Night.1
私は自宅の布団で眠りについたはずだが、どうも様子がおかしい。目を覚ますと辺りには白い花が咲き誇っているではないか。
「そうか、これはきっと夢なのだな」
それならばと辺りを見回し、足を動かし始めた。少なくとも見える範囲には白い花以外何も無かったが。
しばらく歩くと、人の気配を感じた。どうやら彼らは列になって歩いているらしかった。
彼らの顔はぼんやりと歪んでおり、判別は出来そうになかったが、笑っているということだけは脳に直接侵入してきた。
「あの、すみませんが」
話しかけても彼らは歩みを止めることはなかった。それどころかこちらを意識している様子もない。
私が途方に暮れていると、列から外れた人が一人だけぽつんと立っていたのが目に入った。どうして見えなかったのだろうか?いや、むしろ居なかった、という方が夢であるとすると幾分か自然である。
この真白の世界において少女の赤は異質であった。私は少女に声をかけるのをどうにも躊躇ったようであったが、極めて冷静を装いながら声をかけることにした。
「おおい、そこの人」
少女はこの世界で初めて私を見た。しかしその顔はぽっかりと穴が空いたように何もなかったのだ。
一瞬ぎょっとしたものの、私の好奇を抑えるのに足る程ではなかった。
「一体彼らは何をしているのです?」
「葬列、ご存知ない?」
少女の声は酷く不快に私の脳に響いた。
「そりゃあ勿論知っていますが。彼らは葬列を?それにしては随分笑顔だ」
「笑顔に見えるならきっと、貴方は幸せなのね。だってここは貴方の思い通りなんですもの」
「まさか。人が死んで幸せになる者などいないさ。それに思い通りだというのならこんな妙な夢、すでに終わっていることでしょう」
勿論、私が嫌っている人間などいない。
「そう、なら終わらせてあげましょう。気がつくまで、何度でも繰り返せばいいのですから──
空にあった太陽は突然加速して堕ちた。処理出来るレベルを超えた突然の回転は、ぼんやりと赤い少女を中心として、私の目を回したようだ。
✤
「酷い夢だった」
過熱したPCがブラックアウトするように、私は意識を失ったのだった。それを証明するように私の頭には今も情報が焼き付いて痛い。
朝から嫌な気分だ、と重い頭を擡げる。
「いや、何かを間違えたか?」
朝のはずがない。さっきまで明るかったのだから、次は夜に決まっている。当たり前の事だ。
私は昼が終わっていることに安堵した。
夜が来たら、やらねばならぬ事がある。睡眠だ。幸いにもなぜか頭痛がする。これはきっと私に寝ろと言っているのだ。
布団まで行く余裕はなかったので、私はソファに横たわった。