8,真実
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至らない点があるかと思いますが楽しんでいただけますと幸いです。
目を覚ますと外はもう暗かった。外灯に集まっている虫が怖かった。
「か、帰らなきゃ!怒られる」
私は急いで身支度を整えると、楓、田中さん、樋口さんの居るであろう、リビングへ向かった。
「楓―?」
「あ、ひなた起きた?」
「ひなたちゃんが好きな物いっぱい作ったのよ!楓も手伝ってくれて!もうすぐできるからね」
楓と、樋口さんは夕食の準備をしていた。
「あ、あの、ありがとうございます!でも私帰らないと。いろいろしてもらったのに本当にごめんなさい。本当はすごく食べたいし、すごく嬉しいです。携帯もないから家に連絡もできないし……」
「大丈夫だって。もう家に連絡入れてあるから」
そう言って楓はニコニコ微笑んでいた。どうやって?あの両親をどうやって説得したの?
「え?どういう事?」
「ひなたが寝てる間にいろいろしておいたから、安心して」
「そうよ。御両親も納得してくださってね、とりあえず今日はうちに泊まっていいからゆっくりしていって。お腹すいたでしょ。ご飯食べてからゆっくり話しましょ」
樋口さんも微笑んでいた。本当に大丈夫なんだろうか。あの人たちは、私の両親は外面だけは良いから、納得したように答えて、帰ったら私はまた怒鳴られるのではないだろうか。
「ひなたちゃん、顔色悪いけど大丈夫?もう少し休む?」
「いえ、やっぱり帰ります」
「本当に大丈夫だから。ひなたがもう家に帰りたくないって言うなら、ずっとここで受け入れるくらいの覚悟俺達は出来てる。俺達を信じて」
気づくと田中さんが後ろに立っていて、そう言ってくれた。
「分かりました」
まだ不安はあったけど、私は帰らない事を選んだ。本当は帰りたくなんてなかったし、私だってできればずっとここにいたい。家族の事も、学校の事も全部全部投げ出したかったから。
私の為にと、樋口さんと楓が作ってくれたハンバーグとスープとサラダはどれも最高においしかった。ハンバーグはナイフを入れた瞬間、肉汁がジュワっとお皿いっぱいにあふれ出し、デミグラスソースと良く絡み合い、口の中でほろほろと溶けていく。程よい焦げ目もまた、香ばしさを引き立ててくれた。何個でも食べられる気がした。そして四人で食卓を囲むという事が最高の調味料だと思った。私は家族みんなで食卓を囲んだことがなかったから、他人と楽しく会話をしながら食べるご飯がこんなにおいしいと言う事を初めて知ったのだった。
食事と片付けが終わり、皆でテーブルに着くと田中さんが口を開いた。
「今後について話し合おう」
私の事だよね。沢山助けてもらったしこれ以上は迷惑かけられないよね。
「僕は、ひなたがされた事を絶対に許さない。おかしいよ、あんなの」
「あたしもよ。あたしだってオネェだから今までの人生いじめとかいろいろあったけど加害者側は何もわかってないのよ!本当に許せない!」
楓と樋口さんの表情から心底怒っているのが感じられた。
「あの、これ以上は皆さんに迷惑はかけられません。いろいろありがとうございます」
その時楓が勢いよく立ち上がった。
「何言ってんの!そんなの良いんだよ。ひなたが、もういいって言っても僕は絶対にあの人達を許さない。それに僕がバイトに誘ったから、ひなたと家族との関係もいろいろあったって言うのもあるし、僕にも責任取らせてよ」
私以上に私の事に怒ってくれて、真剣に考えてくれて。こんな人は初めてだった。感情がこみあげてきて胸が、心がじんじんと熱くなる。
「そうよ、ひなたちゃん。こういう時は甘えて、頼ってくれていいのよ」
親以上に私の事を考えてくれている。私の事を想ってくれているように感じる。こんなのも初めてだ。
「……ありがとうございます」
一番冷静な田中さんが話を進めてくれる。
「皆落ち着いて。まず俺が今進めていることを話させて。ひなたの事を撮影しようとした女二人の携帯はすでにハッキング済みだ。だから、動画や写真が流出することはないから安心して」
「え?!そんなドラマみたいな事、出来るんですか?!」
「まぁ、良い子は真似しちゃダメだけどね」
そんな犯罪にもなりかねない事を、自分の為じゃなく、人の為にこんなに余裕な顔してやってのける人も初めてだ。
「後は、学校の防犯カメラの映像も繋いで見られるようにしたからそこから証拠とか、気になる事を洗い出していこう」
「ありがたいですけど、そんな事して本当に大丈夫なんですか?」
「刑事の知り合いもいるしね。俺昔少しだけ警察関係で働いてたんだ。内緒だけどね」
「凄すぎます。本当に何者なんですか……」
本当にすごい人達だ。私は呆気に取られてしまった。
「よし!じゃあ皆で防犯カメラの映像のチェックに入ろう」
「ありがとうございます……」
防犯カメラに映る自分の姿を見ながら私は少し前の自分の事を思い出していた。母が切ってくれる重たいロングヘア。眼鏡をかけていつも笑顔を作っていた。私は人形だから、意見を言う義務なんてないし、皆が嫌がるような事を喜んで引き受ける。それで皆が笑顔になるのなら幸せだと思っていた。
でも今ならそれが間違っているという事がわかる。
私自身を一番苦しめているのは私だった。自分に嘘をついて、自分の感情を抑え込んで、自分と向き合ってこなかった。怖かったから。何かが変わってしまう事が。状況がもっと悪化して苦しむことになるんじゃないかって。本当は変えたかったはずなのに逃げていた。一人だったから。
今ならちゃんと向き合える気がする。一人じゃないから。
「そう言えば、楓。助けに来てくれた時、何で制服着てたの?」
「ほら!形から入ろうかなって。僕一応、元在学生だったし、まだ馴染めるかなって。どうだった?」
悪戯っぽく楓は聞いてくる。
「……似合ってたよ?」
「ありがとう……」
楓は照れたように口をとがらせていた。私は楓のその表情が何だか可愛くて笑ってしまった。
「あっ!!ひなたこれ!あの人じゃない?!」
「え?本当だ……」
「これも……これも……?」
そこには今までの学校生活で私に嫌がらせをしていた犯人と思われる人物が映っていた。よく知っている人物。私の机に毎日花を置いていたのも、靴に画鋲をいれたのもきっとこの人だ。この人が犯人だとすれば昨日の一連の騒動とも上手くつながる。でも動機はよくわからない。どうしてなのだろう……。
「よし!この部分の動画を切り取って証拠をまとめよう」
「おっけい。あたしはこっちのほうやるわ」
私はそっと立ち上がった。
「あの、私、この犯人と思われる人と二人で話してみようと思うんです。怖いですけど、ちゃんと向き合いたいって思ったんです。皆さんと出会ってそう思えるようになったんです」
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