癒しの踊り
「ふん、なんだい、俺だってそのうち魔法くらい使えるようになってやるさ」
ペーターはふくれながら言った。
「まぁまぁペーター。お前さんにはお前さんの役割があるじゃろうて、きっと」
マリアはペーターを慰めるように言ったが、最後の「きっと」がペーターに刺さり、
「なんだよ、『きっと』って。マリアさんまで!」
と、さらに機嫌を悪くしてしまった。
「さて、話をチッタの魔法に戻すとしようか。チッタ、今の踊りはどこで覚えたんだい」
「そ、それは、わ、私のお母さんが昔よく踊っていたんです。それを見よう見まねで覚えて・・」
「それでそのお母さんは癒し手だったのかい?」
「い、いいえ、お母さんは旅の踊り子で。この踊りはおばあちゃんから教わったって言ってました」
「そうかい、おばあちゃんからねぇ。魔道具の発動条件が踊りなのかもしれないねぇ。他にも踊りを知っているのかい?」
「ほ、他にですか。あと2・3種類はありますけど、どれも最後までは踊れないんです」
マリアは少し考え込んだ。
「そうかい。魔法の基本からすると、一つの魔道具には一つの魔法しか入れられないからねぇ。もしかすると別の魔道具があれば使える魔法も増えるかもしれないけど、それは他に見つけたら考えようかね。それで、さっき踊った時、いつもと違うことはあったかの」
「あ、は、はい。途中から体がすこし重くなって・・。それと、いつもよりも疲れました」
「ほう、そうかい。体が重くなるのが呪文の詠唱、疲れが精神力の消耗と考えると、踊りの魔法も詠唱の魔法も根本は同じなのかもしれないねぇ」
ふぅむと考え、マリアは続けた。
「そうしたら、チッタ。お前さんはまず体力をつけよう。体力をつけて魔法を何度も使えるようになること。それと繰り返し練習して、確実に魔法を発動できるようにしよう。いつ、どんな時でも魔法を使えるようにすること。それがたとえ戦闘中でもじゃ」
「え、せ、戦闘中もですか・・・」
チッタが言うと、
「そうじゃ」
と、一言だけマリアが答えた。
翌日からも西のエルフの里を目指す旅は続いた。
道中、獣を狩り、時々魔物を倒し、魔法と踊りの練習をし、一カ月ほど経過した。
「ねぇ、ママ、まだ着かないの?」
ある日シオンが言った。
「何言っているんだね。もうとっくにエルフの里に入っておるよ」
「えっ、いつ着いたんだい?もっと早くに言ってよ」
ペーターは驚いた。
「エルフの里は広いからの。3日前には里に入っておったぞ。その証拠にこの3日間、魔物や獣に襲われなかったじゃろ。それはエルフ達が里を守っているからなんじゃ。とはいえ、里の中心はまだ先だがな」
マリアは前方を眺めていった。
「ここから先へは行く必要はないぞ」
前方の木陰からスラリとした細身の男性が姿を現した。それと同時に四方八方から同じような男たちが現れた。
「おぉ、シュレッド・アスリー、久しぶりじゃの」
マリアは声をかけてきたリーダーらしき人物に話しかけた。
「誰だ、お前は。なぜ私の名前を知っている」
シュレッド・アスリーと呼ばれた男が答えた。
「マリアをお忘れかな。マリア・マンダリア、先の大戦でともに戦ったではないか」
「お前、マリアなのか?そういわれれば何となく面影はあるな。人は年を取るのが早いから分からなかったぞ」
「ああ、そうじゃよ。エルフは長寿じゃからの、お前さんは12年前と全く変わっとらんわ」
二人はしばらく歓談した。
「して、王都が魔物に占領されたのは知っておるかの」
マリアがそう言うとシュレッドは顔を引き締め、
「大体は予想ついていた。ここ最近、王都から流れてくる魔脈が穢れているからな。何かあったのは分かっていた。だから私たちは警戒をして回っているのだ」
と答えた。
「ほう、シュレッドは魔脈を感じることができるのかい?」
「私を誰だと思っている。このウィリードのエルフの国の王子だぞ。それくらい出来て当然だ。このまだ弱いが禍々しい感じ、魔脈の上流に何かが起こったに違いないと感じていたところだ」
それからマリアは、魔王を封じた宝玉が盗まれたこと、王都が魔物に襲われたことなどを話して聞かせた。
「そうか、魔王の復活は時間の問題というわけか」
シュレッドは考え込んだ。
「そうじゃ。それを防ぐためには我らには力が必要なのじゃ。そこでおぬしたちエルフの民の力を貸してほしくここまで来たというわけじゃ」
マリアは必死に現状を説明し、シュレッドに協力を仰いだ。
「マリア、あなたの言っていることは理解した。しかし、私の一存では決めかねぬ。わが父、エルフの王の判断を仰がなくてはならぬ。王のもとへ使者を送るから、しばしここに滞在していただけぬか」
そういわれると近くのキャンプに適した場所に移動し、滞在することにした。




