エルフの王子
「使者が戻るまで、だいぶ時間がかかるじゃろ。その間、よければこの子達に魔法を教えてもらえないだろうか」
マリアはシオンとチッタを指さし、シュレッドに言った。
「魔法ならあなたが教えればいいのではないか?それに知っての通りエルフの魔法は人のそれとは異なるから教えたところで使えるようにはならないと思うが」
「それもそうじゃな。私から見てもあなたの魔法は理解できないからな」
人より精霊に近いエルフは、同じ魔法でもその発動にかかる過程が人とは異なり一部省略されていた。
マリアはそれならと、
「そうしたら、この子に弓を教えてもらえないだろうか」
こんどはペーターを指さし言った。
「それは構わぬが、短期間でどこまで使えるようになるかわからぬぞ」
それでもいい、とペーター本人の意思とは関係なく弓の修業が始まった。
エルフは弓の名手である。非力なため近接戦にはあまり向いていないが、そのかわりに生まれ持っての感性、特に風を読むのに長けていた。感性のない人の子であるペーターにはその訓練は熾烈を極めた。
「マリアさん~、助けておくれよ。シュレッドさんの指導厳しすぎるよ~」
ペーターは赤く腫れた指と、筋肉痛を起こしている腕を見せながら言った。
「お前さん、役に立ちたいと言ってたじゃないか。スリと食材の見分けしかできなかったんだからいい機会じゃろ。それにあの憧れのシュレッドに教えてもらっているんだぞ」
と、すこし皮肉交じりに言った。
「あ、あの、ペーターさん。わ、私が治して差し上げますので、頑張ってください」
チッタは毎晩、練習もかねて癒しの踊りをおこない、ペーターの傷と疲労を回復させた。
そうして一週間が経過した。
「マリア、王からの返事か来た」
シュレッドはそう言うと皆を集めた。
「結論からいうと、我々は協力することは出来ない」
シオンとペーターは、「なんで、なんで」と言ったが、シュレッドは話をつづけた。
「先の大戦で私たちは多くの同胞を亡くしました。私たちは人間と違い減った人口を回復させるのに多大な時間が必要なります。再び戦火を交えるとなるとこの国の再建が困難になる恐れがあります。我が王は魔王討伐よりも我が国の存続を選びました。まことに申し訳ないが、私があなたたちに同行することはできません」
シュレッドは皆に頭を下げた。
「エルフの王子よ。頭を上げてくだされ。あなた方が悪いのではない。悪いのは我々を殺そうとしている魔王なのじゃ。国あってのエルフの民じゃ、国王の選択は十分理解できるでな」
マリアはなだめるように言った。
「そーだよ、シュレッドのおじちゃん。悪いのは魔王だから、そんなの私がやっつけちゃうから、おじちゃんはエルフの国を守っていてよ」
シオンは元気づけるようにシュレッドに言った。
「『私がやっつけちゃう』か、お前も大きく出たな」
「なによ、ペーター、私、強いんだからね。魔王なんていちころだよ。ね、ママ」
「まぁ、シオンは魔法は基礎は十分だけど、まだまだ実戦で戦えるほどじゃないね。これからもっと訓練しないといけないね」
「はは、訓練だってよシオン。頑張ってくれよな」
「ペーターだって少しは役にたってよね」
二人はその後もしばらく言い合っていた。
「二人ともありがとう。気持ちは十分伝わっているよ。ここにいる間は十分な支援をさせておくれ。それで、この後はどうするんだい」
「そうじゃの。南方のドワーフの所へ行こうかと思っておる」
マリアの口からドワーフの名前がでると、シュレッドはぴくっとした。
「なにもあんな連中、と言いたいところですが、お力を貸すことが出来ない私たちが言うことではありませんね。ドワーフたちは力はありますので、是非協力してもらえるといいですね」
シュレッドは仲の悪いドワーフについて最大限配慮して言った。
その後の数日は南方への旅の準備と、ペーターの訓練に使われた。
食料をはじめ旅で必要になるものの確保、道程の確認などが行われた。ペーターは弓の初心者であったがシュレッドのしごきにより、一応矢を的に当てる程度までにはなっていた。
出発の当日、
「シュレッド、あなたにはお世話になったね」
マリアは礼を言った。
「いえいえ、こちらこそお力になれず申し訳ない。討伐のご武運を祈っております。さて、ペーター」
シュレッドに名前を呼ばれてペーターは一瞬ドキッとした。
「弓の特訓によく耐えたね。基礎は叩き込んだからこれからは実戦で腕を磨くことだ。これは私からの贈り物だ。是非使ってくれ」
そう言うとエルフの弓を差し出した。
「え、いいんですか。ありがとうございます」
ペーターは嬉しそうに手にした。
「名のある弓ではないが、ペーター、君に合うようにここ数日で作ったものだ。その辺のものより随分と使いやすいと思うぞ。それからこれも君にあげよう」
今度は短剣を差し出した。
「これは先の大戦で私が使っていた魔剣だ。君には魔法の才能がない。それを補えるかはわからないがお守り代わりに持っていてくれ」
その剣は銀色であるがうっすらと白く光っており、表面はなめらかで握るとほんのり温かかった。
「シュレッドさん、こんな大切なものいいんですか。ありがとうございます!」
ペーターはかつての英雄が使っていた剣を手にすると弓の時よりもたいそう嬉しがった。




