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不完全な私達  作者: 紅井さかな
19/20

12,日向

閲覧ありがとうございます。

至らない点があるかと思いますが楽しんでいただけますと幸いです。


私は通信制の高校に無事編入でき、予備校に通いながら、楓の所にバイトに行くという生活を送っていた。服装も、髪型も以前のように母に厳しく言われる事もなくなり、自由に出来ていた。帰宅時間には厳しかったけれど。


新しい高校も、予備校も、皆優しくていじめられる事はなかった。と言うか皆目標に向かって一生懸命で、他人の事なんて気にしている暇はないという感じだったが。皆が夢に向かって頑張っている姿が眩しかった。同年代でも環境が変わればこんなに人も違うものかと驚いた。


私が作り笑いをして人形らしく過ごす事もなくなっていた。


そうして残りの高校生活を穏やかに過ごしていた。

あれ以来、杏とは会っていない。




そんなある日、一通のメールが来た。相手は梢だった。

「中川さん、久しぶりです。お元気ですか?

あの時は私、ちゃんと周りが見えていなくて強く当たってしまってごめんなさい。

中川さんと話がしたいです。私となんか、もう会いたくないと思うけど、ちゃんと謝りたいです。返信待っています」


私は梢と会う事にした。その事を、楓と樋口さんと田中さんに話したら、楓が「僕も行くよ!心配だし」と言ってくれた。しかし私は一人で行く事を決めていた。人気が多いカフェなどで会えば、杏のようにさすがにナイフは出さないだろう。楓は渋々納得して「迎えにだけは絶対に行く」と言っていた。





「中川さん、ひさしぶり!」

後日、梢とカフェで待ち合わせをした。

「久しぶり」


「中川さんあの時はごめんなさい。私本当にひどい事言った。いくら先生の事が好きだったからって本当に馬鹿だった。人に言っていい事じゃないのに……本当にごめんなさい」

梢は深く頭を下げていた。


「もう、いいよ」

「中川さん……」

「いいけど、私、許したりはしないから。西野さんだけのせいじゃないけどあの時本当に辛かったんだから……」


「そうだよね。許せるわけないよね。ごめんね」

「私の分まで、西野さんはあの場所で沢山思い出作って、沢山青春してね」

「中川さん……優しいよね……私じゃなくて先生が中川さんを見てた理由がなんとなくわかった」

「それだけは誤解だよ?西野さんと先生は付き合ってたんじゃなかったの?」

「私は……私は本気だった。でも先生は遊びだった。私なんて元々眼中になかったみたい。笑っちゃうよね。私だけ本気で、中川さんに当たり散らして。私、本当馬鹿。やっぱり私には勉強しかないみたい」


「勉強ができるの凄いよ!私なんて予備校行っても中々成績上がらないし。これからきっと素敵な人にも出会えるよ」

「ありがとう……先生ね、学校辞めたの」

「え?そうなんだ?!」


「うん!大島先生の事だからきっとどこでもやって行けるでしょうけど。あーあ、初恋だったのにな……」

「そうだったんだ。でもそんなまっすぐに誰かを好きになれるって素敵な事だね」


「中川さんも素敵な人だよ。……そう言えばね杏も学校辞めたの!」

「え?」


杏はあの事件のあと、学校にはまだ在学すると大島先生伝いで聞いていた。桃と大河と仲良くしていたみたいだから、うまくやってるいと勝手に思っていたけど何があったんだろう。


「杏ね、東原くんに手出してたらしいのよ。東原くんを略奪したくて桃と仲良くしてたんじゃないかって皆言ってた」

「……そうなんだ」


杏の目的が略奪ではなかった事を私は本当は知っていた。しかし、あの日杏と話した内容を梢に言うつもりはなかった。


「怖いよね。私も人の事言える立場ではないけれど。それで杏は、桃と他の仲いい友達にいじめられて学校辞めたの。東原くんは知らんぷりしてた。薄情だよね」

「大変だったんだね……」

「でも一番大変だったのは中川さんだよね。中川さんが、学校来なくなってから、クラスがいろいろ変わった気がするもん。皆の事影から一番支えてくれてたのは中川さんだったよ」



人形だった私は皆を支えていたのか。皆のサンドバッグだったって事だよね。要するに。でも前はそれが幸せだと思っていたし。

私が居なくてもクラスは変わらないと思っていたけど、少しは変わっていたのかな。私が存在してた意味が少しはあったのかな……。



「中川さんは変わったね。あまり笑わなくなった」

「え?」

「もちろんいい意味だよ!前はずっとニコニコしてたけど今はカッコイイ女性って感じがする。髪型も服装も凄く似合ってる」



「ありがとう。いろいろあったけど、私も昔より今の私の方が好き」



「中川さんは凄いよ。あーあ、私も頑張ろう」

そう言って梢は微笑んでいた。梢の中の何かが吹っ切れたのか、清々しい表情をしていた。






カランカラン。

カフェのドアが開き、入店のベルが鳴る。



「ひなた!待ちきれなくて来ちゃった」

「楓?まだ来るの速くない?」

私達のそんなやり取りを梢は目を丸くしてみていた。



「楓?楓くんですかっ??」

「はい?そうですけど……?」

梢もまさか楓の過去に何か繋がりがあるのか?私は不安になった。


しかしその不安は一瞬で吹き飛んだ。


「楓くんて、この曲歌ってる人ですよね!?名前も声も一緒だし、絶対あなたこの楓くんですよね?!」

梢は興奮気味だ。


「そ、そうだけど。僕、顔は出さないでやってるから、皆には内緒ね。曲聞いてくれてありがとう」

「もちろんっ!私最近動画サイトで楓くんの曲見つけたんですけど、もう大ファンになっちゃいました!大好きです!会えて嬉しいです!!」

「ありがとう」


梢は楓の手をブンブン振りながら握手をしている。こんなに楽しそうな梢を見たのは初めてだった。それに楓の曲を知っていてくれた事が、私は嬉しかった。





「中川さん!楓くん!今日はありがとう!会えて本当に良かった!お互い頑張ろうね!じゃ」

「私も会えて良かった。じゃあね」


梢はよほど楽しかったのかスキップをしながら帰っていった。



「元気な子だね」

楓は笑っている。




「元気になったんだよ。楓のおかげで……」




少しだけ暖かい、優しい風が吹いている。


「え?なんて?」

「楓はやっぱり凄いよ!……帰ろう!」

「はぐらかさないで教えてよー」






もう人形だった私はどこにも居ない。


私が私として生きていく人生は始まったばかりだ。






最後まで読んでいただきありがとうございました!


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