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踊り子

「あーきーたー」


 布団の中でシオンが叫んだ。


「なんだよ、シオン。急に叫んだりして」


 食事の用意をしていたペーターが答えた。


「だってもう5日も部屋にこもり切りなんだよ。いい加減飽きたよー」


 そう言うとベッドの上で手足をバタバタさせた。


「いい加減、外へ行きたいー」


 さらに手足をばたつかせると、部屋中に埃がたちこめた。


「ちょっと、シオン、そんなにバタバタしないのっ。食事が埃まみれになっちゃうよ」


 ペーターは部屋の窓を開けて換気をした。


「たしかに5日もこもってると飽きちゃうよね。傷もいいようだから外へでかけよっか」


「わーい、やったー。外へ出られるー」


 シオンは喜び、ベッドから飛び起きると壁にかかっているローブのところへ行き、着替えようとした。


「ちょっと待った。まずは食事を済ませるのと、服装は俺が用意したのに着替えること。あの変な連中に見つかったら大変だからな」


 ペーターがそう言うと、シオンはおとなしく食卓に着き、用意された朝食を食べた。それが済むとペーターは部屋の片隅に置いておいた袋から白いシャツと青いワンピースを取り出した。


「えー、これ着るの。かわいくないー」


 シオンは服をみるとブーブー文句を言った。


「ダメ、これを着るの。あの黄緑のローブは目立ちすぎるから。それにこれだってお前に似合うとおも・・・。とりあえずこれを着る!そのあと髪型とかも変えるよ!」


 渋々用意された服を着ると、ペーターがシオンの髪を後ろで一つにまとめた。そこにつばの広いリボンの付いた帽子を取り出すとシオンにかぶせた。


「よし、これで完成だ。これならお前を見分けられることはないだろ。それからコトラにはこの黒い粉を振りかけて黒い子猫にしよう」


「ちょっと待ってよ、それじゃコトラが可哀そうだよ」


 シオンが止めるのもお構いなしに、ペーターはコトラに黒い粉を振りかけた。


「大丈夫。これただの炭だから。洗えば落ちるよ」


 そう言うと全身に炭を振りかけ、それを払い落とすと、コトラは黒猫に変身した。




 外は春の陽気に包まれていた。この日は休日で、街は多くの人で賑わっていた。大通りでは月に一度のバザーが開かれていた。道の両脇には露店が並び、普段お目に架かれないようなものも多数売られていた。


「わーすごいー、これがバザーなんだ。たくさんお店があって楽しそう!」


 シオンは初めてのバザーに大はしゃぎした。見るもの見るもの珍しい物ばかりで、右へ左へ忙しく店を回った。所々おいしそうな食べ物を売っているとそれを買って食べ歩いた。

 大通りも中ほどまで来ると大きな噴水があった。その周りには大道芸だったり、人形劇だったり、歌唱だったりと様々な出し物が行われていた。


「みてみて、ペーター、いろんなことやってるよ」


 シオンのテンションはさらに上がり、あちこち見て回った。

 その一角で少女が一生懸命に踊っていた。その踊りは独特で、この国ではあまり見ないタイプのものだった。


「へー、珍しい踊りだな。初めてみるや」


 踊り子の目の前に座り込んでみているシオンの後ろでペーターがつぶやいた。


「そこの坊ちゃん、お目が高い。この踊りははるか西方の踊りで、この辺じゃなかなかお目にかかれやせんで」


 いつの間にかペーターの後ろに薄気味悪い男性が立っていた。ペーターは驚き飛び跳ねた。


「すいやせん、驚かせてしまいましたな。この子はわしの孫でしてな。旅をしながら踊りを見せてまわってるんですわ」


 土気色した前歯の掛けた男性は言った。


「そ、そ、そうなんですか」


 ペーターは動揺しながらもなんとか答えた。


「う、うつくしい踊りですね。つい、見とれてしまいました」


 ペーターが言うと、後ろから拍手が聞こえた。


「お疲れ様、上手だねー」


 息を切らした少女に、シオンは無邪気に話しかけていた。


「へへ、ご満足いただけましたか。よろしければ少しばかりご協力していただければ幸いです」


 男性は帽子を脱ぐと、それを裏返しペーターに差し出した。その眼差しはするどく、拒否することを拒んでいた。


「あ、はい、えっと、では少しばかり」


 ペーターはだじろぎながらも財布から1,000イェン銀貨を出すと、その帽子にいれた。


「まいどありがとうございました」


 男性は銀貨を胸のポケットにしまった。


「踊り、上手だね。どこで習ったの。わたしシオンっていうの、あなたは?」


 シオンは少女に向かって話していた。少女は息を切らせながらも答えた。


「踊りは、お、お母さんから、お、教わったの。わ、わたしの名前は・・・」


「おい、チッタ。さっさと片付けろ。次の場所に移動するぞ」


 少女の返答を遮るように男性が割り込んだ。チッタと呼ばれた少女は怯えながら周囲の道具を片付けると、男の後について行った。


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