お空は危ない
エルフの里を出発した四人は再び森の中を進んだ。王都からだいぶ離れたことと、シュレッドの言う通り近隣の魔物の多くが王都に駆り出されて数が少なくなっていることもあり、以前のような隠密行動ではなく、多少目立っても速度を重視するようになった。
それでもなお空を飛ぶことはなかった。
「ねぇ、ママ、お空をビューって飛んでくことできないの?」
空を見上げながらシオンが聞いた。
「そうだねぇ、あまり空は飛びたくないねぇ。試しに飛んでみようかい?フォローはシオンに任せるよ」
マリアは近くの木の枝を折ると、そこに懐から取り出した魔道具をはめ込み箒がわりにその枝にまたがった。
少しの呪文を唱えると木の枝全体がざわざわし始め、徐々に浮かび上がっていった。
「この魔道具は装着したものに風の属性を与えるんじゃ。それを魔力でコントロールして下に向かって風を出すことで浮かびあがる。そして後ろに向かって魔力を送ると・・」
そう言うと枝の先が震えたかと思うと緩やかに前上方に浮かび上がっていった。
「シオン、これから木々の上にでるけど、不測の事態に備えておくれ」
マリアの呼びかけに、
「え?不測の事態って何?何が起こるの?」
と疑問だらけのシオンを尻目にマリアはさらに高度を上げていった。
シオンは訳が分からないままマリアの後を目で追い神経を集中した。
数分が経過したとき、
「シオン、来たよ。あとはよろしく」
マリアはすうっと高度を下げ、シオンの後ろに着陸した。
その直後、黒い影が空から降下してきた。
キェー、という鳴き声をあげ、前足のかぎづめを突き出しながらシオンに襲い掛かってきた。
「きゃっ、危ない!」
シオンは咄嗟に目の前に障壁を出現させた。
かぎづめは障壁で弾かれ、対象は上空へと上昇していった。
上空で方向を変えると再度急降下をしてきた。
「もう、あっち行って!」
今度はさらに濃い障壁が現れた。
黒い影のかぎ爪は再度障壁にぶつかったが、今度は勢いよく上空へと弾き飛ばされた。
そうこうしている間に、シオンの後ろではマリアが呪文の詠唱を終えており、
「ウォーター・スクリュウー・ニードル!」
というと、マリアの手から複数の高速回転した水の針が多数黒い影に向かって飛んで行った。
黒い影はそれを受けると追撃をあきらめ、元来た方向へと退散していった。
「ふぅ、怖かった」
シオンは腰をおとした。
木陰に避難していたペーターが言った。
「マリアさん、さっきのは何なんだい」
「あれはグリフォンだね。もともとこの辺りに生息していてな、空飛ぶものをみると襲い掛かってくるんじゃ。飛ぶのが早いから逃げ切ることは出来んから、襲われるたびに戦っていたんじゃ身が持たんのじゃ」
「それでお空は飛べないんだね」
「そうじゃ、シオン。他にも空を飛ぶ魔物はたくさんいるから、空は危ないんじゃ」
三人は納得し、支度を整えると再出発した。
三日が経過した。
森は徐々に薄くなり、やがて湿原地帯に出た。
あたりは広くひらけており、所々に木が見え、地面にはいたるところに水たまりがあった。そしてはるか彼方には山脈が見えた。
「さて、この湿原を抜ければお目当ての山脈につくよ」
マリアははるか彼方の山脈を指さした。
その指先を見たシオンとペーターはうんざりとした。
「えー、あんなところまで行くの?遠いよ」
「勘弁してよ、マリアさん」
駄々をこねる二人の後ろで、
「ちょっと、遠いかな・・」
と、チッタが控えめに言った。
しかし、マリアは三人を見ると、
「いいから行くのっ」
と言った。
ここからは邪魔になる木もなく、むしろ足場が悪くなるので、シオンにはゴーレムを召喚させ、子供たち三人はその肩に乗ってすすむことにした。マリアはゴーレムの乗り心地が悪いので、木の枝で作った飛行具にまたがり、ゴーレムの後ろを低空飛行することにした。




