1.5 西野 梢(にしの こずえ)
閲覧ありがとうございます。
まだまだ至らない点があるかと思いますが引き続きお楽しみいただければ幸いです。
私は西野梢だ。皆からは、表では優等生、裏ではガリ勉と呼ばれている。
私には勉強しか取り柄がない。私は運動もできないし、美人でもない。頬が赤くなる程、ニキビがひどくてコンプレックスだ。友達はいるけれど、本当に友達なのかもわからない。都合のいい時だけ「梢!勉強教えて」「宿題見せてよ」と寄って来る。だから私は利用されているだけなのでは?と時々悲しくなる。でも頼られるのは悪くないとも思う。
私には勉強以外本当に何もない。勉強だけが私を支えてくれる。ちゃんと結果に出てくれる。裏切らない。だからその面では、両親にも将来を期待されている。私は、皆を、ガリ勉と言っている人達を、見返すんだ。
そんな私にも高校二年生になって憧れの人ができた。クラスの担任の大島由美華先生だ。先生は、凛として私と違って黒髪が良く似合っていて、生徒に優しくて、美人でスタイルもいい。私は一気に惹かれていった。こんなにも美しい人を見た事がなかった。「大島先生の授業は難しい」って皆は言うけれど予習していけばそんなにでもないし、何より授業中先生から目を離したくなかった。目が合えば嬉しいはずなのにそらしてしまう。先生に褒められた日は天にも昇るような気持になった。憧れの人がいるだけでこんなにも毎日が楽しい。先生のような女性になりたい。
先生に近づくため、勉強も今まで以上にもっともっと頑張った。
ある日の事である。大河が授業中、先生に質問をした。
「先生!彼氏いるんですか?」
その言葉に私の心臓がドクっとする。なぜだろう。
「いないわよ!ほら、授業中よ!」
先生は笑っていた。
「何だ。つまんねぇ」
大河はそう言っていた。
私はずっとその言葉が頭から離れなかった。先生は二十八歳だ。彼氏がいて普通だし、結婚してもおかしくない。そう考えていると自然と涙が溢れて来た。
何で私泣いてるの?
先生が幸せになるのは嬉しい事じゃないの?…そうか。私先生に恋をしているんだ。
私は先生が好き。
女の私が女性の先生を好きなんて引かれてしまうかもしれない。恋心に気づいた嬉しさと同時に、そんな苦しみが襲ってきた。今日彼氏が居なくても、もし明日彼氏ができてしまったらどうしよう。あんなに魅力的な人だ。充分ありえる。居てもたってもいられなかった。速く伝えたい。先生を困らせてしまう事は分かっている。私が身勝手なのもわかっている。もし気持ちを伝えたら、今までみたいに普通に生徒として接してもらえなくなるかもしれない。でもこのまま気持ちを抱えているのは嫌だった。自分でもびっくりするくらい焦っていた。いつものんびりマイペースな私の中にこんな自分が居たんだ。新しい自分に出会えたのも先生のおかげ。先生に対する感情一つ一つが愛おしく感じた。勉強しかしてこなかった私にとってこれが初恋だった。
私は職員室へ向かって走っていた。
「大島先生大事な大事なお話しがあります」
「どうしたの?そんなに息を切らして。時間は大丈夫よ。ここじゃなんだから移動しましょう」
そうして準備室に移動した。移動中もずっとドキドキして、心臓が張り裂けそうだった。歩いてる姿さえ先生は優雅だった。準備室に中は夕陽がさしていて、光に当たる先生はさらに美しく見えた。先生が優しく話しかけてくれる。
「どうしたの?何か悩みでもあるの?勉強の事かな?」
「違います。あのっ…私…あの…」
私は言葉に詰まってしまった。気づくと泣いていた。先生の柔らかくて優しい手がゆっくりと私の頬を撫でる。ドキドキが止まらない。
「ゆっくりでいいのよ」
「私は先生に憧れていました。先生は美人で、優しくて先生みたいになりたいって思っていました」
「あら、ありがとう」
「でも、違ったんです。違わないけど違ったんです」
「何が違うの?」
私今、絶対顔が赤い。恥ずかしくて先生の目を見れない。でも見なきゃ。頑張れ、私!
「私は…先生が…好きです。憧れじゃなくて、恋なんです。好きです…。私、変ですよね。女なのに女性が好きなんて。でも…好き…」
その時、私の目の前が先生の顔でいっぱいになった。私は先生と接吻していた。いきなりの事について行けず、心臓が止まるかと思った。先生からは大人の女性の香りがした。私は幸せな気持ちでいっぱいだった。
中川さんに見られていたとも知らずに―。
後日、先生に、中川さんに見られていたことを教えてもらった。見られていると分かっていても私への気持ちを止められなかったのだと。そして「中川さんには気を付けるように、あなたを守りたいの」と言われた。中川さんに見られていた事に関しては焦ったが、それ以上に先生に大切に思われている様に感じて嬉しかった。
中川さんはクラスで人形と言われている。いつも笑顔だけどふとした時にいつも暗い顔をしていた。中川さんは「大丈夫」と言っているけれど本当はいじめられているのが辛のではないかと思う。でも私はいじめに巻き込まれたくなくて、皆に同調して、見て見ぬ振りをしていた。
中川さんの事は嫌いじゃない。新学期で私が自分の席が分からなかった時に優しく教えてくれたから。でも人形である中川さんを、もし助けたら、次のターゲットはガリ勉である私だと思う。
そんな時事件は起きた。桃の上履きに画鋲が入っていて、その犯人は中川さんだと言うのだ。中川さんは確かに桃にいじめられていたし、恨みは少なからずあるだろうけどそんな事するのだろうか。本人も違うと言っているようだし…。しかし、桃は止まらない。どんどん中川さんを責める。皆、桃に対して脅えていて、誰も意見はしなかった。
先生も桃の味方をしていた。先生がそう言うのなら正しいのだろう。先生にも何か考えがあるはずだ。それに万が一、中川さんに私と先生の仲をバラされては困るから、私は桃に、先生に、皆に合わせた。
本当はこんな事したくないけど皆と一緒に中川さんに「謝れコール」をした。心の中では少し、中川さんを心配していた。
中川さんは謝罪をした。やっとひと段落ついたと思ったら、今度は大河が「帰れコール」をし出した。酷いと思ったけど、先生も止める気がなさそうだ。先生がそうするならと、私もまた皆と一緒に「帰れコール」をした。皆、驚くほどに楽しそうで、怖かった。もしも自分がされたらと思うと吐き気がした。だから、自分を守らなきゃ。先生との仲を守らなきゃ。その為にはしょうがない。先生だってきっと、私との仲が一番大事でしょう?
「皆さんのお望み通り帰ります。私は何でも聞く人形なので」
そう言って中川さんは教室を走って出ていった。いつも笑顔の中川さんが泣いているように見えた。
きっと気のせいだ。彼女は人形なのだから。
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