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不完全な私達  作者: 紅井さかな
16/20

9,5 南田 杏(みなみだ あん)

閲覧ありがとうございます。

至らない点があるかと思いますが楽しんでいただけますと幸いです。


大変長くなりましたが、杏がどうして狂っていってしまったのか、杏の思いが沢山詰まっています!



私は南田杏。人からはよく「明るい」とか「愛嬌があって可愛い」って言われる。ねえ、知ってる?私はこんなのだけど全然強くなんてないの。


ママはピアノ教室の先生をしていた。ピアノを弾くママはカッコ良かったけど、ママは私よりピアノを大切にしているように見えた。だから私はピアノを絶対に弾かないと決めていた。私からママを取るピアノが嫌いだった。


私が小学二年生の時パパとママが離婚した。私は、私の事を一番に大切にしてくれるパパが大好きだったのにママに引き取られることになった。理由は分からない。「大人の事情」らしい。

ママはよくピアノ教室の生徒の「楓くん」の話をしていた。ママは楓くんの話をしている時とても楽しそうで、表情がいきいきしてて私の知らない人みたいだった。私は会った事もない「楓くん」が嫌いだった。



私が小学六年生の時にママは再婚した。そしてピアノもやめるという。新しいパパが来るのは最初は不安だったけどママといる時間が増えるのは嬉しかった。私は「池宮杏」から「南田杏」になった。ママは「楓くん」の話もしなくなった。

新しいパパはとても優しくて、私の事を本当の娘のように大切にしてくれた。ママと一緒に居る時間も増えたし私はやっと幸せになれた。明るくて、優しくて私の大好きなママ。




私は中学生になった。

家では幸せな時間を過ごせるようになったが、私は学校で友達とうまく関わる事が出来なかった。いや、表面上は凄くうまくやれていたと思う。皆に優しくされて、頼りにされて表面だけ見れば私は人気者だった。しかし、本当の友達は誰もいなかった。体育の時間で二人一組になってと先生に言われればいつも余る方だ。それに友達とお揃いの物を持ったり、誕生日プレゼントの交換などした事がなかった。私は本当は一人だった。



私が暗い顔をして学校に通っているとパパとママはいつも気にかけてくれた。「杏、何か悩みがあるの?」「いつでも頼ってね」と。でもママには変に心配を掛けたくないし、パパに対しては「どうせ本当の親じゃないし」と心のどこかで思っていた。


私は誰にも選ばれない。ずっとそう思っていた。私が幼い頃、ママは「ピアノと楓くん」を選び、私は選ばれなかった。そしてパパとママが離婚する時には、大好きだったパパは私を選んでくれなかった。心のどこかでずっとそれがコンプレックスになり、人間関係を築くのが難しく感じていたのかもしれない。……今は幸せなはずなのに。




そうだ!……選ばれないんじゃない。選ぶ側になるんだ。

高校では失敗しないようにしよう。




私はどうしたら選ぶ側になれるのかを必死で考えた。

まず、大人しくて暗そうな子を見つけよう。そしてその子と仲良くなる。その子に他に友達が出来ないようにしつつ、私は他でも友達を作る。そして私が一人になりそうになったらその子の所に行けばいい。これで私は一人にはならない。作戦は完璧だ。私に選択肢ができる。だって今まで皆、私にそうして来たじゃない?私の優しさを利用して来たじゃない。




今度は皆が私に利用される番なのよ。




そんな私は高校生になって「人形」と呼ばれる彼女に出会った。彼女の名前はひなた。ひなたとは昇降口で上履きを履き替えている時に出会った。入学したばかりで不安だったのもあるが、「一緒に教室まで行こう」と声を掛けると、ひなたは「いいよ」とニコニコして答えていた。大人しそうで地味で暗そうで優しそう。私が求めていた理想の子。


それから私はひなたと関わる事が多くなった。ひなたは私の話を何でもニコニコしながら「いいよ」と聞いてくれる。最初は利用するつもりしかなかったけれど段々と心の中で「本当の友達にもしかしたらなれるのでは」と思うようになっていった。でもひなたは、地味だから本当の友達になれば私は皆に偏見を持たれてしまう。ひなたは私をどう思っているのだろう。そして私は徐々にひなたを試すようになった。


