落城
結界は魔物は通さない。魔物の放った魔法も通さない。しかし、矢や岩などは通す。魔物たちは城に張れれた結界から先には進めずにいた。結界を破るには直接攻撃か魔法で結界を削らなくてはならない。しかし、わずかに傷が出来ても地下からの魔力の供給ででたちどころに修復されてしまう。
一方、魔物以外は通行可能である。従って結界内部から人族による攻撃はすべて通過する。必然的に反撃は飛び道具の射程圏外からの魔法攻撃が中心となった。見晴らしのいい高台に宮廷使いの魔法使いが並び、結界外に向かって魔法を行使していた。時々騎士の一団が結界内から打って出て、結界付近の魔物を退治するとすぐに戻るというヒットアンドアウェイを行っていた。
一進一退が続き、結界をを挟んでの対峙は膠着状態へと移行した。
その間も城内では対策を協議していた。
「このままでは兵たちも疲弊してしまいます。今のうちに国王陛下は脱出をしてくださいませ」
騎士団長のアントニーが進言した。しかし、城下にはすでに魔物であふれかえっている。容易に脱出できる状態ではなかった。話が進まずにいると、ジャックが不意に言った。
「しかし、やつらの狙いは何なのだろうか?すでに魔王を封印した珠は奪われておる。時間が経てばいずれ魔王は復活してしまうはずだ。わざわざ城を狙わなくてもいいはずじゃ」
ジャックのほどこした魔王の封印は完璧ではなかった。巨大な悪を封じるのにジャックの魔力だけでは不十分であった。先の大戦では一時的に封じることができた珠を魔脈まで移動させ、大地からの魔力を利用して封印を強固にしていたのだった。魔脈から力で封印は完璧となったが、魔脈から外れた封印の珠はいずれ力を失い、魔王は自然と復活するはずである。彼らにはいたずらに戦力を消耗してまでこの城を落とす必要はなかった。
そんな考えをしている時に、天井から声が響いた。
「いっひっひっ、そうでやすよ」
一同は天井を見上げた。
そこには全身黒ずくめの男が潜んでいた。
「なにやつっ!」
アントニーは剣を抜き、ジャックは杖を構え、他の兵たちも各々武器を構えた。
黒ずくめの男はさらに笑い声をあげると、
「そう、その爺さんの言う通り、我々の目的は他にある。それがなんだか分かるかな~」
そう言うとひらりと天井から降り、中央のテーブルの上に立った。
「おのれっ!」
アントニーが素早く剣を突き出したが、それをひらりとかわし、部屋の片隅へと飛んだ。
その周囲を兵たちがじりじりと間を詰めていく。
しかし、男が動じることもなく言った。
「結界が魔物を防げても、人は防げない。我々はやすやすと侵入できる。では、我々は何をするとお思いかな?」
黒ずくめの男が問いかけた。
一瞬の間をおいて、ジャックが叫んだ。
「お前たち、結界を破るつもりか」
そう言うとほぼ同時に城の地下から爆音と振動とが伝わってきた。何かが爆発したのだ。
「はっはっは、気付くのが遅いのだよ。手薄になった城内で、我が仲間が魔法陣を破壊した。これでこの城も終わりだっ」
黒ずくめの男は高く跳躍すると、再び天井の梁に飛び移った。懐からおもむろに赤い石を取り出すと、
「これはもう使わないので、皆さんに差し上げますね」
と言いい、部屋の中に放り込んだ。
それが床に落ちるや否や爆発した。
それ以降は戦いの優先権は魔物側に移行した。結界を破られた城は魔物の侵入を許し、城攻めが終わった魔物たちが街へとなだれ込んでいった。




