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小説を書き続けるきっかけ

 小説を書き始めたきっかけではなく、書き続けるきっかけ。

 それは今から14年前。当時大流行していた元祖SNSとも言えるmixi。そこで知り合ったハンちゃんという一歳年上のよくわからんヤローと知り合った。

 高校が同じだったらしく、全く面識のない先輩にあたる人物であったが、彼の双子の姉が自分が当時在籍してた部活動の先輩といわれ、世間の狭さを実感。ちなみに、自分が通っていた高校は商業校で、商業校らしい部活動で簿記部というものに所属していた。


 そんな彼、ハンちゃんだが、とにかく楽しい事が好きだった。よくわからないコスチュームで、衣装はピエロだが、アフロのカツラを被って白マスクをつけるという、いかにも変質者。このマスクをつけてもし当時のネットでバズっていれば、ラファエロよりも有名になっていたのは間違いない。白マスクだけでもインパクトがあるのに、全身のコーディネートがあまりにも異質だった。

 もともと知り合ったきっかけは、mixiにあった、コミュニティーという集まりで、自発的かつ不定期にカラオケオフ会というものを行っており、その時どういうわけか自分も参加した事。当時の自分はビジュアル系にどっぷり嵌っていたので、私服が完全に喪服、と言える程真っ黒かつゴシックな様相を伴っている、言うなれば痛い恰好をしていた上に、カラオケの選曲内容がビジュアル系のかなりハードなもの。当時のV系の隠語で言うと、コテ系に分類されていたと思う。そんな人間が来たものだから、ハンちゃんは異様に狂喜していた。まあ、趣味系統が違うだけで似た者同士、と言ったところだろう。


 逸話としてはこんな事があった。まず玉ねぎの天ぷら。

 mixiにあげていた写メが痛烈な印象となる。高さ三十センチまで積み上げた玉ねぎだけの天ぷら。玉ねぎを食すと嘔吐する自分からするとただの嫌がらせの代物だった。おいしいのに~、と言っていたのが口癖だった。

 次の逸話は流動体鍋。

 料理はめんどくさいからイヤと言って、前述の玉ねぎの天ぷらの件もあり普段から極端な、ロクなものを食していなかった記憶がある。それを見かねて料理してやると自分が宣言。もうひとりmixiで知り合った友人を交えて男鍋会。

 具在がよりにもよって大量の小アジ、じゃがいも、うどんだけという極端な組み合わせ。アジに至っては、二人して釣って来たはいいものの、どちらも調理が出来ないと言われ自分が五センチ程度のアジ60匹の下処理をする羽目に。おかげで三枚おろしを覚えたが、二度とこれだけの為に呼ぶな、と怒った事もはっきり覚えている。

 当然そんな大量の小アジをどう処理するかが問題になり、この前玉ねぎの天ぷらあれだけ作ったのなら小麦粉ぐらいあるだろ?と聞くと、この前の玉ねぎ天ぷら大量量産で全て使い果たしましたー!ときたものだ。これにより天ぷら作戦は潰える。

 そこで考えたのは、四割は刺身にして残り全ては鍋にしよう。鍋なら大体のモノは食える、と判断したが、これがいけなかった。アジとうどんだけでは余りにも味気がない為、じゃがいもを入れて寄せ鍋風にすれば何とかなるだろうと思っていたが、余りにも長時間煮込み過ぎてしまい、蓋を開けると、アジとじゃがいもの原型が全てなくなっていた。アジとじゃがいものミンチ汁であった。これには友人と自分はとても無理となり、お椀二杯で終了。これはいくら何でも無理があった。だがハンちゃんは、これで三日いける!と狂喜乱舞してその日だけで鍋の半分を食してしまった。これでかなり健康体なのが不思議とも思った。