まず、ひなたを遊びにさそった。「今度の土曜日遊ばない?」と。ひなたは凄く喜んでいた。今までで一番嬉しそうだった。私はその笑顔を「ブスだな」と思いながら見ていた。

私は土曜日に集合場所にわざといかなかった。集合時間の一時間後、ひなたから携帯に沢山の着信が来ていた。もちろん一回目の着信では私は出ない。五回目の着信が鳴る。

「もしもしー?」

「もしもし?!杏?何かあった?大丈夫?」


それはひなたのとても焦った声だった。私は面白くて面白くてたまらなかった。それと同時に私の事をこんなに心配してくれたのが嬉しかった。


「何もないけど、そんなに焦ってどうしたの?」

「え?遊びに行く約束じゃなかった?」

「日曜日って言ったじゃん!ひなたもしかして待ってたの?」

「……うん」

「もう!ひなたってばドジなんだから!」

「あは、そうだね。ごめんね、変な電話して。何もないなら良かったよ。じゃ」

「うん!また明日ね」


電話を切ったあと、お腹を抱えて笑ったのは言うまでもない。次の日、ちゃんとひなたと遊びに行ったけどひなたは私を責めては来なかったし、むしろ謝ってくれた。私は嬉しかった。そして、全然似合ってない花柄のワンピースをひなたが着て来たから、心の中で大爆笑していた。


私を責めてこないって事はひなたも私の事が好きなのかも。私はそう安心していた。私は徐々に試し行動をエスカレートさせていった。


ひなたが話しかけてきてもわざと聞こえないふりをして、他の子に話しかけてみたり、嫌な係の仕事を押し付けて、終わるころに「後は私がやるからいいよ。疲れたでしょ。もう休んで」と言ってみたりした。少し優しい言い方をすればひなたは私の事を簡単に信じるのだ。   

わざとぶつかってひなたを転ばせた事もある。「ごめん、私最近寝不足で前ちゃんと見えてなくて」などと言い訳をした。ひなたはいつものニコニコ笑顔で「全然いいよ。杏、しっかり寝てね」などと心配の声を掛けてくれた。



私が何をしても、離れていかなくて、私を大切に思ってくれるひなたを私はとても信頼していった。



二年生になって事態は変わってきてしまう。クラス替えがあったのだ。新しいクラスには学年の中でもやんちゃで有名な北村桃が居た。私は桃が嫌いだった。皆に一目置かれて、皆何でも桃の言う事聞いていて、そんな様子が羨ましかった。何の努力もしなくても彼女は最初から選ぶ側の人間なのだ。

そんな桃はひなたに目をつけていた。よく「良いパシリ」と言ってひなたを利用するようになったのだ。私が先にひなたを見つけたのに。ひなたも「いいよ」と桃に対して何でも答えていた。私だけに向けていてくれたはずのニコニコの笑顔で。私はそれが許せなかった。


ひなたは私の事が一番好きじゃなかったの?私の事を最優先に出来なくなったひなたは心病んでるんじゃないかと思って、だから私はひなたを心配して「大丈夫?」と気遣いの言葉をかけていた。なのに、ひなたは私の気持ちに何て全然気づかず、いつもニコニコ笑っていた。


だから私はひなたをいじめる事にした。もちろん私がいじめてる事はバレないようにして。

毎日毎日、ひなたの机に仏壇用の花を置いた。私はいつ「杏助けて」とひなたが来てくれるのだろうと楽しみにしていた。けれどひなたは、花なんて全然気にしていないようだった。ずっとニコニコしていた。


だから私は別のやり方を考えた。桃とひなたの仲を引き裂くために。


たまたま梢と先生が密会している所を見つけてしまった。二人にはあまり興味がなかったが、もしもの時二人の事も、これを出しに利用しようと思っていた。梢が時々ひなたと話していることもあったから、内容を聞き出したいし。先生ならひなたの個人情報を何でも知ってると思うし、きっと何か役立つだろうから。それにしても梢も変わった趣味よね。先生と恋なんて。遊ばれているに決まっているのに。




そして桃の行動を観察した。桃は同じクラスの東原大河の事がどうやら好きなようだ。ひなたが居るくせに。しかも桃と大河はすでに仲が良くてお互い告白待ちと言う感じだ。

でも大河は本当に馬鹿だ。大河は体育の授業の途中で倒れたことがあった。それで大河が保健室で休んでいる所にスポーツドリンクを持って行ったのは、先生に頼まれたひなただった。それなのに大河は勝手に桃と勘違いして燃え上っていた。私はその一部始終を遠くから見ていたのだ。本当に馬鹿で面白い。だから大河は簡単に動かせると思って近づいた。私の読み通り、まんまと大河は引っかかった。そして晴れて私の彼氏になった。

大河に「桃と仲良くなりたい」と言ったら何とも言えない反応をされた。私はそのために大河に近づいたのに意味がない。本当に馬鹿で使えない。





そして画鋲事件を起こした。桃とひなたの上履きに画鋲を入れたの。二人の仲を引き裂くために。桃は絶対にひなたを犯人と疑うと私は確信していた。

上履きに画鋲を入れるなんて、いかにも暗くて、大人しくて、普段パシリにされてそうな人が、やりそうな手口じゃない?


