出発します
シオンはベッドの上ではパンの塊を食べつつも、チーズが欲しいなぁと考えたがペーターの機嫌を考えるとぐっとこらえて、黙々と食べ続けた。
最後のひとかけらを食べ終わると、ベッドからおりテーブルの上のミルクを飲んだ。
「ペーター、怒ってる?あたしなら大丈夫だよ。もうすっかり元気になったし」
窓際に座っているペーターの顔を申し訳なさそうに覗き込むと言った。ペーターはシオンの顔を見ると何か言いたそうだったが、シオンの無頓着ぶりを見るとやれやれと思い、口をつぐんだ。大きく息を吐くと、椅子から立ちあがり荷物の準備をした。
「明日にはこの街を出よう。お使い頼まれているんだから、いつまでものんびりしているわけにはいかないだろ」
そう言われ、シオンは思い出したように、
「あ、そうだった」
と言った。
「お前なぁ、何忘れてるんだよ。ジジとやらのお使いの最中だろ」
「忘れてないもん。かよわい乙女が傷ついて弱って寝込んでうっかりしただけだもん」
「自分でかよわい言うか。まぁ弱っているのは確かだから、明日からは馬車に乗るぞ。乗り合い馬車のチケット買ってきてやるから」
「ダメだよ、歩いて行くように言われてるんだから」
「でもお前、体力回復していないだろ。それにまた襲われるかもしれないじゃないか。コトラも狙われているみたいだし。馬車に乗り込んじゃえば目立たないから安全に王都まで行けるぞ」
ペーターに巻くしたてられ、シオンは渋々納得した。
その日はペーターは旅の準備の買い出しに行き、シオンはコトラと一緒に留守番をした。
翌朝、宿の会計を済ませると馬車の停留所へと向かった。シオンはペーターが買ってきたピンクのブラウスに白いスカートを履き、コトラは再び黒く着色されていた。停留所は各地へ向かう旅人、商人で賑わっていた。王都行きの馬車がたむろしている一角にシオンたちが乗る馬車が止まっていた。二人が馬車に乗り込むと中にはすでに何人もの先客がいた。商人らしき男性、夫婦、お年寄り、様々な乗客がいた。しばらくすると馬車は王都へ向けて出発した。
「ねぇねぇ、私、こんな立派な馬車のるの初めて。いつもはジジの後ろか、農家のおじさんの馬車にしか乗ったことないから」
シオンはやや興奮気味にはしゃいだ。
「馬鹿よせ、田舎者に見えるじゃないか」
ペーターが言うと、
「いいじゃない、だって私、田舎者だから」
そう言うと馬車の窓から体を乗り出し気味に外を見た。
馬車はかれこれ三時間ほど走った。道中は平穏で春の日差しが心地よく、馬車の絶妙な振動が眠気を誘い、二人は居眠りをした。
とある峠に差し掛かった時、馬車が急に止まった。
「な、なんだ」
寝ぼけ眼のペータが言った。シオンは遅れて目を覚ました。
何やら馬車の外が騒がしい。怒鳴り声や叫び声が聞こえると、馬車の扉が勢いよく開いた。
「お前ら、大人しくしろ。この馬車が我々がいただく。騒いだりしたら命はないぞ」
小剣を持ったゴツい男が中に入ってきた。山賊のようだ。
「これからお前たちは俺たちのアジトへ連れていく。荷物は全て没収だ。アジトに着いたらしばらく監禁してやるからな。ことが済んでからお前たちをどうするか決める。いいな!」
大声で怒鳴ると、シオンをはじめ乗客は皆慄いた。
どうやら御者は殺されたらしい。男の部下が手綱を握ると馬車を走られた。その周りには馬に乗った数人の山賊が従っていた。ペーターはゴツい男の目を盗んでシオンに言った。
「お、おい、お前、なんとかできないのか」
するとシオンは震えた声で、
「で、出来ないよ、怖くて震えて、感じと取れないよ」
「でもあの森じゃとっさに魔法使っていたじゃん」
「あの時は怖さよりも守らなくちゃって必死だったから・・・」
二人がヒソヒソ声で話していると、
「そこの子供たち、何話してやがるっ!」
男に睨まれ口を閉ざした。
馬車は街道を外れると近くの山の中へと入っていた。道は曲がりくねり、木が鬱蒼と生えており、しばらく進むと外界から隔絶された。するとそこに洞窟があり、そこの前で止まった。
「お前ら、さっさと降りろ。逃げようったてそうはいかないからな。ここから街へ戻るには獣の沢山いるあの森を突っ切らなくちゃならねぇ。素人が生きて戻れる場所じゃねぇんだ。そうしたら男と女で別れて洞窟の中へ入りやがれ。大人しくしてりゃ危害は加えねぇぞ、お前らは大事な商品なんだからな」
馬車を護衛していた山賊が男女をそれぞれ率いて洞窟の中へと入っていった。




