踊り子、チッタ
日も暮れてくるといつものようにちょうどいい大きさの木の下にストーン・ドームを作り休息を取ることにした。
「ママ、すごかったね、あのお水がグルグルするの。あれ、私にも教えて」
「バカ言いなさい。お前に教えられもんか。どうせ理屈を説明しても理解できないだろうし、お前の場合はとにかくイメージして何度も練習するだけだよ」
シオンの要求は却下された。
続けてペーターが尋ねた。
「マリアさん、あのファイヤー・ボールはどうやったの?シオンみたいにパッと出したけど」
「あぁ、あれかい。それはこれを見ておくれ」
マリアは両手を広げて手の甲を見せた。左右両方の指にたくさんの指輪をはめており、それぞれに色々な色の宝石がついていた。
「これは指輪型の魔道具でな。それぞれに魔法が封印されておるんじゃ。そこに軽く魔力を注いでやるとその魔法が発動するんじゃよ。あのファイヤー・ボールは昔ジャックに作ってもらったものなんじゃ。だから水属性が得意な私でも火属性を簡単に使えたわけじゃよ」
「じゃあ、俺にもいくつか貸してもらえないかな。いざというとき身を守れないと困るから」
「そう言われてもなぁ。お前さん、魔法は使えるのかい?ある程度魔法が使えないと、うまく魔力を送り込むことが出来ないから使えないんだよ」
「うっ、そ、それは・・・」
ペーターは言葉に詰まってしまいうつむいてしまった。
「ねぇねぇ、じゃぁ私に頂戴。その白くピカピカ光っているやつかいいっ」
シオンはマリアの指にはまっている一つの指輪を指して言った。
「お前には必要ないじゃろ、自由に魔法を使えるんだから。それにこれは非常に高価なんじゃよ。魔道具技師が作った魔道具に熟練の魔法使いが魔法を封じ込める。あのファイヤー・ボールの指輪だって馬一頭買えるくらいの金額なんだからね。おしゃれ感覚でホイホイあげられるものじゃないんだよ」
そういわれシオンはふくれてしまった。
「そうだ、思い出した。これをチッタちゃんに挙げよう」
そう言うとマリアはカバンの中からブレスレットを取り出した。
「これは昔、ダンジョンで拾ったものなんじゃが、何やら魔道具らしいんだが使い方がさっぱりわからなくてな。デザイン的に南方のものに近いからチッタちゃんに合うんじゃないかの」
緑の宝石が中央にはめ込まれた金のブレスレットだった。
チッタはそれを受け取るとまじまじと眺め、
「な、なつかしい。これと同じようなのをお母さんがつけていました」
「そうかい、気に入ってくれたかい。私には使えないものだからチッタちゃんがつけておくれ」
チッタはブレスレットを左手首にはめた。褐色の肌に金色のブレスレット、そして中央で輝く緑の宝石。チッタによく似合っていた。
「お、お母さん、こういうのを付けてよく踊っていた・・」
そう言うとシオンが、
「チッタちゃん、踊って見せて。チッタちゃん踊り子さんなんでしょ。是非見てみたいな」
と言った。マリアとペーターも見てみたいと言い、チッタは踊ることにした。
チッタの踊りはこの地方とは異なる南方独特の踊りであった。手足をゆっくりと、時には早く動かし、全体的に流れるような動きであった。
チッタが踊っていると、途中から緑の宝石が光始めた。その光は消えることなく、その軌跡を描き始めた。それを見たマリアは「ほう」とつぶやいた。光の軌跡は途切れることもあるが、しばらくすると再び光はじめ、何度か軌跡を描いた。
踊りも終盤に差し掛かった時、それまでの軌跡とは違い長い時間光り続け、やがてまばゆい光を放った。
緑色の光がドーム内を照らす。それは優しく温かい、まるで母の胸に抱かれるようなぬくもりを与えてくれた。
その光を浴びた三人は徐々にその日の疲れが抜けていき、体力が回復するのを感じ取れた。
「わー、チッタちゃん、すごい、なにこれ、なんか温かいよ。体が元気になっていく」
シオンは初めての体験に興奮していた。
マリアはふむふむと頷き、そして言った。
「これは癒しの魔法じゃの。その宝石とチッタの踊りとが合わさって発動したのかの。噂には聞いたことがあるが、言葉による呪文でなく精霊界とつながる方法があると。それがこの踊りとブレスレットなのかもしれないね」
チッタは一通り踊ると息を切らせた。
「あ、あの、この光はなんなのでしょうか」
「これは魔法じゃよ。チッタ、おぬしが使ったのじゃよ」
「え、わ、私が・・、はぁ、はぁ・・」
「チッタちゃん、すごいよ、すごいよ。癒しの魔法だって。ほんと、すごいよ」
チッタの周りでシオンが飛び跳ねてはしゃいだ。ひとしきりはしゃいだ所でペーターに目を向け、
「これで魔法使えないのはペーターだけだね」
と、意地悪に言った。




