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不完全な私達  作者: 紅井さかな
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3.5 大島 由美華(おおしま ゆみか)

閲覧ありがとうございます。

至らない点がまだまだあるかと思いますが引き続きお楽しみますと幸いです。



 私の名前は大島由美華。高校教師をしている。自分で言うのもなんだけど、皆からは「信頼できる先生」だとか「優しい先生」だとか「美人」と言われている。


でもそんなのは当たり前の事なの。


私は世に言う、お嬢様育ち。幼い頃から勉強だって、運動だって一番だった。大学ではミスコンで優勝もした。欲しいものは何でも買って貰えたし、可愛いがられて大切に育てられた。その分、裁縫や、生け花、立ち振る舞いや、マナーだって人一倍学んだ。

街を歩けば芸能界へのスカウトだって沢山されてきた。私が、美人なのも、勉強ができるのも、性格がいいのも当たり前。皆私を好きになるの。何でも手に入るの。


でも心は満たされたことはない。


何でも手に入ると思って生きて来た私にも手に入らない男がいた。

大学生の時である。両親が決めた婚約者が私にはいた。その男はこんなに最高でこんなにいい女の私を、簡単に裏切った。


その男もまた、顔が良く、勉強が出来て家柄もよく私に大変釣り合っていた。私はその男が好きだった。親同士が決めた相手だったから、向こう側の私への気持ちは聞いた事がなかった。私は彼の気を引こうと必死だった。今まで沢山の男に告白されてきたが、こんなに気持ちが見えない相手は初めてだった。自分から好きになったのも初めてだった。初恋だった。

同じ歳だったが、学校は違った。彼は自分で多くを語らない人で、謎が多く、私は彼への好奇心を止められなかった。


彼にどうしても会いたくて、約束はしていなかったけれど彼の通っている大学に迎えに行った事がある。私は彼が来るのをそわそわしながら待って居た。可愛らしく手鏡で髪を整えたりしながら。

彼の姿を見つけ手を振ろうとした時である。反対側から別の女が走ってきた。それは女子高校生だった。彼に妹はいない。二人は私の存在には気づかず、仲良さそうに腕を組んで街の中に消えていった。初めて感じた屈辱だった。


後日、彼を問い詰めるとあっさり浮気を認めた。

「君みたいな気の強い女は全くタイプじゃない。俺は年下のか弱い子が好きなんだ。君もお金の為に俺と婚約したんだろう?」

 「君も」とは何だ。「お金の為に」とは何だ。私はあなたと婚約なんかしなくても充分にお金は持っている。彼は初めから私になんて何の興味もなかったのだ。

 彼がお互いの親に話をして、婚約破棄になった。私は悔しかった。強い憎悪を感じた。私が初めて手に入らなかったものに。

 



両親に別のお見合いを進められたが、私は反発して家を出た。そして教師になった。人間と言うものをもっと知りたくなったから。


 勉強、部活、恋。生徒一人一人がいろんな悩みを抱えていて、その相談をよく聞いていた。生徒と接するのは楽しかった。


でも私の心は埋まらなかった。


何人もの男子生徒、同僚の教師から愛の告白をされた。時には結婚している教師から声をかけられることもあった。教師同士のトラブルはめんどくさいから避けたかった。


私は男子生徒に近づいた。あの元婚約者の男と女子高校生がどんな気持ちで会っていたのか知りたかったから。もちろん、こちら側から手を出すことはない。隙を見て、二人きりの時に少し顔を近づけるだけ。反応は様々だが、喜んで答える生徒がほとんどだった。


しかし,ある男子生徒に近づいている所をたまたま他の女子生徒に見られてしまった。何かが始まっていた訳ではない。私がわざと転んだ所をその男子生徒に受け止めてもらっていただけだ。その男子生徒は本当に純粋に私を心配していた。だが、女子生徒が勘違いをし、私と男子生徒が付き合っていると噂を広めてしまった。男子生徒はいじめられた。


職員会議でも問題になったが、「私が転んだだけで、それを助けてもらっていただけ」と言う話を信じてもらえた。特に男の先生が私を擁護してくれて、私は特に処罰は受けなかった。

