の前まで来た。腰から鍵開け道具と取り出し、部屋のドアの開錠を試みた。
「ん、おかしいな、ドアが開かないぞ」
腕に自信があるのか、時間を掛けるのをまずいと思ったのか、
「しかたない、窓から入るか」
ものの1分としない内にドアの開錠をあきらめ、一旦宿屋の外へと出た。壁を上り、屋根へ上がるとシオンの部屋の上へと来た。そこからロープをたらし、窓の前へと降りてきた。
「よし、窓のカギなら簡単に開けられるだろう」
そう言うと開錠を試みたがやはり開けられなかった。
「この俺様がこんな窓すら開けられないなんて」
男が作業していると、窓ガラスに鍵開け道具がぶつかり、カタン、と音がした。
「しまった、気付かれたか」
窓の中を見るとシオンはぐっすりと眠っていた。男はそれを見ると安心して作業を再開したが、布団の中にいたサンちゃんは目を覚ましていた。
のそのそと布団から這い出たサンちゃんは窓際まで行くと口を大きく開け、舌を伸ばした。舌はクネクネと伸び、窓ガラスまで達し、そこで舌の先を、ちょん、と窓に当てると、突然窓のカギがはずれ大きく外へと開いた。
窓の外で作業をしていた男は態勢くずし、落下しそうになった。そこへサンちゃんの舌が大きく伸び男に巻き付くとそのまま締め上げ、部屋の中へと引っ張りこんだ。
サンちゃんがゴソゴソしているのを受け、
「サンちゃん、どうしたのですか?おしっこですか?」
と、完全寝ぼけ状態でシオンが起き上がった。
「おやぁ、この人はどなたですかぁ。お部屋に入ってきちゃダメでしょうぅ。そとに立ってなさぁい」
男に向かって右手を指し伸ばすと、その手を窓の方へと向けた。
男は全身金縛りにあい、窓の外へ飛んでいくとそのまま地面に突き刺さった。
「ほらぁ、サンちゃん、ねますよぉ。こっちにおいでぇ」
サンちゃんを布団の中に戻すと、再び眠りについた。