 そんな彼とのつるみは意外にもたったの半年間。その当時の自分も暇を持て余したフリーターでもあった為、ほぼ毎日彼の家に入り浸っていた。実家なのに一人暮らし、家族は全員新居に移ったけど俺だけここに残った!という話を聞いて不思議に思った記憶がある。彼の家の立地自体、最寄り駅から徒歩でもニ十分以上かかる山の上にある団地といういかにも昭和な物件のタイプで、その最寄り駅も現在たま駅長で有名になっている貴志川電鉄の駅のひとつ。当時たま駅長とか当然ながらおらず、ただの一地方路線程度だったその駅なもので、一時間に二本か三本電車があればいい程。凄まじく立地の悪い田舎に住んでいるのに、理由が“家が広くて安いから”と言っていた。


 ある日、自分がmixiの日記で、小説ネタを欲しいと書いたところ、彼がこんなネタどう?と提案してきた。それが、小学生当時に見た悪夢。まさかのホラーを書けというのか、と当初の自分は難色。今まで心霊系のホラー小説を書いた事がなく、また当時は書くつもりも全くなかった。しかし、せっかく書いてくれと言ってくれているので無下には出来ないので、書く事にした。これが現在公開しているも、今執筆中断している「部室感染」。主人公の半田雅人がハンちゃんと言われているのはモデルが彼だからである。彼に読んでもらったのは、現在公開している六話まで。以降、自身の仕事が忙しくなってきたのと、お互いのタイムスケジュールが合わなくなり自然と疎遠に。そして前話にて書いたバンドメンバーとのルームシェアの事もあり、地元を離れる直前に電話をしたのが最後の会話になった。その内容は、当時彼といろいろ遊びに行っている時に金がなくて困っていた時に貸してもらった事があり、それを返せていない状態が続いていた為、その謝罪の連絡だったのだが、本人は、忘れてたからいいよ、と言われた。


 それから3年後の27歳になった時、地元に帰省して以前働いていたビジネスホテル兼カラオケ兼ネットカフェ等の複合企業に顔見せしに行った時に、ハンちゃんの嫁と再会した。彼女は自分とは高校時代の同級生で、生徒会で一緒だった事もあり面識があったが、付き合っていたのは知っていた。結婚した事についても、mixiを通して知っていた。だが、彼女に教えられた事は信じられなかった。

「ハンちゃん、去年亡くなったよ」

 信じられなかった。あれだけ底抜けに毎日楽しんでいたアイツが?またアイツのいつものタチの悪いドッキリやろ?また趣味悪くなって。お前もお前で二人してイタズラ好きやったからそれは冗談でも言うたらあかんぞ。ほんまに死んだんやったら、遺影とか見ん限り信用せんぞ?と答え、それだったら挨拶させてくれと言って彼女の自宅を訪れた。

 どうやら結婚して婿入りしたらしく、ハンちゃんの苗字は変わっていた。嫁両親に相当気に入られていたらしく、まさかの家をプレゼントしてもらうという程の気に入られっぷり。ここまで義実家と良好なマスオさん婿は中々いないだろう、と思っていたが、家に入りリビングの先の和室に向かうと、本当にあったよ。

 遺影と結婚後の名前で位牌が刻まれていて、享年二十七歳とあった。

 娘二人と嫁を残して逝くなよ・・・、と思ってはいたが当然ながら言えない。彼女もようやく喪から明けるかどうかという時期でもあり、下手な事は言えなかった。この歳からシングルマザーとか相当苦労するだろう、とは思っていた。


 「部室感染」の冒頭に記している、M.H.に捧げる、の対象は彼の事である。あくまでも彼が見た悪夢がモデルで、主人公の様相は彼とかけ離れているが、ある意味ハンちゃんの分身とも言える。ハンちゃん自身も、そのような意識はあったらしい。

 「部室感染」の執筆を中断しているのは、ホラー作品なのに、書いていると彼を思い出して時折辛い事があるのと、今の自分と当時の自分では感性が余りにも異なっている為、当時の文章を残したまま今の感性で書き上げると違った方向性になりそうだったからである。


 そんなの気にしなくていいから書いてくれよ~


と、ヤツなら天の声的に言って来そうだから、そこは追々、ね。

 地元に帰って来てから自分もそこそこ落ち着いた事もあるし、久しぶりに挨拶に行くか。

 ハンちゃんのおかげで、作曲と同じくらい執筆が長続きしよるよ。

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