もう疲れたのです・・
「けっ、なんだよあいつ」
不気味な男とチッタと呼ばれた少女の後ろ姿を見ながらペーターがつぶやいた。男はチッタの事を孫と言っていたが、男の後ろを怯えるようについていくチッタの姿はとても親族とは思えなかった。
「へぇ、チッタちゃんって言うのか。また会えるといいなぁ」
そんなことお構いなしのシオンは言った。
二人はその後もバザーを中心に市内を見て回った。買い物をしたり、食事をしたりしているうちに日も暮れてきた。そして町のシンボルの一つである大聖堂の前にやってきた。大聖堂は荘厳ではあるが、先の魔王軍の侵攻で損害をうけ、その修復の途中であった。正面の扉はまだ開いており、日が完全に沈むと閉ざされてしまう。
「ここが大聖堂か。ちょっと中に入ってみるか?」
ペーターはまもなく日が沈むので、急いで中に入っていった。
大聖堂に入るとアトリウムが広がっていた。アトリウムには壁画や天井画など様々な装飾が施されていた。その先は身廊、祭壇へとつながっていた。
祭壇の正面は一面スタンドグラス張りになっていた。西日になっていたため光は差し込んでいなかったが、それでも息をのむような素晴らしさだった。
「はぇーすんごくきれいだな」
ペーターが感嘆の声を漏らした。シオンは声も出ずジーっと眺めていた。
しばらく時が過ぎた。すると不意にシオンがペーターの方に倒れ掛かってきた。
「おい、シオン、どうしたんだ」
倒れ来たシオンを両手で支えるとと、ゆっくりと床に横たわらせた。そのシオンの顔は血の気が引いており、目つきもうつろだった。
「ペーター、・・・今日は・・・ありがと・・」
か細い声で途切れ途切れにしゃべった。
「シオン、どうしたんだよ、しっかりしろよっ!」
ペーターがシオンの体を左右に振り、意識を戻させようとした。しかし、シオンの表情は変わらず、目の閉じかけていた。
「とても・・・たのしかった・・・・。でも・・・もう、・・ダメ。・・・疲れた・・・」
そう言うとシオンの体から力が抜け、ペーターの両腕に体重がズシリとかかった。
「おい、嘘だろ、さっきまで元気だったじゃないか。傷は治っていなかったのか!無理してたのか!馬鹿野郎!嘘だって言ってくれよ。おまえが死んだら、どうしたらいいんだよ」
ペーターはシオンの顔を覗き込み涙を流した。しかし、シオンは目覚めない。ペーターの声に全く反応しなかった。しばらくの間、ペーターはシクシクと泣き続けた。
スースー
シオンの口から息の漏れる音が聞こえた。しれは次第に強くなり、やがて寝息になった。
「ヘ?もしかして、寝てる?」
泣き顔のペーターは涙を拭くと、シオンに顔を近づけた。確かに息をしている。それも明らかな寝息。顔色も戻っていた。
「おい、嘘だろ、ただ寝ただけだったのか?俺、馬鹿みたいじゃないか」
ほっとしたが、半ば呆れて、だんだん腹が立ってきた。
「ちくしょう!眠いなら眠いって言えばいいんだよ!おい、シオン、起きろ!帰るぞ!」
シオンを強くゆすったが全く起きる気配がなかった。顔もペチペチと叩いたがやはり起きる気配がなく、ペーターはあきらめて背中に背負うと宿へと戻ることにした。
翌朝、シオンが目覚めた。
「ふぁーぁ、よく寝た」
ベッドの中で目覚めたシオンは左右をキョロキョロと見まわした。
「あれ?私、バザーに行ったんじゃ。いつの間に戻って寝たんだろ?」
不思議がるシオンを横目に、椅子に腰かけたペーターが不機嫌に言った。
「おい、おまえ、なにいきなり寝てんだよ。昨日は大変だったんだからな」
ペーターは昨日の夕暮れの出来事をシオンに話した。それを聞いたシオンはすなおにあやまったが、疲れていたのだからしょうがないと付け加えた。そして、
「ねぇねぇ、おなかすいた。なにか食べるものない?」
そう言うと、ペーターはシオンに向かってパンの塊を投げた。




