10,迷夢
閲覧ありがとうございます。
至らない点があるかと思いますが楽しんでいただけますと幸いです。
幼い頃は、魔法少女に憧れた。可愛らしいフリフリの衣装を着て、キラキラのステッキを持って、皆の為に悪者を倒す。正体は絶対にバレてはいけなくて、皆は本当の事を知らないけれど、魔法少女のおかげで街の平和は守られる。そして幸せに暮らしている。直接感謝されるわけじゃないけど、皆が魔法少女を正義だと思っている。そんなストーリーに憧れた。私もそんな子になりたかった。でもなれる訳がなかった。
カッコイイ同級生と恋をする少女漫画の主人公に憧れた。困っていると必ず助けて貰えて、いつでも味方が居て、好きな人と結ばれる。そして誰にでも優しく出来る主人公。そんなストーリーに憧れた。そんな子になりたかった。でもなれる訳がなかった。
そんなの夢物語が、実際にある訳ない。まず産まれた場所から違うの。大体物語の主人公は温かい家庭で生まれ育つ。私には一ミリも縁がない。
そして今、私は杏に刺されそうになって逃げている。私はそんな物語の主人公ではないから、ただの脇役だからきっとここで死ぬのだろうか。逃げても仕方ないのか。私が生きていたことを覚えてくれている人がいるだけで私は幸せなのか。
そんな事が頭の中をぐるぐる回っていた。でも心のどこかでは生きて、生き延びて幸せになりたいって思っている私がいる。そんな自分の為に私は走った。
「痛っ」
石につまずいて転んでしまった。私はどこまでも貪臭い。転んだまま振り返るとそこには杏がもう追いついていて、ナイフを持ったまま仁王立ちしていた。
「ひなたが悪いんだからね」
私は震えていた。本当は怖いのだ。冷汗がとまらない。本当は生きたいのだ。私は脇役にしかなれないけど、そんな私の事を想って受け入れてくれた人達がいたから。
私は一か八か転んだ体制のまま杏の足に飛びつき、押し倒そうと試みた。
「きゃあ!何!?」
杏はうまい具合に倒れて私は杏を抑えることが出来た。しかし杏はナイフを離さない。
「杏!落ち着いて!」
「やめて!ひなたが悪いんだよ!」
「杏!ナイフを捨てて!」
「やだぁ!!」
杏はそう言って私にナイフを振りかざした。
もう無理だ。避けられない……。私はギュッと目をつむった。……しかしナイフは刺さらない。そっと目を開けると、楓が杏の手首をつかんでいた。
「何やってんだよ!!」
楓のその声に杏も私もビクッとする。
「ナイフを捨てろ!」
楓は何かに取り憑かれたかのように怖い顔をしていた。そして杏の手を軽くたたいた。杏の手から、すんなりとナイフが落ちる。楓は思いつめたような表情でそのナイフを拾った。
「楓……?」
「おい!ひなた!楓!大丈夫か?」
「今、警察呼んだわよ!」
田中さんと樋口さんが駆けつけてくれた。楓はその声にハッとしたようにナイフを下に落とした。
田中さんは杏が逃げないように手首を取り押さえている。
「ひなたちゃん!怪我してない?!」
「ありがとうございます。何とか大丈夫です。楓が来てくれましたし。ありがと……」
私は樋口さんと話している時に意識を失って、倒れてしまった。
ここはどこだろう……。
気が付くと私は病院のベッドで寝ていた。
「……楓は!?」
そう言って勢いよく起き上がるとベッドの隣には父と母が立っていた。
「ひなちゃん!良かった。ショックで貧血起こしたんじゃないかって先生が言ってたわよ」
「あの、杏はどこに……?」
「杏ちゃん……警察にいるわ……いい子だと思ってたのにね」
「でもひなちゃんに何もなくて良かった」
「……うん……」
「あの、私と同じ年くらいの男の子と、お兄さんとお姉さんいなかった?」
その時父が口を開いた。
「全く、あんな連中と仲良くしてるからこんな事になったんじゃないか?」
父はとても不機嫌な様子だった。娘の心配など全然していないようだ。やっぱりいい子でない私は必要ないのか。私は少しだけ淋しかった。父と関わりたくないと思ってしまった。
「パパ!やめて。その人達が連絡してくださったんじゃない。ついさっきまでは居たんだけど、パパとママでもう大丈夫ですって言ったら深々と頭を下げて帰っていったわよ……ひなちゃんの事すごく気にしてたみたいだった」
「……そうだったんだ」
父と違って母の目には、楓と田中さんと樋口さんがそんな風に映っていたのかと思うと安心した。
「全く……お前があんな治安の悪い学校にひなたを入れたいって言うからこんな事になったんだろう?」
「何よ!パパだってこの高校なら、進学率も就職率もいいから賛成だって言ってたじゃない!」
「俺は別の高校が良いって言ったんだ!」
「そんなこと言って」
父と母の喧嘩が始まる。高校を決める時だって、父と母は私の意見をまるで無視だった。勝手に決められた高校を私は受験した。
こんな時まで何をしているのだろう。これも私のせいなのか?
「やめてよ」
私は思わずそう言った。そして、人形の笑顔を作って父と母の方を見た。
「私はもう大丈夫だから、お母さんとお父さんは家に帰ってゆっくり休んで」
父と母はやっぱり私が人形らしくすれば落ち着いてくれる。喧嘩はぴたりと止まった。
「ひなちゃん……これは返すわ。何かあった時に流石に困るものね」
母が渡してくれたのは携帯と財布だった。そしてまだ仕事があるからとそそくさと帰っていった。そしてそのまま父も帰るのかと思ったら私の顔を見てこう言った。
「やっぱり、お前の性格が悪いからそうなったんだろう。その杏ちゃんって子もおまえと同じレベルだったって事だよ。こんな事件起こして本当に親不孝だな……学校にもそのうち話に行かなきゃいけないし、仕事休まないといけないから、職場にも迷惑かかっているんだぞ。お前のせいで」
「……」
そう言って私を睨みつけるような目で見て、部屋を出て行った。
どうするのが正しかった?私が「こうしたい」って自分の意思を持って行動したのがいけなかった?そもそも杏ともちゃんと話し合えたと言えるのだろうか?
杏も人形の私が好きだっただけだったのか。
怖い夢からやっと覚めたと思っていたのに、それはただの思い込みで、私はまだ闇の中をさまよっていたのだった。
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