11,終業
閲覧ありがとうございます。
至らない点があるかと思いますが楽しんでいただけますと幸いです。
翌日。田中さんから貸してもらった方の携帯に、楓から連絡が来ていた。
「退院時間に迎えに行くから、連絡して」と。
昨夜は遅い時間になってしまった事もあり、大事を取って一晩だけ入院したのだった。父と母は仕事で迎えには来られないとの事だった。家から病院が近かったこともあり、私に一人で帰るようにと母から連絡が入っていた。そして警察沙汰事件になってしまった事もあり、今日は学校が休校になったらしいと、それも母から来ていた。
病院を出ると連絡していないにも関わらず、楓と田中さんと樋口さんが迎えに来てくれていた。
「ひなた!大丈夫?」
「……ありがとう」
皆が私の退院を喜んでくれているようだった。私は申し訳なさでいっぱいだった。皆が優しすぎて、私はそれに見合った対応を出来ているのだろうか。車に乗り、そんな事を思った。
「あの、いろいろと、ありがとうございます。皆さんに助けていただいて本当に嬉しかったです。こんな大事に巻き込んでしまい、すみませんでした。……今日は自分の家に帰ります。今後の事両親と話さないといけないので」
「全然気にするなよ」
「……そっか。そうよね。何かあったらすぐに連絡してね」
樋口さんと田中さんは心配してくれているようだった。
「僕はひなたの味方だからね」
楓は私の目を見つめ、そっとつぶやいた。
夜になり、両親が揃うと私は「話がある」と二人をリビングに呼んだ。
「あの……」
私が話そうとすると母が声をかぶせて話し始めた。
「あのね、ひなちゃん。昨日の夜パパとママで話したんだけど、ひなちゃん今の学校は退学した方がいいと思うのよ」
意外な展開に私は目を丸くする。
「えっ?いいの?」
「うん。さすがに事件があった高校に通わせ続けるのは世間の目も怖いしね。また危ない事もあるかもしれないし。通信制の高校にでも編入して、予備校入って、いい大学に行ければそれでいいと思うのよ」
「そっか……その方が私もいいな」
「高校はダメでも、大学は良い所に行ければ何とかなるだろう。東大にでも行ければ今回の事件の事なんて帳消しになる。むしろいい印象になるかもしれない」
父も珍しく楽し気に話をしている。相変わらず、父と母は世間の目が第一ではあるけれど。でも今の高校を辞められるのならその方がいい。
「私、勉強もちゃんとするからその方がいいです。今の高校にはもう行けません」
「じゃあ、決まりね」
私はとてもほっとした。自分から退学したいと言って、反対される落ちを想像していたから。珍しく両親の意見に賛成できた。両親の考えが私を想って出した答えではなく、自分たちの世間体を考えて出した答えだという事は分かってはいるけれど。
それから数日は、警察に話に言ったり、学校に話をしに行ったり忙しかった。週刊誌がこの事件を取り上げたいと学校にまで来たらしい。そんなに大事になっていたのか。
楓とはちょこちょこ連絡は取っていたけど、忙しく中々会えずにいた。
そして私は晴れて退学することが出来た。
しかし、すぐに前向きになれるものではなかった。数日、家で寝ていた。身体が鉛のように重い。
私は生きているのが苦しかった。たった十七歳でこんな事を経験し、しんどいのにこれからどうやってまた試練に立ち向かっていけばいいのかわからなかった。乗り越えていく自信がもうなかった。消えてしまいたいと思っていた。
いろいろな手続きがやっと済んだので、楓と田中さんと樋口さんに会いに行った。
「楓。久しぶり」
「久しぶり。来るの速かったね!田中さんと樋口さんはまだお買い物に行ってるよ。とりあえず入って」
久しぶりに来たその場所は以前と変わらないままで、私の事を温かく迎えてくれたような気がした。そして楓はいつものようにミルクティーを入れてくれた。
「ありがとう」
そっと一口飲むと、その優しい味が身体に染みわたっていく。
「ずっと、挨拶に来られなくてごめん」
「いいよ。それよりひなた大丈夫?無理してない?」
楓にそう言われてハッとした。私はまた人形の笑顔を作っていた。
また自分を見失う所だった。
「ひなた?」
私は気づくとまた泣いていた。楓の前では泣いてばかりいる気がする。人前では作った表情しか出来なかった私が、楓の前では素直に泣けるようになっていた。
「よしよし」
楓がわしゃわしゃと私の頭を撫でてくれた。
「もう自分を犠牲にしなくて良いんだよ。生きたいように生きなよ」
「私も楓みたいになりたい」
自分の口からそんな言葉が出る日が来るなんて思ってもみなかった。何も考えず、全く意識せず、すんなりとその言葉が出て来たのだ。出会った頃は信じる事も出来なかったのに。
「僕なんて田中さんと樋口さんが居なかったら何もできないし、世間的に見たらただの引きこもりだよ。ずっとこもって仕事してるし」
楓はどこまでも謙虚だ。楓のそんな所も私は尊敬している。
「私の変わらなかったプレイリストに楓の曲が増えたの。楓みたいに優しくて強い人になりたい。楓の曲が、楓がいつも私を支えてくれた」
私も誰かを笑顔にできるようにしたい。もちろん人形としてではなく。自分も大切にしながら、自分も見失わないように。
さっきまで真っ暗だった私の心に日が射した空のように少しずつ明るくなっていく。
「自分を大切に出来ない人は他人も大切には出来ない。ひなた成長したよね。出会った時はミーアキャットくんだったのに」
「ミーアキャットくんって本当に何なの?」
そう言って二人でお腹を抱えて笑っていた。
そこには作り物の笑顔じゃなくて、本心で笑っている私がいた。
「ひなたちゃん、もう来てたのね!おかえり」
樋口さんは帰って来ると、苦しいほどに私を抱きしめてくれた。
「ひなた、おかえり」
田中さんも優しく微笑みながら、私の頭をポンポンと撫でて行った。
やっぱりここが好きだ。ここの皆も大好きだし、ここに居ると自分の事も少しだけ好きになれる気がする。
「人形」としてじゃなくて、「私」がこの空間に居られることが幸せだった。
「ただいま」
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