こんなにうまくいくとは思わなかった。でもひなたが自分のポケットに画鋲を入れていたのは想定外だったな。本当は桃がひなたを責めて、ひなたが謝ってその後「杏どうしよう」って私の所に来てくれるシナリオのはずだったのに。大河が暴走したせいでひなたはもう学校へは来られないかもしれない状況になってしまった。



でもきっと私に会いたくなるはずよね。だってあんなに私に優しくしてくれたじゃない?私の事好きって事でしょう?




大河がやっと協力してくれて、桃に近づく事が出来た。桃もやっぱり馬鹿で簡単に仲良くなることが出来た。そして、桃と大河の仲を応援すると言えば完璧に私の作戦はバレない。ひなたが見てるであろうSNSに桃は写真を上げていた。計画通りだ。これでひなたが不安になってくれるだろう。私に会いたくなってくれるだろう。




しかし、ひなたから連絡が来ることはなかった。私からもしなかった。だって私は選ぶ側だから私から連絡するのはおかしいでしょ?



ずっと桃と大河と三角関係を続けていた。もちろん桃には内緒で。桃と仲良くなってからは私もクラスの皆に一目置かれるようになったし、大河には私との事を、「桃にバラす」と言えば、何でも言う事を聞いてくれる。もう最高。




私は完全に選ぶ側になった。

でも、ふと気づいた。私の幸せってなんだろう。優越感に浸る事?




せっかく選ぶ側になってもやっぱり、私の所に戻って来ないひなたの事が少し気になっていた。このまま学校辞めてしまったらどうしよう。もしも、桃と仲が悪くなったら、私はまた一人になってしまう。その時に私を受け止めてくれる人を作らないと……。



そんな時放課後、桃達とたまたま行ったカフェでひなたを見つけた。最初はひなただと分からなかったくらい、髪型も服装もすっかり変わってしまっていた。何があったの?私の知らない所で。


 私はあの地味で大人しいひなたが好きだったのに。そしてひなたの隣にはスラっとした優しそうなカッコイイ男の子がいた。

何で?ひなたは私の隣にいるべきでしょ。その男の子のせいで変わってしまったの?


だから仲を壊してやろうと思ってひなたに「紹介して」と言った。でもその男の子は私を見て凄く驚いていた。「……香織……先生……?」と私のママの名前を呼んでいた。嫌な予感がした。




そしてひなたが久しぶりに学校に来た。私は心が躍るほど嬉しかった。

この時私は梢に何も言ってないのに梢は勝手に暴走してひなたに当たり散らしてくれた。この子はいろんな意味で優等生だ。そして盲目の恋は怖いと思った。先生の為にここまでするなんて。

ひなたの事をもっともっと追い詰めなきゃ!今日こそ「私にはやっぱり杏しかいない」って言わせてやるんだから。

……でもひなたはいつまでも言わない。だから優しくする振りをして突き飛ばしてやった。



ねえ、前みたいに言って?杏ごめんね。杏が無事ならそれでいいよって。



でもひなたは、前みたいにニコニコ笑う事もなく、苦しい表情をしていた。人間らしく。そして走って逃げてしまった。桃と大河とひなたを捕まえる。


早く言いなよ?杏助けてって。限界でしょ?


そう思って期待していたのに、あの時の男の子が消火器を振り回して現れ、ひなたを連れて行ってしまった。


何でうまくいかないの?どうすればひなたは私の所に戻ってきてくれる?

私はその晩、一生懸命に考えを巡らせた。あの男の子が気に入らなかった。




 次の日、ひなたが校門で私の事を待って居てくれた。私はとても嬉しかった。まさか向こうから来てくれるなんて。しかも私と二人で話がしたいだなんて。やっぱりひなたは私の事が好きだったんだ。

 でも話の内容は思っていたのと違った。まさか防犯カメラの映像を持ってくるとは。

 




そしてそこに居たのはもう私の好きなひなたじゃなかった。ひなたはもうお人形じゃなくなってしまった。やっぱりあの男の子のせいだった。私とひなたは同じなの。でも私が選ぶ側で、ひなたは選ばれる側。なのに何で?何でいつの間にか私が、ひなたに選ばれない側になっているの?





そしてひなたはあの男の子の事を「楓」と言っていた。


久しぶりに聞いた。私の大嫌いな名前。私のママとの大切な時間を奪った人。





「許せない!!私のひなたをかえして!!」

私は気づくとひなたにナイフを振りかざそうとしていた。私の大好きだったひなたをこのまま残して置きたかったから。これ以上ひなたに変わっていって欲しくなかったから。

これは本当に危ない事があった時に使おうと思っていた、護身用のナイフだった。まさかこんな所で使う事になるなんて。


梢の事は馬鹿に出来ないね。私も充分に盲目だった。



ひなたの脅えている顔が見える。今ならまだ許してあげるのに。早く言ってよ。「杏ごめん、私が間違ってた」って。


「ひなた。大好きだったよ。バイバイ」






ひなたが全部悪いんだよ。



最後まで読んでいただきありがとうございました。

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