しかし生徒達は暇なのだろう。私達の間には何もなかったと分かっても男子生徒へのいじめは無くならなかった。

男子生徒は不登校になった。


私も教師と言う立場からこれ以上事が大きくなっても困るし、仕事を続けられなくなってしまうので、それ以降男子生徒に近づくのをやめた。


結果論、男は皆同じだった。簡単に私に惑わされる。そして、元婚約者の気持ちは理解できないままだった。


私の心は埋められない。満たされない。



そして二年後。

現在のクラス、二年C組を受け持つ事になった。このクラスは私が今まで受け持ったクラスの中で個性的な生徒が一番揃っていた。クラスをまとめるのは大変だった。それに皆授業もほぼ聞いていない。


そんな中、一人だけよく目が合う生徒がいた。と言うか彼女からいつも視線を感じる。西野梢だ。彼女はクラスで一番成績が良かった。放課後によく勉強の分からない点について質問しに来てくれていた。でもどこか不安げな表情をいつもしている。どうして彼女がそんなに自信がないのか私はとても興味があった。


そんなある日、梢に話があると言われた。やっとその不安げな表情の理由を知る事が出来るのか。

しかしその答えは愛の告白だった。私の予想を超えるものでは全くなかった。正直「またか」と思ってしまった。でも私の為に、泣いてくれてこんなに苦しい思いをしながら純粋に告白して来てくれた人は教師になってから梢が初めてだった。私は自分の初恋を思い出した。甘くも、酸っぱくもない。青春の瑞々しさもない、ただただ苦いだけの恋。

私の心が少しだけ動いた気がした。純粋で素直で可愛い年下の女の子。私は梢が可愛くて、可愛くて、気づくと接吻していた。


……そうか。彼はこんな気持ちで女子高生と浮気したのね。この気持ちは女子生徒とじゃなければ感じ取る事が出来なかった。


梢が可愛かった。でもそれだけ。それ以上も、それ以下も私にはない。


私たちが接吻している所を中川ひなたが見ていた。私の興味の対象はこの時ひなたに移った。人形と呼ばれる彼女に。


 後日、梢にひなたが見ていた事を伝え、ひなたに気を付けるように忠告した。「あなたを守りたいから」と伝えると梢は頬を赤らめて嬉しそうにしていた。可愛い。梢が去った後、私はゆがんだ顔で笑っていたと思う。 

 

そんな時事件は起きた。北村桃の上履きに画鋲が入っていたのだ。そして桃はひなたがそれを入れたと言う。ひなた本人は違うと言っている。私はひなたが犯人ではないと一瞬で見破っていた。彼女はそんな汚い事はしない。これでも一応担任だ。生徒一人一人の性格は見ているつもりだ。ひなたは確かに人形と呼ばれ、頼みごとを何でも受け入れるけど、頭は切れるし、高潔だ。仕返しをするならもっと水面下から攻めていくだろう。私はひなたのそんな所を恐れている。


真犯人はきっとあの子。検討はついている。でも私は、ひなたがどこまでこのクラスの圧に耐えられるのか、興味を持った。立場上、一応「やめなさい」と声をかけるけど、この事件の行く末を見ていたかった。桃の動きに期待した。しかし、ひなたはすんなりと謝罪してしまった。

 

つまらない。


 その時だった。東原大河が声を上げた。

「皆、これで許しちゃっていいの?人形がこんな事したのにいいんですかぁ?」

 大河はてっきりただのお調子者の阿呆かと思っていたけど好きな子の為になら何でもできるタイプなのか。少しだけおもしろい。

皆が大河に従い、「帰れコール」を始める。梢も従順にやっている。

 大河がひなたの胸倉を掴んだ時、流石に大事になるかと思い、止めに入ろうとした。しかしその時、ひなたが大河の顔面にグーパンチをくらわせた。

 

これよ!これっ!おもしろい。


私の心がときめく音がする。

 やっぱり人間は限界が来ると壊れてしまう物なのね。人形と呼ばれる彼女でさえ理性が飛んでしまったもの!

 面白い結論がでた。何をしても満たされなかった私の心が満たされていくのを感じた。恋をしているよりも何倍も楽しかった。



 私はこれからも自分が求めるものの答えを探して生きていくの。おもしろいものを探していくの。そのためには何でも使う。相手が男でも女でも、生徒でも先生でも。だって皆、私をすぐに裏切るもの。私だけが悪いわけじゃないでしょ?

 


 きっとひなたは明日から学校へは来ないだろう。ひなたの両親ともいつか話をしなければならない。どうやって子育てすればあんな人形みたいな子に育つのだろう。私はひなたの両親にとても興味が湧いていた。ワクワクして仕方なかった。



 もっともっと壊れていくのかな。

 

 好奇心が止められなかった。





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